「なぜ痛み(陣痛)がとれるのか? その4 」の中で、
「手術のときは完全にすべての感覚をブロックする濃い濃度の局所麻酔薬を使いますので足も自分で動かすことができなくなりますが、無痛分娩ではご自分でいきんで出産しますし、陣痛が弱まっても困りますので、足を動かしたり子宮の収縮をつかさどっている運動神経の働きは残すため濃度を薄くした局所麻酔薬を使用します。」
と書きましたが、わかりにくいですよね。
濃い濃度の局所麻酔薬を使うと、足が動かなくなる。
無痛分娩のときは、濃度の薄い局所麻酔薬を使う。
これって、一体どういうこと?
なんとなくわかったような、わからないような、、、
これには、神経線維の種類と太さが大きく関係しています。
神経線維にはいくつか種類があり、それぞれ太さも違います。
ちょっと詳しすぎる表ですが、下の表を見てください。(右端の伝導速度というのは無視してください。)
種類 | 役割 | 直径 (μm) |
伝導速度 (m/sec) |
Aα | 筋紡錘からの求心性情報、骨格筋支配 | 15 | 100 |
Aβ | 触覚、圧覚 | 8 | 50 |
Aγ | 筋紡錘への遠心性情報 | 5 | 20 |
Aδ | 痛覚(一次疼痛 )、温覚、冷覚 | 3 | 15 |
B | 交感神経節前線維 | <3 | 7 |
C | 痛覚(二次疼痛 )、交感神経節後線維 | 1 | 1 |
たくさんの種類の神経線維があり、太さもまちまちですね。
ものすごく大雑把に説明すると、運動神経の線維は太くて、痛みをつかさどる痛覚の神経は細いのです。
分娩のときに運動神経が関係しているのは、子宮が赤ちゃんを押し出そうと収縮する力、そして、妊婦さんがいきむ力、です。 どちらも弱まると困りますよね。
運動神経の働きは弱めずに、痛覚だけをブロックしたい、というわけです。
幸い、運動神経は太くて、痛覚の神経は細い
太い神経をブロックするには、濃度の濃い局所麻酔を使う必要がありますが、細い神経をブロックするには濃い濃度は必要ありません。
ですから、薄い濃度の局所麻酔薬を使うことで、運動神経のブロックを最小限度に抑えて、痛覚のほうだけをブロックするということができるわけです。
この桜の木の幹が運動神経で、
この花の細い茎が痛覚の神経線維だとします。
あくまでもイメージですが、この二つに青い色の水をやって、花を青く色づけるために必要なお水の量、全然違いますよね。
そんなかんじでイメージしていただくとわかりやすいかもしれませんね。
TOKYO産科麻酔チーム