誰にでもあると思うんだけれど、ほんの些細なことで、いつかの記憶が蘇ってくる・・ということ。

そういうことをいくつか書いてみる。


愛娘は毎日学校へランチボックスを持っていく。
「ホットランチ」といって、お金を払えば、学校でランチを用意してくれる給食的なプログラムもあるんだけれど、そこはカナダ。
ピザだとか、マカロニチーズ(マック&チーズ)だとかの、つまりは大味でオイリーなものが中心になる。

「あぁ、毎日面倒くせ〜」

と、時々思いながらも、愛娘にはできる限りヘルシーな食事を摂ってもらいたいので、夕食の残り物を中心に次の日のランチを作っているのだ。
なんと言っても『You are what you eat.』なのだから。


先日のこと。アジア系のスーパーへ買い物へ行ったときに、パックに入ったスシを何個か買った。
そのうちの一つが、多分日本でも認識されている「カリフォルニアロール」だった。(ちなみにカリフォルニアロールの産みの親はバンクーバーで有名な日本人寿司シェフ)
夕食では全部食べきれなかったので、何個かを愛娘のランチボックスに詰めた。

次の日、学校から帰ってきた愛娘に

「How was your lunch? ランチどうだった?」

って聞いたなら、

「It was great.  オリビア(仮名)が私のランチ見て、『Oh! sushi! What !? I LOVE California rolls!  Can I have just one??  わぁ! スシ! えっ、チョット待って。 私カリフォルニアロール大好きなんだけど! 一個だけちょうだいっ!』って言ってきた」

それを聞いて俺は可笑しかったのと、ちょっと安心したのと。

なんでかって?

20年以上前、俺がカナダに住みたいと思ったきっかけの一つになった本がある。
そして、カナダへ来てから運良くその著者と会える機会があった。

その著者は結構な田舎に住んでいたので、周りにほとんど日本人はおらず、二人の娘さんのために作るランチで、頭を悩ませた話を聞いたことがある。

日本のランチではお馴染みの「おにぎり」を娘さんたちに持たせたところ、クラスメイトから ”からかわれた” からだ。
そうなると、娘さんたちも「おにぎりをランチに入れて欲しくない」と言い出したらしい。

普通なら、そこで愛する娘たちのために、おにぎりをランチに入れない選択をするだろう。俺ならそうすると思う。

けれど、その著者がしたことは、クラスメイトの分もおにぎりを余分に作って、娘さんたちに持たせたのだ。
「おにぎりは変な食べのものなんかじゃなくて、美味しいものなんだよ」ということを、経験を通してクラスメイトに知って欲しかったのと、”からかわれた”からといって、日本のソウルフードとも言えるおにぎりを娘さんたちに嫌いになってほしくなかったから、だったそうだ。
もう20年以上前の、カナダの田舎町でのことだ。


一方で、我が愛娘が通う学校は、アジア系の生徒も多くいるし、彼女がランチの中身で”からかわれた”ということは今まで一度もない。
寿司だけじゃなくて、近年はラーメンもブームだし、随分と日本食は普及している。

ただ、今回のカリフォルニアロールのように、せがまれるほど羨ましがられたということもなかった。
なのでスーパーで買ったものだけれど、「持たせてよかったなぁ」と安堵できたのだ。


日本ではなんの躊躇もなく、ランチにおにぎりを持たせられる。けれど、そこはやっぱり親として、当地に馴染みのないものをランチに入れて愛娘が ”からかわれる” ことがあったら心苦しい。
俺自身がこの国で育ったわけじゃないから、どんなことで “からかわれる” きっかけになるのかがイマイチ分からない。

だから、ランチを作るときには「どれだけ美味しそうに、羨ましがられるように」ではなくて「からかわれることがないように」というのが俺のランチメニューのポイントとなる。


「おにぎり」と言えば、数年前に愛娘が夏休み中に通ったサマーキャンプのリーダーは、それまでおにぎりを見たことも、食べたこともなくて、愛娘のランチの中身を覗いて

「What is that !?」

と聞いてきたそう。そこで彼女は

「It's Onigiri !」

と応えたところ、初めて耳にした代物なので

「Oni Gary ??  オニ・ゲイリーか」

と、怖そうな人の名前のような覚え方をしてしまったのを聞いたときには思わず笑ってしまった。

あ、こんなこともあったな。

まだ愛娘が1歳過ぎの頃、配偶者と俺は共働きだったので、デイケア(個人経営の託児所)に預けていたことがある。

カナダ人夫婦の家で、愛娘よりも何歳か上の子供が2人いるファミリー。

そこではランチを提供してくれなかったので(スナックだけ)、いつもランチを一緒に渡していた。

ある日のこと、いつものように夕方に愛娘を迎えに行くと、ダンナさんが

「あのねぇ…… いつも〇〇(愛娘)が何食べているのか気になってさぁ〜。いい匂いするし。だから実は、今日一口もらっちゃったよ。あれ、なんて言うの?」

と告白してきた。

1歳児のランチを試し食いしたくなるほど、彼・彼女らには我が家の食べ物が珍しかったようだ。

でも俺が普段作るものって、「日本人」が作っている、というだけで、決して「伝統的な日本食」じゃないんだよね。
しいて言えば、しょうゆは味付けによく使う、くらいのものか。


まだしばらく俺のランチ作りは続くだろうし、しばしば「面倒くせー」とも思うだろう。
でも、俺を含めて家族が美味しく食べ物を頂くことができることは健康体があってこそ。

「おにぎり」一つで、色々と考えてしまうのも外国での生活ならではか。
まあ、ほんのひと握りだけの人だろうけれど。
「おにぎり」だけに……


トンボ

サイレントムービーをシアターで観てきたよ

サーモンベリーの季節