お互い、食事を済ますと、

「さっ、とりあえず行こっか」とお会計へ。

一応、支払うつもりではいたが、

「いいから」と言われ、すぐに財布を仕舞う。

「奢ったんやから、今から姫路まで付き合ってや♪」

「今から?? 夜中3時過ぎに何しに?」

「さっき言うたやん。出所や。迎えに行くで!」

美穂の作戦勝ち。

たかが380円でやっかいな問題を引き受けてしまった。


元気が入いる少年刑務所は

28歳未満の受刑者を受け入れる施設。

入ったことのある人の話によると、

テレビもねぇ、ラジオもねぇのはもちろん。

行進や運動などの訓練を行い、

食事や生活一般についてみっちり指導される。

喧嘩やイジメも普通の刑務所と違って段違いに多い。

おらこんな村いやだ~なんて言っても、

そうは簡単には出られるわけがない。

そこで、しごかれて出所の際に

「もう帰ってきません!」なんて誓っても、

再犯の確立は非常に高いのだとか・・・

不思議なもんだ

高速を飛ばすこと2時間半。朝日が登る前に姫路に到着。

元気から届いた手紙に書かれていた出所の時間は午前8時。

刑務所の大きな門が見える場所に車を停め、

元気の出所を待つことにした。

高速を走る間は2人で起こした様々な悪行を振り返り、

あれだけ笑っていた美穂に笑顔はまったく無い。

俺はシートを倒し、目を瞑りながら、

美穂の言う“いい方法”を探すが、浮かばない。

2時間もの沈黙が過ぎ、開門の時間がやってきた。

時間と同時に、大きな門が開くと、

そこには1人の少年が立っていた。

美穂に見せてもらったプリクラでは茶髪に

ダボダボとした服装の今時の少年という感じだったが、

現れたのはイガグリ頭の少年。

刑務所でこってり絞られたのか、

半年前よりも頬がこけ、より端正になっている。

美穂は門が開くなり、車を飛び出し、元気の元へ駆け寄った。

俺はその勢いに呆気に取られ、

車内で様子を眺めるしかなかったが、

元気の胸元に飛び込むなり、何かを話しかけ泣いていた。

それに答えるように、頭を撫でてやる元気。

美穂はきっとずっと泣くのを我慢していたんだろう。

半年間の涙を流し切るかのように、

2人はずっと抱き合ったままだった。



しばらくして、2人がやっとこっちに向かって歩いてきた。

「ごめん。遅くなって。紹介するわ。

この坊主が元気で、この天パが森田くん」

俺と元気は「どうも」とだけ発し、互いに頭を下げる。

すかさず、美穂が

「ここからがやっとスタートやな。さ、どうしよ?」と切り出す。

「そのことやねんけど、いいアイデアが浮かばんねんな。

2人には素直に話した方がいいんちゃうかな?

今すぐには無理かもしらんけど、

元気が頑張ってたら、いずれ認めてくれるって」

俺がそう提案すると、2人は顔を見合わせ、こう言った

「そういうわけにはいかへんねん。すぐにじゃなきゃ」


事情を聞くとなるほど。

3人は玉砕覚悟、ノープランのまま

美穂の父の事務所へと向かった。

そんな話をするうちに、近所のびっくりドンキーに到着。

美穂はハンバーグセット、

俺は腹が減ってなかったのでパフェを注文。

「で、今日は何なん? 何の話を聞けばいいん?」

「さっすが、森田君。話が早い。これ見て!!」

美穂は財布の中からキレイに

畳まれた新聞の切り抜きを取りだす。

日付は今から半年ほど前。

オレオレ詐欺の犯人グループが逮捕されたという内容だった。

「で?まさか、お前がこのグループのリーダーとか?」

「半分正解で、半分ハズレ(笑) 真のリーダーは美穂のおとん。

で、この大西元気ってのが、美穂の彼氏。」 えっ?

「すごい話やろ?(笑)

嫌いやったおとんの舎弟と付き合ってんねん。

ってゆっても、この日から月1回、

面会の時しか会われへんけどな(笑)」



「うん、すごい話やな。で、この事件のことで俺に相談?

まさか、単なる不幸自慢じゃないやろし・・・」

「その通り!」 「脱獄を手伝えって・・・?」

「その必要はないねんな♪ もう出所やから♪」

話がまったく読めない。

「美穂なぁ、3年の時、高校辞めて、

おかんと大喧嘩して、家出たやん?

そん時、森田くん山科おらんかったし、

頼る人もいんくて、最終手段やったおとんに電話してん。


で、何年かぶりに再会して、

あれよあれよって間にマンション借りてくれて、

夜やけど仕事紹介してくれて。

そこでボーイしてたんが、元気やねん」

「すぐに一緒に住むようになってんけど、

ボーイって言っても、ペーペーやし、お金もない。

美穂のお金でなんとかやってけてんけど、プライドがあったみたいで。。。

“稼ぎたい”って言うから、おとんに頼んだら、この通り(笑)」

「捕まってる間、他の男から誘われたりもしたけど、

面会に行く度にやっぱ元気しかおらんなって。

元気も出てきたら、真面目に働く言うてるから、結婚しよ思ってんねん」

いい話だなぁ。実話ナックルズあたりに投稿しちゃえ。

「でもな、おとんもおかんも付き合ってるん知らんのよ・・・

おかんに至っては、

おとんと連絡とってることも、彼氏が刑務所にいることも・・・

そこで相談!森田くん、なんかいい方法ないかな?」

って言われましても・・・

ダウンロードしたばっかの着信音が携帯から鳴る。

名前を確認すると、岩田美穂

やっかいな女だ そう思いつつ、電話に出た。

「ちょっと森田君聞いて~」電話の始まりは決まってこの台詞。

彼氏がどうだとか、バイト先があぁだとか

いっつも愚痴を聞かされる。

興味ねぇなぁ・・・なんて思いつつも、ウンウンと相槌を打つ。

美穂とは彼女が16の時に知り合ったから、もう七年にもなる。

妹みたいな存在だから、面倒でもほっとけない。

でもこの日は違った。

出るなり「ちょっと時間ある?」 何か様子が違う。

もう深夜1時過ぎ。

眠かったけど、すぐに服を着替え、家を出た。

美穂が住む団地は俺んちからチャリで5分ほど。

団地の下に着くと、すでに美穂が待っていた。

「お腹減ってない?何か食べにいこっか」とだけ話して、

すぐそばの駐車場へ。そこにはBMV

びっくりして声が出ない。美穂はドーナツ屋のバイトだ。

「盗んだか?」 「んな、わけないやん。行くで。早よ乗って」

言われるがまま黙って車に乗り込んだ。



「自給780円で買えるわけないやん(笑)。

おとんからもらってん」

美穂の両親は小さい頃に別れていると聞いたことがある。

葬儀屋で働き女手一つで育てた母は、

以前、美穂が家出をした際、戻るように説得し、

一緒に謝りに行った時に会ったことがあった。

母は美穂にて透明感のある女性だったが、

美穂の口から父親の話が出るのは初めてだった。



「森田くんに言ったことあったっけ?

美穂のおとん、ヤクザやねん」

名前を聞くと、山科では知らない人はいないほどのお方。

「この車、事故車ねん。


詳しくはしらんけど、ややこしいルートで安くで買ってんって。

とりあえず、簡単に治しはしたらしいけど、貰って乗った瞬間、

足元にガラス片がびっしり・・・ なんか呪われそうで怖いわ」

二十歳そこらの奴が左ハンドル乗れる理由なんて、

やっぱり理由は聞かない方が幸せだ。