今日は、Tracy Chapmanのお誕生日なんです。



今回の個人的アルバム・レビューは、1988年に発表された、Tracy Chapman のデビュー・アルバム「Tracy Chapman」を。


Tracy Chapmanは、1964年、オハイオ州出身のアフリカ系・米国人シンガー。


奨学金を受けながら大学に通い、アフリカについて学んだり、それまでに体験した、社会の矛盾をアコースティック・ギターに乗せて弾き語るようになり、1988年にデビュー。



1980年代の後半、打ち込みの忙しないリズムが氾濫する中、突如として現れました。


アコースティック・ギター片手に、淡々と語るようなボーカルで、人種差別や貧困、暴力問題などを鋭く抉りました。


その姿は、黒人社会の現実を歌う、吟遊詩人のようであり、美しいギターの音色には、穏やかな激情が込められています。



このアルバムからは「Fast Car」というヒット・シングルも誕生し、第31回グラミー賞で、「最優秀新人賞」・「最優秀女性ポップス・ボーカル賞」・「最優秀コンテンポラリー・フォーク賞」の3部門を獲得し、全世界で、1000万枚もの売上げを記録しました。


このデビュー・アルバムは、英米のみならず、各国のチャート(ドイツ、カナダ、イタリア、オランダなど)で、1位を獲得しました。



このアルバムの収録曲の中で、1番よく知られている楽曲は、やはり、2曲目に収録された、「Fast Car」だと思います。


アルバムからの最初のシングルとして、全米6位・全英4位を記録した名曲で「行く先の見えない人生からの逃避=新天地へと導き得る手段が、楽曲のタイトルの“速い車”に例えています。



その他、個人的なお薦め曲は、アルバムの冒頭から、インパクトの強い1曲目の「Talkin’ Bout A Revolution」


革命に向けて、人々が立ち上がる予感を説得的に伝え語る、Tracy Chapmanのボーカルの力強さが素晴らしいです。


(因みに、大きなチャート・アクションは無かったのですが、この曲は、セカンド・シングルとして発表されました)


さらに、聴き逃せない佳曲が、4曲目のアカペラの短編曲「Behind The Wall」


詞の内容は、かなりリアルで、平和を守る筈の警察官が、実際には、何も出来ないし、してくれない、でも、隣家からは、叫び声が響き渡るという身近な社会の矛盾や、不正義を静かに歌い上げた楽曲です。


最後に、もう1つ、お薦め曲を。


8曲目の「Why?」上記のお薦め曲同様に、決して飾らない演奏の中で、Tracy Chapmanのボーカルが、力強いメッセージとなって伝わってくる楽曲です。


タイトルの「なぜ?」の問いかけは、やはり社会が抱える矛盾に対してなんですが「Fast Car」や「Behind The Wall 」に比べ、より普遍的な内容で「食料は充ちているのに、何故、赤ん坊が死んでいくのか?」・「ミサイルは、人を殺す為の物なのに、なぜ平和の番人と呼ばれるのか?」などの問いかけの後「愛は憎悪、戦争は平和、NOは

YES、私たちは自由」と、世の矛盾を鋭く風刺しもうすぐ正直に答えられる世の中が来る(来てほしい)と結んでいます。



もちろん、当時のアメリカ社会や、冷戦末期の世界情勢を念頭に置いて書かれた楽曲なんですが、政治家の発言や、マスコミ報道などで「嘘」と

「本当」が=で結ばれ、オブラートに包まれた言葉で、誤魔化され続けている、日本という国を見ていると、四半世紀が経っても、この、Tracy Chapmanが歌に託したメッセージは、核心を突いた痛烈なもので、あり続けていると感じました。












収録曲


  1.Talkin’ Bout A Revolution


  2.Fast Car


  3.Across The Lines


  4.Behind The Wall


  5.Baby Can I Hold You


  6.Mountains O’ Things


  7.She’s Got Her Ticket


  8.Why?


  9.For My Lover


10. If Not Now


11. For You