楡周平さんの著書「サリエルの命題」読了しました。



2017年6月から、2018年9月まで「小説現代」に連載され、2019年の6月に単行本として、刊行され、2021年10月に文庫化された作品で、まるで、新型コロナウィルスによる、パンデミックを予言したかのような小説でした。


陰謀・研究機関内での描写・政治家の動きの3つのテーマが絡み合います。


ネタバレしない程度にあらすじを。


悪魔のウイルスの名は「サリエル」。


医療に通じ、癒す者とされる一方で、一瞥で相手を死に至らしめる強大な魔力「邪視」の力を持つ堕天使。


日本海に浮かぶ孤島で、強毒性の新型インフルエンザが発生し、瞬く間に島民全員が死亡。


それは、アメリカの極秘の研究データが流出して人工的に作られたという疑いが?


テロの可能性が囁かれる内に、本州で、さらに変異したウイルスの罹患者が現れる。


ワクチンも無く、副作用が懸念される治療薬「トリドール」が、政府の判断で緊急製造されるが、感染が拡大しても全国民には到底行き渡らない。


刻々と事態が変化していく中、果たしてパンデミックは回避できるのか?



新型コロナウイルスを彷彿とさせる「サリエル」と名付けられたウィルス。


サリエルを封じ込める為の新薬の開発と高価格への対応。


将来的な社会保障制度の破綻という、既得権益をも絡めつつ、パンデミックの恐怖と、発生した際の政府の危機管理不足など、コロナ禍の混乱を予感したような内容でした。


物語中には、緊急事態宣言や、特措法と、今ではお馴染みの言葉も出て来ますが。新型インフルエンザのパンデミックもさる事ながら、日本の医療制度の問題について、考えさせられる小説です。


保険でカバーされるシステムについて、無償で医療を受ける為に犯罪を犯す外国人が居ることや、経営・管理ピザで入国し、3ケ月以上滞在した場合、国民健康保健への加入が義務づけられ、前年に所得が無ければ、祖国に住む、扶養家族共々、月額4千円程度の保険料で日本人と同等の高額医療が受けられるという事を、初めて知りました。


この小説では、登場する政治家が、比較的しっかりしていて、パンデミックの危機に毅然とした対応を見せるのですが、現実の日本の政治家達を見ると、パフォーマンスのような言動や、小学校の終わりの会レベルのような、国会での議論ばかりを繰り返しているので、現実を直視すると、とても悲しくなります。



この小説では、日本で「サリエル」と名付けられた、新型インフルエンザのプレパンデミックが起き、備蓄の少ないワクチン接種の優先順位が議論になるのですが、それは、同時に、医療保険、社会保障制度のあり方も、国民に問いかけるキッカケとなるという、近未来シミュレーション小説として、読み応え充分ですし、現在の国民皆保険制度の盲点や、近い将来の日本に必ずや起こるであろう、保険制度の崩壊も身に染みました。


野党や、マスコミの対応に、日々感じている、苦々しい思いさえも、代弁してくれているような感じがしました。



政治家やマスコミは、自身や、自身の所属政党の票取りに明け暮れるのでは無く、日本という国家の根幹をしっかり見据えてもらいたいと感じました。



社会保障の問題を先延ばしにしても、その時は、必ず訪れるのですから、国民が議論できるよう喚起して欲しいと思いました。


この小説は、現在の社会保障制度や、医療保健問題を分かりやすく纏められていて、読み終えた後考えさせられる事ばかりでした。


超・お薦めの1冊です。