「あれだけ説明したのにまだそんなことを言っているのか!方針は何度も伝えている。それを受けて『自分たちは何をすべきか』を考えるのは組織人として当然のことだろう。そんな当たり前のことがなぜできないんだ!」

 

重要なミッションを掲げて会社の中枢を担う部署が発足し数か月がたった。そろそろ新たな動きが出始める頃と思いきや社員たちの予想外の本音を間接的に聞かされるとは、社長としては我慢がならなかった。

「部の名称が変わっただけで仕事の中身はこれまでと特に変わらない」

「そもそも部署名と実際にやっていることが合っていないのではないか」

「目の前のやるべきことは山積みだが、本当に大事なことは何かがわからない」

 

社長はこの部の発足にあたり、会社の方針と新組織の目的について事あるごとに部長層に説明をしてきた。部長が理解していないはずはないのに、なぜ社員に伝わっていないのか。社長の「ミドルマネジメントが機能していない」という問題意識はますます大きくなっていく。

 
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組織風土改革の現場では、このような場面に何度も直面します。それだけ「方針の共有」が簡単ではないということだと思います。

「方針を示したら、組織のメンバーはそのために自分は何をすべきかを主体的に考え行動するもの」という考え方は、組織のあるべき論として理解はできますが、現実はなかなかその通りにはいきません。方針が一向に行動に移されない場合、「組織の方針を個々のメンバーの仕事に落とし込んで徹底・管理できていないマネージャーの責任」ということになりがちですが、それだけでは問題が解決するとは思えません。

 

大事なことは、方針を主体的な行動に転換していくためにはその間をつなぐ丁寧なプロセスが必要であるということです。人がその気になって組織の方針に向かって動き出すというのは決して簡単なことではありません。機械であれば明確な指示をすればその通りに動きますが、人間は機械ほど従順ではありません。

 

では方針と主体的な行動をつなぐプロセスとはどういうものなのか。次回以降、これをテーマに考えてみようと思います。