東京国立近代美術館の解説ガイドスタッフとして活動しています。
毎日午後2時より、スタッフが日替わりで所蔵品のガイドをしています。
興味をもたれた方はぜひご参加ください☆

ある日のガイド日誌(#3)・・・#1、2もそのうちアップします
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天気:晴れ
参加者:3~8名
テーマ:ハッケン!!
所要時間:約60分
作品:菅木志雄「景留斜継」(すが・きしお/けいりゅうしゃけい)
   アントニー・ゴームリー「思索/反映」
   元永定正「作品」/「作品66-1」
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今回は現代アートに絞ったガイドにチャレンジ。
テーマとした「ハッケン!!」は、第一印象の「?」や「!」が段階を経て変化していけるようなガイドを、と思い掲げました。特別展最終日は人が多いのかも?と思っていたら3名(うち1名が友人)でのスタート。最終的に8名のうち半分は友人という参加メンバーとなりました。


菅木志雄「景留斜継」(すが・きしお/けいりゅうしゃけい)
 ガイドにあたって、どんなキーワードを用意したらいいだろうか?とこの作品の面白さを探ってみたら、わたしにとってのひっかかりが「空間を意識させてくれる」ということでした。



 そこで、大きく3つの問いかけを用意しました。

【問1】ワイヤーは何本あるでしょうか? → 3本

【問2】そのワイヤーはどことどこをつないでいるでしょうか?
→ 四角い空間の右隅と左隅(あるいは上の右と下の左?)。立方体の空間をナナメに横切るようにワイヤーがある。3本とも。
ここで、一番大きな展示室を横切るワイヤーと自分が立っている位置との関係を、床に置かれた木枠の中で示してくれるお客様がいらっしゃいました。「ただの空間」が「「ワイヤーで仕切られた構成された空間」に変わってくれたのがよくわかりました。

【問3】奥の壁側に立って、床置きの木枠と入口の壁を眺めて、何か気づくことはありますか?

→ 床置きの木枠が入口の開口部の大きさを横にしたサイズと気づくのはちょっと難しかったようですが、「わからなかった」と気づいたことが、またこの空間のおもしろさにつながってくれたと思います。

 情報としてお伝えしたことは2点。
・作家に制作を依頼した際、この空間に強い興味をもち、この場所にあわせて制作をしたこと
・右側の壁の溝や、下から見上げたときの階段の天井のダウンライトが目玉のように見えることを意識して制作したとのこと

 みなさん、最初の感想は、これ作品なの?どこまでが作品なの?と言っていましたが、最初の「え、これ?」から、立った位置によっての空間の表情の違いに気づいてもらえたようです。
 最後にタイトルに注目して思いをめぐらせてもらいたかったのですが、時間配分を勘違いして省略してしまったのが悔やまれます。「景留斜継」、ダイレクトに漢字変換できないので、わたしは「景色」「留める」「斜め」「継ぐ」と変換します。それぞれの言葉が作品と深く関わっていると思うので、次回取り上げる際には必ず問いかけて見たいと思います。



アントニー・ゴームリー「思索/反映」

 他のガイドスタッフさんからネタをいただき、「何体あるでしょう?」という質問からはじめてみました。
 鏡だと思っていた方もいたので、1体、2体、3体、いや4体かも…。ガラスに3重に映っている、と内側からじっくりみてもらってから、外に出ました。外側の像を見るや、みなさんびっくりした様子。「内側とこんなに違うなんて!」かなり錆びていること(鉄でできていること)、近づいてよく見るとくもの巣がはっていること、よく晴れていて外側が明るかったため、中にいたときよりもガラスが鏡のような効果をもち、自分の姿が像と一緒に良く見える、など見た目についていろいろ話していくうちに、内面的な話もでてきました。
「外側が本来の年老いた自分、内側が若かりし日の自分」「内側は見栄を張っている他人に見せるための自分、外側が本来の自分」などなど。

