先日、今村翔吾さんの歴史小説「幸村を討て」を読了致しました。


本作は、直木賞受賞後の第1作。


真田昌幸・信之・幸村の真田父子と、徳川家康・織田有楽斎・南条元忠・後藤又兵衛・伊達政宗・毛利勝永らの思惑が交錯する大坂の陣。


男達の陰影が鮮やかに照らし出される、ミステリアスな「戦国万華鏡・大河小説」

誰も知らない真田幸村。


神秘のベールに包まれた武将の謎を、いま最も旬な作家、今村翔吾さんが描かれました。


七人の男たちが、口々に「幸村を討て!」と叫んだ。


彼らには、討たなければならない、それぞれの理由がありました。


各章のテーマを「疑・逃・影・名・夢・誓・戦」に設定して、徳川と豊臣の最後の戦い、その舞台裏で、真田家と各武将達が、どのような思惑をもって戦に臨んでいたのか、そして、真田家は、何を目指したのかが、丁寧に描かれた戦国ミステリー小説。


徳川家康、織田有楽斎、南条元忠、後藤又兵衛、伊達政宗、毛利勝永。


徳川と豊臣の「最後の戦い」に参戦した、男達の視点から、真田幸村は、どのように見え、どんなやりとりがあったのか?


一つ一つの物語を丁寧に描きながら、最終章では幸村の兄の信之が、真田の戦を繰り広げます。


それぞれの武将の思惑を読みつつ、幸村は、どう振舞うのか、読み応え満載でした。


徳川家康・織田有楽斎・南条元忠・後藤又兵衛・伊達政宗・毛利勝永・真田信之が各章の記述者になり、大坂の陣と幸村についてのストーリーが展開して行くのですが、章の間に短い源三郎(兄の信之)の邂逅が入ります。


幸村が記述するところが無いので、幸村の心情は語られません。


従ってミステリアスで見事な展開です。


白眉は毛利勝永の章。


勝永は、6歳の幼少時(その頃は、吉政と名乗っていました)に、淀の方の守役を仰せつかっていました。

 

一般の女子では、とても淀の方の相手は務まらなかったからでした。


そこで、幼いながら淀の方とある約束をします。


大坂に味方する者は、ほとんどが、関ケ原の戦いで敗戦した浪人衆。


目的は二つに一つ。


さんざん奮闘して、後世に名を残すか?


適度に活躍し、幕府方の寝返りの誘いを待つか?


勝永は、淀の方との約束を果たす為に、大阪城に入城します。


「勝永」とは、淀の方が名付け親の諱(いみな)なのですが、このエピソードが素晴らしいと思いました。


この小説のこの項での淀の方は、とても聡明で、人間味があり、好ましいと思いました。



また、最終章の兄・信之の章がまた凄く、家康+本田正信vs信之の武器を持たない舌戦が展開されます。


信之が幸村と繋がっていた証拠を、いくつも提示されるのですが、信之が、その疑惑を躱して行く様が超痛快です。


個人的には、伊達政宗と、毛利勝永の章が、互いの筋を通す、武士としての男気があり、好きでした。


最終章の、徳川家康・本田正信 vs 真田信之の戦いは、それまでの総括になっており、それぞれの持ち味を出しつつ、緩急入り混じった駆け引きや緊張感があって楽しめました。


「人間、いかに生きるべきか?」と問われていたように感じました。


真田兄弟が魅力的なのは、もちろん、毛利勝永とその妻との情感あふれる関係が素晴らしかった。


人間、せいぜい、百年にも満たない人生でありながら、ここまで美しく生きる事が出来た人達は、真に強い人達だと思いました。


超・お薦めの1冊です。