ベトナム人の著名な僧侶、ティック ナット ハン 氏が亡くなられた。

彼は世界的に『マインドフルネス』を広めた立役者であり、東洋では日常生活に根ざした仏教、特別なことをしない『エンゲージド ブッディズム』を普及させた。

よくチベットのダライ・ラマ師と比較されやすいけれど、チベット仏教において神格的な扱いを受ける彼とは立ち位置が全く違う。

正にエンゲージド、つまり日常生活全般において「行ずること」を自身の人生で実行してきた人だった。

16歳で出家し、60年代のベトナム戦争に平和的に立ち向かったことが、当時の政府に危険分子とされ、国外追放処分となった。
そして、その仕打ちは、なんと2005年に母国の地を踏むことが許されるまで続いた。
俺のように日本のパスポートを持ってカナダと日本を自由に行き来できる立場では、想像することさえ難い。

ベトナム戦争時に、志を共にする多くの仲間が殺戮されたり、自死する現場を自分の目で見てきた氏は、平和な国で修行する日本の僧侶とは、経験してきた世界が別物だといえる。

俺は御本人に直接会ったことはないけれど、グループメディテーションが行われていたのはベトナム仏教の寺院だったし、そのメディテーション自体も氏が提唱するスタイルを継承していた。(コロナ以降はオンラインに切り替わった)
なので、ベトナム仏教を信仰しているわけではないけれど、氏に対する思い入れがあるし、著書からも大いに学ぶことがあった。

そのグループメディテーションは、老若男女が集まり、そこで僧侶の説法があるわけでもないし、仏教を学ぶ場でもない。
ただ静かに座禅を組んで、組めない人は椅子に腰掛けたり、寝っ転がったり、かなりフリースタイルだ。

座禅のあとは、静かに、ゆっくりと歩く”ウォーキング メディテーション”。自分の足裏に意識を集中させ、普段とは違う、かなりゆっくりなスピードで、ただ歩く。
その後は、皆で輪になって座り、ハーブティーとナッツや一欠片のチョコレートなどを嗜む。
視覚や嗅覚、味覚に十分に集中して、これまた、ただゆっくりと口の中から喉を通る感覚を味わうだけ。

そして、最後に
「なにかシェアしたい話ある?」
みたいな感じで、発言したい人が自由に話せる機会が設けられた。

このグループメディテーションを通じて、ティック ナット ハン 氏が生涯を掛けて提唱し続けてきた『マインドフルネス』を実際に経験させてもらえた。
そして、日常生活でも意識するようにしている。
『マインドフルネス』のコツは只一つ。
意識して、行ずるのみだ。

95歳の激動の人生。
2014年には脳梗塞で倒れ、以来言葉を発することができなくなってしまったけれど、最期まで態度で、一人の僧侶としての人生を全うされた。

益々日々の生活スピードが早くなっていくこの先、氏の意志は、相違なく、これからもっと価値があるものとなっていくだろう。