 ゴームリーの制作中の写真にはやはりみなさん関心を寄せられていました。作者本人の体を石膏で型取りし、鋳造するというスタイルをとっています。そこには精神性が強く反映されていて、石膏の型が固まるまでの間、さまざまさポーズをとったままじっと気持ちを静め集中をしているのだといいます。
 見ているうちに、自分の内面を見つめさせる力を持つこの作品は、そもそもそうした作者自身の内面への問いかけの上に作られたものなのです。



●元永定正「作品」(1961年)/「作品66-1」
 1961年の「作品」についての自分の印象は、「ポップ」でした。50年以上前の作品であるけれど古さを感じないのは、今60年代が注目されていることと関係があるのかないのか…。


【問1】いつごろ描かれた作品でしょうか?
→ 30代前半の男性が60年代じゃないでしょうか、とずばり答えてくれました。色使いのポップさが60年代を思わせるとのこと。そういう見方もできるのだと、こちらが勉強になりました。

【問2】色やカタチなど、画面の中で気になるところはどこですか?
→ 鮮やかな赤と黄色はまず気になる。色の重なり方、広がり方をみると、どうやって描いたのかよくわからない。色の重なり方・広がり方に動きがある。などなど。







「作品66-1」


大画面のため、近くから遠くからいろいろ見てもらうために「よくよく近づいて見ると、髪の毛なのか筆が抜けたのか、毛が張り付いているんですよ」と言うと、素直に画面に張り付くように眺めてくださいました。

【問1】上下、どちらから絵の具を流しているでしょうか? → 上から下

【問2】なにか連想することなど、どんなことを感じますか?
→ 「たましいみたい」「この世ではない世界のよう」「地底からわき上がるマグマのよう。噴き出している感じがする」「それぞれが断崖絶壁で、上に描かれているマルのところが地面なんだけど向きがそれぞれだから不思議な感じになっている」「さっき見た方(61年の「作品」)の方がいい。こっちはマルをわざと描いたという感じがしてあんまりよくない」「勢い良く登っていく感じ」などなど。
 みなさんの感想が、描き方としては上から下へ絵の具をたらしたと思っているにも関わらす、受ける印象としては下から上へ向かうという動きを感じ取っているのが興味深く、わたし自身もそう感じたのでお伝えすると「あっ」と驚かれた様子でした。

 元永定正さんは、1922年三重県生まれ。55年関西を拠点にする[具体美術協会]に参加、「人のやっていないことをやれ」という吉原治良の指導のもと、さまざまな作品を作り出した。その中のひとつが、キャンバスに絵の具を置いて流すことで画面を作り上げた今回の作品。
 84歳になる元永さんが、50年近く前のご自身の作品の前で語ってくださったことに、絵の具は色によって、またメーカーによっても重さが違うので、同じように置いても流れ方が違うとのこと。どんな画面が出来上がるかは自然にまかせていたのだそうです。流し始めて、時間がかかるから飲みに行って、戻ってくると傑作が出来上がっている、と関西弁でにこやかにおっしゃっていました。

※まだまだ現役の元永さんの最近の作品は、ギャラリー「ときの忘れもの」のサイトでご覧いただけます。

 絵本の挿絵、著作も数多くあり、ガイドの最後には『きたきたうずまき』『ちんろろきしし』を回覧。意味を持たない文字と抽象画を組み合わせた、どこから読んでも楽しめる1冊です。絵本や最近の作品は、アクが抜けてかなりシンプルになっている、という感想がありました。

 今回はとにかく、最初に感じた印象から1歩でも2歩でも深めてもらえるように、それを実感していただけるように、小さな発見を繰り返していけるよう努めました。
 よくガイドに参加しているという初老の男性から、「自分は4F、3Fあたりの絵(安井曽太郎など)が好きだけど、ガイドに参加すると自分では素通りしてしまうような絵をじっくり見させてもらえるから楽しい」という言葉をもらいました。いつもなかなかみなさんのガイドに参加できないのですが、お一人おひとりが楽しいガイドを積み重ねていってくれているからこそいただけた言葉だと思います。また次も参加したくなるようなガイドになるよう、わたしもがんばっていこうと思いました。


最後までおつき合いいただき、ありがとうございました。

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