受難の源流

第1章 - 梨花女子大学校教授の免職事件

8. 傍観できなかった女性神学博士

 

金永雲副教授は、かつて朝鮮キリスト教界を覚醒させた李龍道牧師(一九〇一―三三)に出会い、霊的感化を受けたことがあった。

また同副教授は、スウェーデンの国のために貢献した著名な科学者、哲学者でもあったスウェーデンボルグ(一六八八―一七七二)に心酔していた。スウェーデンボルグは晩年、霊的世界が開け霊界の実相を明らかにした人物である。

講義を聴いた二日目の夜、金永雲副教授がベッドで祈っていると次のような声が聞こえてきた。

「あなたをイエスに導いたのはわたし(神)である。また、スウェーデンボルグに導いたのもわたしである。そして、あなたをここ(統一教会)に導いたのもわたしである」

三日目の朝、起きてみると肝臓などの病気が完治していた。四日目からは、ご飯やキムチ、肉なども食べられるほど体は快復していたのである。

それまで、講義の後の食事は、大根やほうれん草をゆでたものを食べていた。金永雲副教授は三日間、劉孝元氏から「統一原理」を聞いた。その期間、文鮮明師はいつも金副教授の近くに座って講義を聴きながら、ときどき講義の補足説明をした。

金永雲副教授は後に、このときの文師について次のように述懐している。

「涙の使徒、李龍道牧師に会った後、李牧師のような深く強い霊性を持ったかたにあこがれ、捜し求めていました。文先生にお会いしたとき、このかたが祈りと涙のかたであると感じたのです」

文師は金永雲副教授に会ったとき、次のような内容を語られた。

「あなたは、多くの祈りをしてこられましたね。先祖が特別なのか、あなたが特別なのかは分かりませんが、あなたは特別なかたです」

「統一原理」を学んだ金永雲副教授は、突然、

「ここ(教会)に霊通するかたはいますか?」と尋ねた。その後、金永雲副教授は霊通する統一教会の三人の婦人と、静かな部屋で話し合いを持った。その晩、金永雲副教授は文師の前で統一教会に入信する決心を明らかにしたのである。

教会員は、その光景を見て感激して歓声を上げた。大きな拍手が続き、金永雲副教授の入信の祝宴が催された。彼女が統一教会に入信したのは、一九五四年十二月三十日のことである。

金永雲副教授は、その後すぐに金活蘭総長に会い、統一教会で見聞きしたことを報告した。総長は興味をもって聞きながら

「もっと聞きたいので、またわたしのところに来て話をしてほしい」とまで言った。

ところがその後、総長の態度がなぜか豹変した。総長は金永雲副教授を呼んで、こう詰問している。

「あなたはなぜ、統一教会にこのように没頭しなければならないのですか? もっと客観的にその運動を研究することはできないのですか? 統一教会の教えは、梨花女子大学校の伝統的な信仰(メソジスト派)とは違いますが、どうしてもその教会の教理を信じなければならないのですか?」

そのとき金永雲副教授は、「わたしにとって宗教は生活の手段ではなく、生死の問題です。統一教会の教えが天の啓示であり、真理であることを知った以上、傍観しているわけにはいきません」と、述べた。

このころ、チャペルで司会を担当した曺燦善校牧(宗教教育を担当する牧師)は、激しい声で興奮を隠しきれずに次のように語っている。

「最近になって、統一神霊会という邪教団体が幽霊のように横行しているが、残念ながら梨大生二十余人がこれに感染し、学校を顧みないほどである。これらの教え子を救出するため調査に行った三人の教授までも、その邪教に染まってしまった。これはあまりに嘆かわしいことではないか」     (『梨花100年野史』301ページから)

総長が、金永雲副教授を呼んで問いただした一週間後、総長は再び同副教授を呼び、こう語った。

「金副教授! 教室やキャンパスで統一教会の話はしないで、個人の信仰としてのみ留めてくれればいいのです」

「総長! 全世界がわたしの教区です。でも総長がそのように言われるのでしたら、梨花女子大学校だけはわたしの教区から除きますからご安心ください」

統一教会の教えを聞いた教授たちは、授業や説教で統一教会のことを黙っていることはできなかった。「統一原理」に触れた喜びと感動を抑えることができなかったからである。

真理を伝えることに最高の価値を見いだしていた金永雲副教授は、統一教会に入信した四年後の一九五九年、最初のアメリカ宣教師として渡米した。同副教授は、統一教会に来る以前から、

「真理を人に伝えることこそ、永遠に価値あることである」という信条を持っていた。大学内では、金永雲副教授が異端と騒がれている統一教会に入信したというニュースが広まり、多くの学生たちが統一教会に通い始めた。

ある日、総長は金永雲副教授に沈うつな表情で、次のように訴えた。

「わたしは金先生をこの大学から出ていかせたくない。わたしの心がどれほど苦しんでいるか分かってほしい」

「総長の恩に背くことなく、長くこの大学のために働き、今までの総長の愛におこたえしたい」と、金永雲副教授は答えた。

「もう一度、考え直してほしい」と総長は語ったが、学校当局はいつまでもこのような状態を放置することはできなかった。総長から金永雲副教授に簡単な手紙が送られてきた。手紙の要旨は次のようだった。

「統一教会の信仰を取るか、大学で教鞭を執るかの二者択一にしてほしい」

金永雲副教授は、総長に次のような内容の手紙を書いて送った。

「総長から受けた恩にこたえるために、長く貴校に奉仕しようとしましたが、それができず申し訳ありません。

しかし、わたしが選んだ道は誤った道ではないばかりでなく、万人が従ってこなければならない道であることをいつか分かってくださることでしょう。そのときを待ちながらお別れのあいさつといたします」

総長は金永雲副教授が再び自分に会いに来るものと思っていたが、同副教授は書面で総長に返答したのだった。

こうして、五人の教授たちが梨花女子大学校を免職になるという事件が起きた。