『カニシカ王の大きな塔』




  むかし、インドにガンダーラという国がありました。
  釈尊がなくなられて、四百年ぐらいあとのこと。このガンダーラを、カニシカ王がおさめていました。
  カニシカ王は、人びとが幸せにくらすためには、何が一番よい方法かと、いつもちえをしぼって、力をつくす王さまでした。
  国を大きく広げ、大王とよばれるまでになりました。
  しかし、カニシカ王は、仏法の教えをなかなか信じようとしませんでした。なぜならば、他の国から伝わったべつの教えを信じていたからでした。

  ある時、カニシカ王は狩りに出て、草原にいた白いウサギを追いかけました。


  けれども、いつの間にかそのウサギを見失ってしまいました。ふしぎなことに、そこには一人の牛かいの少年がいました。
「お前は、こんなところで何をしているのか?いつあらわれたのだ」と、カニシカ王はたずねました。
  少年はしずかに言いました。
「釈尊のよげんには、こうあります。『ある国王が、ここに大きな塔を建てるであろう。私のほねは、その中におさめられるであろう。そして、王の名前はカニシカという』と。あなたこそ、正しい仏法を守り、ひろめていくお方であります。私はそのことをお伝えするために、ここにきました」と。

  言い終わると、少年のすがたは、どこかに消えていました。カニシカ王は、たいへんおどろき、自分の名前が釈尊のよげん通りであることを大いによろこびました。そして、正しい仏法を学んでいこうと、かたく心にちかいました。


  カニシカ王は仏法を学ぶために、いろいろな僧たちに話を聞きました。
「どれが正しい教えなのか?釈尊は何と言われたのか?」
  仏法をもとめる王の目は真剣で、きらきらと輝いていました。
  しかし、僧たちの話は人によってちがい、釈尊の本当の教えは、わかりにくくなるばかりでした。
「真実は何か?釈尊の教えられた言葉はどこにあるのか?」
  カニシカ王はひとりなやみました。
「そうだ。正しい教えをはっきりさせるためにも、また、仏法をひろめゆくためにも、釈尊の本当の教えを集めることにしよう」
  カニシカ王は、仏法についてくわしい脇尊者(キョウソンジャ)に相談しました。
  脇尊者を中心に、五百人の僧たちが力をかしてくれました。
  大王からのたのみです。僧たちはみな真剣でした。それはそれは長い年月がかかりましたが、やがて、多くの教えをまとめることができました。
「もしも未来にまちがった教えや、かりの教えをそのまま伝えれば、それを信じた人びとは不幸になってしまう。よかった!よかった!みんなありがとう」
  カニシカ王は、何どもお礼を言いました。


  そして、仏法を守るちかいとして、プルシャプラという土地に大きな塔をたてました。
  できあがった塔を見あげながら、カニシカ王は、釈尊の教えをまとめるために、ともに頑張った人たちの姿を思い出しました。
  "本当の大きな塔は、仏法をもとめる、私たちの心の中にあるのかもしれない。そして、未来にもまた、心に大きな塔を持った、すばらしい仏法の指導者たちがあらわれるに違いない。


                                                          おわり



【カニシカ王】
カニシカ王のお話は、「四条金吾殿御返事」(1119㌻)などいくつかの御書の中に出てきます。カニシカ王は500人の僧と一緒に、仏の教えをまとめました。その時に集められた教えが、200巻もある大毘婆沙論(ダイビバシャロン)と言われています。
  カニシカ王ははプルシャプラ(今のペシャワル)に大きな塔建てたことでも有名です。
  正しい教えを弘めようと行動する時、その人の心の中には、すでにカニシカ王が建てた塔よりも、もっと素晴らしい心の塔ができているでしょう。