この人の文章は楽しい。彼が辿った研究の軌跡とともに、見ている世界を叙情的に織り込んでまざまざと読んでいる自分にもその場のイメージがリアリティをもって飛び込んでくる。アメリカの人物伝は物語の現場を逐一事細かに書き綴ることで読者の心を揺さぶるような体感を大事にしている。それと同じような感覚をもって読んだ。筆が滑らかで思わず最後まで読み抜けた。
生命とは何か。自己複製を繰り返し、栄養によって新しい物質を取り込み、エントロピーの増大に伴い体を構成している物質が崩壊する前に、その物質を除去し、新しい構成物質を構築して、体全体の形を維持している。時間を経ると物質的にはまったく異なるものに入れ換えがある。著者は動的平衡と呼ぶ現象を生命の特徴としている。カオス・フロンティアと呼ばれる現象だ。
ただ、少し話しの論点がぼやけたというか逸れているような感じだ。タイトルの生物と無生物のあいだに答えるための話のまとめ方が別の方向に向かっていったような印象だ。まとめきれていないというか、読み終わった後に読者に生命とは何かということの答えを再構築させるような文章になってしまっているので、もう少し明快に生命とは何かを結論づけるような文章があればいいと思った。
ともあれ、科学者の前に広がる荒涼とした未開領域をどぶ板を踏んで地道な茨の道の先にある光り輝く希望を描くためにリズム感よく筆を走らせることによって自然科学への思いを膨らませる文章だということがこの本の価値だと言える。
貴方は貴方だけのものじゃないのよ
この世に自分だけのものなんてひとつもないの
みんな誰かと関わって何かを共有してる
だから自由にならない
だからこそ面白くて悲しくて
愛おしいの
by壱原侑子@xxxHOLIC