先日、久坂部羊さんの著書「破裂」の文庫本(上)・(下)を読了しました。



久坂部羊さんの作家デビュー作「廃用身」に続いての2冊目でした。


2015年の10月10日から11月21日まで、NHKの「土曜ドラマ」にて、椎名桔平さん、滝藤賢一さん、仲代達矢さん、坂井真紀さん、市川実和子さん、佐野史郎さんらの出演でドラマ化されていますが、内容は原作とは、若干、変わっているようです。


ネタバレにならない程度に、あらすじを少し。


過失による、患者の死に平然とする医師達に怒りを激らせた、元・新聞記者の松野。


心臓外科教授の椅子だけを目指す、エリート助教授の香村。


「手術の失敗で、父は死んだ」と香村を訴える、美貌の人妻・枝利子。


医療の国家統制を目論む「厚労省のマキャベリ」こと、上級官僚の佐久間。


医療過誤を内部告発する、若き麻酔科医・江崎。


5人の運命が、劇的に絡み、やがて転がり始めます。


しかし、枝利子の医療裁判は、病院内外の圧力により難航。


その裏では、厚労省の佐久間が、香村助教授への接触を始めます。


それが、国家権力による、高齢者抹殺計画=「プロジェクト天寿」だと見抜いた、ジャーナリストの松野は、その事実をメディアに発表する矢先、何者かに殺害されます。


医療裁判の結末は?


権力に翻弄される江崎の運命は?


そして、プロジェクトの行方は?


久坂部羊さんの医療ミステリーの傑作です。


「廃用身」に続いて、老人医療に関する、重いテーマの小説で、主に、医療過誤・高齢社会をテーマにした社会派の作品です。



文章は読み易く、展開は起伏に富んでおり、骨太な内容の良作です。


2004年に単行本が出版され、文庫化されたのが

2007年で今から、20年程前の作品ですが、この作品で、問題提起された現象が、キッチリ、現在の日本に襲い掛かっているという事実が、久坂部羊さんの凄さを物語っていると思います。



本作は、一見、医療事故の被害者VS医師という構図なのですが、医師・弁護士・被害者遺族・その他の医師・看護師・メディア関係者・官僚等の

それぞれの主張をフェアに書き連ねているという印象を強く受けました。


なので、ただ、医療事故と、その隠蔽工作を叩くだけの小説とは一線を引いて読めました。


様々な立場からの主張は、その人物の主観から見れば正しいし、仕方の無い側面もあるという事はある意味、否定出来ないかな?とも思いました。


著者自身が、医師だからこそ、このような内容の小説が書けたという事もあるのでは?と、個人的には思いました。



この小説のストーリーは、医療ミスから始まり、医療裁判、過重労働、医療費増大、高齢者医療、延命治療法・尊厳死、安楽死、インフォームド・コンセント、汚職に加えて「白い巨塔」を連想させる病院内での教授選、官僚の天下りなどが頻出します。


登場人物が、各々の正義感で、問題の解決に奔走しますが、物語のラストでは、本質的な問題解決に至っていないという事に愕然としました


一応、悪者とされる人には、それなりの処遇はなされているのですが、2024年の現在でも、先送りされている問題を鋭く描いています。


「医者は、三人殺して初めて、一人前になる」と書かれた、文庫本の帯は強烈なインパクトがありました。


久坂部さんの著書は「廃用身」に続き、今回も、ノンフィクションかと思う程、リアルな内容でした。


医療系ミステリーが、お好きな方は必読です。