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A、

きたよ

東京に。


新幹線も飛行機も、お盆の帰省ラッシュで取るの大変だったんだよ。

式に間に合わなかったらどうしようって、

一生後悔するって

ずっと不安だった。

四時起き、朝の飛行機、空席待ち。


どうにか乗れた瞬間、

『あぁよかった‥‥』

と体の力が抜けたよ。



会館にたどり着くと
たくさんの若者達。

黒い服を着て。

『おつかれ、大丈夫かよ』

LやMと合流する。

他にSやR、もちろんNも。



みんなAをネタに笑い話を繰り広げる。

『アイツさー、ぜってぇヒゲのびてんぜ』
『いやマジないわー(笑)』
『写真あのプリクラにしたべ?!』
『なんか家にあった超笑ってるやつらしいよ?』
『ヒゲ剃ってない顎アップでいーよ』
『ギャハハ!!マジそれウケる!!』


みんな本気で笑ってる。

まるでここにAがいるみたいに

いつもみたいに。


『死してなおネタにされる(笑)』
『それでいーんじゃん?』
『俺らが笑ってなきゃ、どーすんだよ』




嘘ばっかり。


本当はみんな今にも泣きそうなくせに。


と思いながら私もケタケタ笑う。


告別式に出るのはおじいちゃんが亡くなった時だけなので、
今回は全然雰囲気も違うから緊張した。


Nがそこで私にそっと耳打ちした。


『りさつけま落ちるよ?』(つけま=つけまつげ)

『大丈夫だよ。』

『あのね、告別式って異様な空気なの。
悲しみハンパナイよ。』


私を除くLやM、ここにいるみんなは中学生の頃仲間を一人失っている。

私より年下のこの子達は
私より経験者だ。



お焼香の時、すこーし泣きそうになった。

私の前の女の子、とても泣いてる。

泣き声を聞くと、わたしも泣きそうになる。



みんなで笑っていよう って決めたのに。



全然泣かなかった私の瞼、決壊したのは香典の時だった。

たくさんの会社からの香典、
聞いていたら
涙がシトシト。。

きっとお父さんの会社の方からだろうか、
とか色々聞いていたら

あぁ‥お父さんとお母さんはとても
とても悲しいのだろうな と、

考えたら涙が出た。



私は子供を産んでいないからわからないけど、

自分の身を切られるより辛いんだろうな‥。


Aは男の子ばっかりの末っ子で、
わたしと一緒☆☆☆

私も女の子ばっかりの末っ子。

『一緒だね』

って笑ったね。



お経が館内に響いていたかと思うと、時間は気付かないうちに経ちアナウンスがかかった。

『最後のお別れ‥‥』


みんなで花を受け取った時、

ある曲がかかった。


GReeeeNの『キセキ』。


Aは野球少年だった。
すごい強かったって。
写真やユニフォームがたくさん飾られてた。



‥でもおかしいな、
この曲は恋愛の唄なのに

歌詞をしっかり聴くと
まるで僕らのことのようだ。



Lが涙を流した

Mも

Nも

Sも

Rも

そして私も‥

まだまだいるたくさんの友達が‥。

声を出して
声を殺して。
涙を拭って。




Lが笑顔で皆に言う




『笑おうぜ』






あぁ‥


もぅ‥


なんでだよ‥


なんで死んじゃったんだよ


早いよ


早過ぎるよ


これが最後なんて


そんなの嫌だよ‥。


涙が止まらない、
笑いたいのに、
笑えてるかわからない。



『ほら、りさ笑って!?』

爪の跡がつくくらい、泣きながら笑うNの手を握りしめてた。


『うん‥‥‥、うん‥‥。ぅっ‥うっ‥』


写真のA、
可愛すぎるよ

そうだね

そんな顔で笑ったね

いつも、

いつも人に優しいA、

この会館に集まった人数は、Aの人間性を表しているね。

少し嫉妬したよ(笑)

『なんだよアイツちょー人気者じゃんよ(笑)』

って、みんな言ってるよ。
聞こえる?




真っ白‥


真っ白な菊の華と
真っ白なシルクの布に包まれたA。


『A!!!A!?
大阪から来たんよ?今日来たんよ、あんね、ウチ大阪で待ってるから!!ずっとずっと。皆で来てや!タコ焼き作ったるからな!遊ぼうな!約束したやんな。‥手紙、読んでな‥
A‥‥‥大好きやで‥。。』


ご家族のみなさんにお辞儀をした。




『ほんと‥‥アイツ逝っちゃっても男前だな~』
『ヒゲ若干青かったよな(笑)』
『間違いない(笑)』

笑って泣いて
泣き笑い。
無理してる
無理してない
泣き笑い。



私達は横の部屋のビジョンでご家族の皆さんが最後の別れを言い、蓋を閉めるのを見ている。


いくら笑ってもダメだ
やっぱり涙が止まらない。

だってお母さん、Aに話し掛けてる。
頬をさわって

優しく

『お母さん』 してる。


お父さんも
お兄ちゃん二人も

真っ白で綺麗なAに 最後のお別れをしている。




『あっ‥し‥‥閉めたら‥いや‥だ‥よ‥‥』

私は泣きながら言った。

『りさ、お別れなんだよ‥。』

Nも泣きながら言った。






『それでは出棺です‥』



外で並ぶ私達の前を黒い霊柩車がゆっくり横切る。


パァー‥‥‥‥‥


響くクラクションに被せるように誰かが叫んだ。

『せぇーのっ、‥‥ッッ』

~♪♪~♪

Aと同じY高校のみんなが泣きながら校歌を唄う。

『っっ、A!!‥Aー!!!ぅっっ、うっ、ありがとぅー!大好きだよー!!!』


私は太陽が眩しくて
蝉が鳴く 夏の大きな大きな青い空の下

今にも崩れしゃがみ込みそうな体を2本の足で全力で支えながら
Aが見えなくなるまで叫んだ。


聞こえるように

届くように。





『ありがとう‥』






男の子も

女の子も

おじさん おばさん

おじいちゃん おばあちゃん‥




A‥‥‥



君は幸せ者だね‥☆



こんなにもたくさんの人に見送られて‥。





忘れない。





忘れないよ






だってそうでしょ!?




もし偶然でも



運命でも





出逢って今日までこんなに楽しく過ごせて




巡り逢えたの。






ほら‥




これってキセキでしょ‥






ね、







そうでしょ??






A。