窓から差し込む柔らかな陽光に身を包まれながら、その甘美なまでの心地好さに微睡み、ミリアムは己の心の内を覗いていた。
もしも、この村で生まれ、この村で死んでいけるのだとしたら。
そうしたら、それはどれだけ素敵なことだろう。
村をまたぐスタイド川の桁橋を何度渡るだろう。
――ラッシュはいくつになっても橋を渡るのを怖がるのかなぁ。
川の南に広がる牧草地をどれだけ歩き回るだろう。
――ブルーは羊の世話をさぼらなくなるのかなぁ。
北に広がるディビールの森をどれだけ歩き回るだろう。
――ブレイズはいつか森に住むようになっちゃうんじゃないかなぁ。
もしも、この村で生まれ、この村で死んでいけるのだとしたら。
そうしたら、きっと私は感謝するだろう。
私を育てたこの村の、この教会で。
私では無い、他の誰かに。
私と同じように想い、叶えられずに生きる、他の誰かに。
そうして物思いに耽っていると、いつ隣に来たのだろうか、――まだ乳飲み子だった頃に、戦で両親を失ったミリアムの育ての親、アンティ・クープルがミリアムと同じように窓辺に腰を掛け、同じように村を眺めていた。
優しげなアンティの横顔をミリアムはまじまじと見つめ、まるで童話に出てくる優しいお母さんを絵に描いたような人だなぁ、とそんなことを思った。
その視線に気付いたアンティは、その視線の意味をどう受け取ったのか、「あなたも一緒に行きたいんでしょ?」と、眉根に皺を寄せ、それでも優しい声で問いかけた。
十数分前、森に遊びに行こうとミリアムを訪ね誘ったブレイズの話なのだろう。
そう問われミリアムはアンティから視線を外し、窓の外を眺め、考える。
ブレイズはいつもの調子でミリアムを誘いに来た。
いつもなら何の迷いも無く誘いを受け、ついて行っていたはずだった。
だが、ミリアムはその時返事を出来なかった。
今の自分は、自分だけの判断で動いてはいけないと思ったから。
それでも自分の境遇を恨めしく思えないのは不思議だったが、結果ミリアムは森に行かない方が良いのだろうと考えていた。
ミリアムからの返事が無いことを意外に思ったのか、アンティはミリアムを見つめたまま優しく微笑む。
「そんな風に難しく考えなくて良いの。行ってきなさい。
今日までは、みんなと一緒なんだから」
その言葉が厳しい現実を突きつけるものであっても、アンティにはそうすることしか出来なかった。
せめてこの村で過ごす最後の時まで、ミリアムには笑っていてもらいたかったから。
そうしたアンティの心情の全てがミリアムに伝わったわけでは無い。
ただ、それでもその言葉はミリアムの背中を押し、迷いを打ち消した。
明日からの自分が今までとは違うものになろうとも、今日この日までは、今までと何も変わらないままでいれる。
厳しい現実に向き合うからこその喜びだったのだろう。
ミリアムはそれがたまらなく嬉しかった。
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