僕の社会人デビューは、国内の大手人材開発会社(要は研修会社)でした。2000年4月に地方都市の配属を命じられて、5月から営業開始。3年半を過ごしました。


地方で企業内研修の営業をすると、必然的に「経営者」とお話をする機会が増えます。特に僕が配属された地方は、従業員数1000名以上の大企業が少なく、大きくても200名程度の比較的、中小規模企業が多いのです。僕も随分と、経営者の皆さまにお世話になりました。


そんな中、ある経営者の言葉が、今でも僕の脳裏に焼き付いています。


「内藤君、教育研修って、どうして必要なんだろうね? いや、商工会議所の会合や経営セミナーとかに参加をすると、人材育成だ!企業は人だ!って言うんだけど、それはまあ、そうなんだろうけど、でもどうして教育研修って考えに結び付くんだろうね?ウチの会社はそんなに大きくないし、僕は社員の顔と名前、家族構成まで知ってるよ。細かい人事制度や2日間の集合研修とかではなく、日常的にしっかりと指導していけば良いんじゃないかな~」


序章では、教育と研修の違いについて考察をしてみました。それを踏まえて、本章ではいきなり本質的な疑問、「会社は、なぜ、企業内教育研修を実施するのか?」を考えてみたいと思います。


■企業内教育について


まずは教育について考察をします。ここでいう教育とは、職場において日常的に行われている「指導」や人事考課面談時における上長からのフィードバックなど、主に「OJT」と呼ばれる分野を指します。


1.「何を」教育する必要があるのか?


職場で行われている教育には、大別して3種類があります。


A.仕事に直接/間接的に関わりのある「知識」「技能」「スキル」「行動」の伝授

B.仕事に対する姿勢、組織観、職場内の立ち振る舞いなどの啓発

C.対象者の、価値観、人生観、哲学、人間性などの啓発


Aについては、あまり議論の余地がないと思います。BとCは、一見すると同じように見えますが、ここではあえて分けます。その理由は後述します。


A.仕事に直接/間接的に関わりのある「知識」「技能」「スキル」「行動」の伝授


仕事には、そもそも「知らなければ出来ないこと」があります。例えば・・・


異動した人は、前任者から引き継ぎを受けます。新入社員なら、新入社員研修で、あるいは上長や先輩から教えられます。仕事をしていく上で最低限、必要な情報・知識・技能を修得、あるいは引き継ぐ、こうした教育は、企業が存続するうえで不可欠であり、全世界で普遍的に行われている教育です。


また、それを知る、あるいは修得することで、仕事のフォーマンス(生み出す付加価値)を高めることに繋がることがあります。


営業ならば、同業他社の動向や先輩社員が作ってきた提案書、人材開発担当者ならば、教育研修会社の見極め方など・・・ これらは知らなくても仕事をすることが出来ますが、知っていることによってより生産性が高くなります。


企業が営利団体である以上、構成する社員には少しでも高い生産性を発揮してもらいたいと考えます。その点からも、「A.仕事に直接/間接的に関わりのある「知識」「技能」「スキル」「行動」の伝授」は必要なものと言えるでしょう。問題は、BとCについてです。


B.仕事に対する姿勢、組織観、職場内の立ち振る舞いなどの啓発


「オレが若い頃なんて、土日なんて関係なかった。仕事は徹夜してでもやり遂げたもんだ!」

「入社して30年、有給休暇なんて病欠以外に取ったことないよ」

「まったく最近の新人たちは好き勝手を言う。若いやつは上司に酌したり、飲み物が無くなったら率先して注文したりするもんだ。このあいだなんか、カラオケが嫌いですって先に帰りやがった。どうなってるんだ?」


これらは、40歳~55歳くらいの現役マネジャーたちの実際の声です。共感する人もいらっしゃるかも知れません。しかし、現役大学生から20代前半の「若手」からすれば、ナンセンスと思われます。


「土日?徹夜?それってつまり、仕事の奴隷ってことでしょ?仕事以外に何も無いんじゃないの?」

「有給を取ったことないって、それって自慢どころか、自己管理や家族のことも考えない人間ですって言ってるようなものだよ」

「なんで上司に酌しなきゃいけないの?飲み物なんて、自分で頼みなよ。カラオケ嫌いも個人の好みでしょ?だいたい、接待とかでビジネスに繋がるならともかく、職場の人と飲む理由なんてないでしょ。友達ってわけじゃないんだし・・・」


ジェネレーションギャップと言えばそれまでですが、この声の違いは正に、「B.仕事に対する姿勢、組織観、職場内の立ち振る舞い」に相当します。このBを啓発する、ということは、上記の「若手」を「40歳~55歳の現役マネジャー」のように考え、行動する人間にする、ということです。果たして、これは可能なのでしょうか?仮に可能だとして、正しいことなのでしょうか?


データが無いので主観になりますが、このBこそが、職場で最も多く行われている「教育」ではないかと思います。Bの教育は必要なのか?必要だとしたらどのように教育すべきなのか?


次回はこの「B.仕事に対する姿勢、組織観、職場内の立ち振る舞いなどの啓発」について考えます。


(つづく)