子供の時間は長くて夏はもっと長くて

ふと立ち止まった十二歳の夏は

それにはもう戻れなくなった気がした

十七歳の夏はそれすらも戻れなくなってしまった気がした


好きだという気持ちはずっと留めていられるのかな

不安が孤独にさせる

今より言葉を持ち合わせていなかったあのころには

今、持ち合わせていても届かない


きみは躰をあずけてくれたのかな

言葉遊びをふたりでしてたね


一人で作り上げた街でほんとうのきみに逢っても

ただ時間を無駄に過ごすだけだ


新しい出逢いに

時間をかけて待ちたいという気持ちは

それなりに価値があるんじゃないかな


でも、きみは言う

ねえ、わかった?わたしたちは二人とも、

ただの誰かの影に過ぎないのよ。


もう一度ほんとうの自分を呼び戻すよ

彼も戻って来てくれると思う






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1985年6月15日 1刷「世界の終わりとハード・ボイルドワンダーランド」より



2023-06-20の時点の推敲前


子供の時間は長くて夏はもっと長くて

ふと立ち止まった十二歳は

それには戻れなくなってしまった気がした

それすらももう戻れない

好きだという気持ちはずっと留めていられるのかな

不安が孤独にさせる

今より言葉を持ち合わせていなかったあのころ

今言っても届かない


きみは躰をあずけてくれたのかな

言葉遊びをふたりでしてたね


一人で作り上げた街でほんとうのきみに逢っても

ただ時間を無駄に過ごすだけだ


新しい出逢いに

時間をかけて待ちたいという気持ちは

それなりに価値があるんじゃないかな


でも、きみは言う

ねえ、わかった?わたしたちは二人とも、

ただの誰かの影に過ぎないのよ。


もう一度ほんとうの自分を呼び戻すよ

彼も戻って来てくれると思う