今回の個人的アルバム・レビューは、1983年5月に発表されました、松山千春さんの「今失われた時を求めて」を。
1983年5月発表の松山千春さんの「転の時代」を切る傑作アルバムです。
前作「大いなる愛よ夢よ」で見せた、スタジオミュージシャンとのコラボレーションが、このアルバムでも展開されており、松原正樹さんのアレンジによる「ひと夏の恋」では、レゲエのリズムを取り入れた新たな面を見せ、ファンからは物議を醸し出しましたが、この頃の松山千春さんの楽曲に対する拘りが強く感じられるアルバムです。
王道を行く路線としては、TBSドラマ「看護婦日記 パートI」の主題歌にもなった「Only You」や、ファンからの多数のリクエストにより、シングルカットされた、服部克久さんのアレンジの美しいバラード「電話」等、バラード中心の名曲を生み出しました。
そして他のアーティストへ提供した楽曲を自身でセルフカバーするといった事も見逃せません。
森進一さんへ提供した「待たせたね」を、松山千春さん自身がこの作品で取り上げた事も、大きく注目されました。
この曲以外では、1983年に柏原芳恵さんに提供した「タイニーメモリー」
(「眠れない時代」でセルフカバー)
1979年に高田みづえさんに提供した「青春Ⅱ」(「季節の中で」収録)
1985年に高田みづえに提供した「クレイジーラブ」(「明日のために」でセルフカバー)等が、あげられます。
この時代の松山千春さんの心境を伺える作品としてあげられるのが、気負う事無く人生を突き進もうといった雰囲気の「この世の果てまで」
応援してくれた全ての人々への感謝の意を表した、アコースティックなサウンドの「感謝」。
今までの人生を振り返りながら、今後の人生の課題を提示した壮大なタイトル曲「今、失われたものを求めて」等があり、松山千春さんのフォークシンガーとしてのスタンスが、サウンドやメッセージ、そして歌声にもはっきりと現れてきています。
この作品の発表後の1983年9月には、TBSドラマ「胸さわぐ苺たち」の主題歌になったシングル「流れ星/愛は物語」を発表し、ドラマのオープニングでは、1度限りながら、実際のコンサート会場から、前代未聞の生中継による「流れ星」を歌うといったサプライズも行い、ファンを喜ばせました。
収録曲
- 君の歌と僕の歌
- 待たせたね
- ひと夏の恋
- オンリー・ユー
- 悪い夢
- 電話
- 雨の舗道
- この世の果てまで
- 感謝
- 今,失われたものを求めて