20.石田衣良:再生
恋愛の、家庭の、仕事の、そして人生の危機に瀕した人たちの再生の物語
「再生」は石田衣良の短編集です。
傑作短編集と言える「約束」同様、同じテーマを、違ったシチュエーションに置かれた異なる経歴や世代の人物によって多面的にとらえようとする試みと言えるでしょう。
さまざまなケーススタディを経ることで、読者が自分の抱えているのに近い状況とそのソリューションを見つけ、あるカタルシスを感じさせようとする試みとも言えます。
第一話「再生」では、妻を自殺でなくし、息子と二人暮らしの男が「なぜ」という疑問の無限地獄からいかにして立ち直るかを語る。ラストは日本でもヒットした9ある韓流映画のような展開に。
第二話「ガラスの目」では、障害を持った子どもとの同居に耐えられなくなり、別居に至ったテレビディレクターが自責の念にかられ、自殺を思い立つ。彼をくいとめたものは・・・
第三話「流れる」は三年間同棲を続けた同じ職場の男から、突然に別れ話を持ち出された女性の物語。相手もよりによって同じ職場の女性。だが、仕事がピークの今、同居を続けざるをえず、一層精神的に追い詰められてしまう。いかにして、この危機を乗り越えるのか。
第四話「東京地理試験」は、清掃車の運転手が定年退職後、再びタクシーの運転手になるために試験を受けるが落ち続ける。見ていられないと反対する妻。不慣れな地域の地理をものにするために、彼がとった行動とは?
第五話「ミツバチの羽音」では、顧客データの入力を仕事とする契約社員の女性が、あるきっかけで同僚の女性の家庭状況を知る。彼女は、足の不自由な息子を育てていたのであった。やがて、二人の間には心の絆が生まれる・・・
第六話「ツルバラの門」では、ADHDの息子を幼稚園に通わせる母親の物語。転入時に息子の障害をわざわざ他の母親に知らせるプリントを配る彼女に、抵抗する母親があった。だが、息子は早々に他の子どもとトラブルを起こしてしまう・・・
こんなペースで、さらに後6本の短編が続きます。
感心するのは、異なるシチュエーションを具体的なディテールをもって描き出す作者の力量ですが、「あとがき」で作者が告白しているように、「半数以上は直接当人から話をきき、小説に仕立て直した」作品であるようです。
その結果、わたしたち読者が知らないような職場の細かな事情や、病気・障害の推移をリアルに知ることになるのですが、それはこの作品集の長所であると同時に、弱点でもあるという印象を受けました。
作者自らの経験や想像力から生み出された場合のようには、登場人物に活力が満ちていないことが多いのです。そして、登場人物が年配の人間が多いせいか、妙に老成したような印象を受けました。作者の最大の長所である、人物の若々しさ、ストーリー展開の生きのよさも認めにくいのです。最後にはとりあえずのハッピーエンドが訪れるものの、また同じような苦労が日常的に繰り返されることが予想できてしまう。救いよりも、リアルの重さを感じてしまった作品も少なくなかったです。
作者:石田衣良 書名:再生 出版社:角川書店 2009年4月刊
お勧め度:☆☆☆ 60点
ある意味、職人的な仕事による作品集です。最初に登場人物の日常が描かれ、「****は・・・・していた。」という定型文。その後に危機的状況の描写がスタートし、最後の1、2pで救いが訪れるというパターンの連続に慣らされると、途中で先が見え、その通りの展開になってしまうのです。さすがに作者もそれに気づき、途中でひねりをいれようとするのですが・・・要するに、これは「ちょっといい話」の陥るパターンそのものであると言えるでしょう。