今回の個人的アルバム・レビューは、松山千春さんが1985年7月、アルファレコード移籍第一弾として発表したアルバム「明日のために」を。
オリコン最高位は4位でした。
松山千春さん自らが設立した、NEWSレコードを整理し、アルファレコード(こちらも現在消滅)から心機一転して制作したアルバムです。
一聴して驚いたのは、エレピの導入や、音数を落としたりで"線の細いサウンド"になった事でした。
そして、レコード会社移籍決定後に作られた後半5曲の歌の深さです。
1番最初のレビューは、6曲目の「いつの日か」
独裁政治と戦争への坂道を転げ落ちる内容は、当時の首相の「不沈空母発言」などが発端だったようですが、有権者が政治に不満を持ちながら、選挙に行かず、結果的に70年以上も、政治家と官僚の怠慢な政権を赦(ゆる)して来た、今の日本でも、充分に起こり得る危険を孕んでいるという事を訴えていると思います。
悲しむ人に寄り添うように歌う「ひとりぼっち」・「君の友達」
ひとつの終わりを淡々と歌う「虹のかなた」の寂寥感は、あの頃の千春さんの偽らざる心境だったと思います。
「君の友達」は当初、シングル候補だったという楽曲です。
移籍第1弾は、暗い曲よりは、明るい曲の方が良いだろうという理由で、シングルとしては見送られたといいます。
80年代における松山千春さんのシングルは、本人曰く名刺代わりだったのでしょう。
自分はアルバムアーティストだといういう自負もあったのだと思います。
選ばれるシングルは基本的にはメジャー。
内省的、感傷的な歌詞や、メッセージ性の濃いものは少ないです。
「虹のかなた」
「ごらん友よ 戻らない日々は 虹のかなたか」
この歌を聴くと何故か、青春時代を思い出します。
若さと勢いの時代、それ故に傷つき、それ故に不安になり、それ故に人を信じ、それ故に熱かったあの時代。
やがて迎える、それぞれの旅立ち。
期待と不安と寂しさを胸に、それぞれの道へと旅立つ直前の頃。
自分の道を決めた誇らしさと、友達の笑顔と別れの涙、そしてその後の自分自身の挫折なども。
この曲を聴くと、年を重ねるごとに遠くなっていく時代を、いつでも懐かしめます。
そんな曲に出会えたことを幸せに感じます。
「ひとりぼっち」から「明日のために」までの4曲は、一つの大きなストーリーを成す、交響曲の様感じました。
夢が崩れかけ、風に流されても、あなたが何かに賭けた思いが、砕け散って、空に消えて行ったとしても、どうか涙は見せないで欲しいと歌われています。
なぜならば、「人は誰でもひとりぼっち」だからと。
夢破れ、両腕をもがれたような気持ちになる。
一生懸命賭けた思いが空転し、裏切られ、足元を掬われる。
共通して言えることは「俺、1人になってしまった」・「俺だけ取り残されちまった」という気持ちだと思います。
この時のツアーでは、松山千春さん自身が、NEWSレコードの倒産を受け、「歌う気持ちに、なれかった」と心情を吐露した場面もありました。
しかし、悲しむだけではありません。
タイトル曲「明日のために」は、NEWS時代の後半では、意図的に避けてきた様な、北海道的な大らかさ・力強さが感じられる一曲です。
1985年3月30日、TBS系のテレビ番組「ハロー!ミッドナイト(HELLO! MIDNIGHT)」の最終回で弾き語りで「明日のために」が歌われました。
視聴率の低迷。
松山千春さんの、TBSの報道論調とは異なるコメントや、態度と言葉づかいに、局内外からのクレームが上がりました。
「自分の事を、ずっと応援してくれてた人達には、物足りなかったかも知れないし、ひょっとしたら、みんなの期待を裏切ったかもしれない。
でも、自分なりには精一杯やらせてもらった。
結果がどうあれ、とにかくやった、自分は、それのほうが欲しかったから。
みんなも本当に頑張ってください。
俺もこれから、もっともっと頑張りますから」と、弾き語りの間奏で、そう話していました。
収録曲
- クレイジー・ラブ
- いけない
- 愛を奏で
- 道標(みちしるべ)
- 街角
- いつの日か
- ひとりぼっち
- 君の友達
- 虹のかなたに
- 明日のために