先日、久坂部羊氏の著書「廃用身」を読了しました。



長浦京さんの著書「リボルバー・リリー」と同じく、会社の先輩に薦められ読み始めました。


この作品が、久坂部羊氏のデビュー作です。


介護現場の体験に基づいた、恐ろしいまでのリアリズムと「Aケア」という空想の医療が見事に絡みあった小説でした。


「廃用身」とは老化や・脳梗塞病などの病で、回復が見込めなくなった四肢の事を示します。


それを切断する事によって、老人自身も、介護者も、重い荷物から解放されてQOLが向上するという発想がテーマとなり、廃用身の治療を行うに至るまでの医師の逡巡とその成果が、医師の手記という形で淡々と語られて行きます。



後半は、廃用身という医療に、シンパシーを抱くジャーナリストによる寄稿。



世間からは「悪魔の医療」と呼ばれ、バッシングを受けますが、週刊誌やTVのワイドショー等の描写が、とてもリアルでした。



ラストに少しだけ、医師の異常性を書いてしまったのが、個人的には、ちょっと残念でした。



今後、超高齢化、少子化社会が進み、老人介護の問題が、益々顕在化されていく上で、廃用身を切断し(Aケア)介護を楽にし、高齢者へのサービス向上にも繋がるという主人公の着眼点が、医師という特色を活かした、ユニークな発想だと思いました。


読んで行く内に、漆原医師の思想に納得してしまう構成に感心しました。


超高齢化が進行していく事による、様々な社会的影響や、綺麗事で解決出来ない老人医療と介護問題に鋭いメスを入れ、少し極端な方法で問題提起をしています。


集団心理や、メディア報道の怖さを前に出しながら、肯定否定や、好感悪感が揺らいでいく仕掛けは見事。


倫理と実効性の天秤は、将来も同じ側に傾くとは限らないと考えさせられました。


身近で説得力のある不安と懐疑が没頭を誘う小説です。


かなり重い内容の小説ですが、小説の中に小説があり、更に、それを解説する本がありと、何重にもなっている構造も面白いし、取り扱う題材から展開されていく、高齢化社会での老人介護問題への対策が描かれていて、とても勉強になり、個人的には面白かったです。


興味を持たれた方は、ご一読を。