こんにちは。
形成外科指導医、専門医の今西です。

 

今回は、ほくろ(色素性母斑)三部作の完結編ですグッ

 

 

 

実際に症例をお見せして、私が何を考えながら腫瘍を切除したかお話ししますニコニコ

 

ただ、術前の写真が見つからなかったので、術後の写真を加工して、術前写真としておりますあせる

 

 

術前

 

・腫瘍の大きさは45×35mmでした。

・20歳前後、普通体形の女性の下腿ということを考えると、だいたいこのような感じで腫瘍があったとしてよいと思います。

・生まれつき存在したとのことです。

 

 

 

ここで前回の記事でご説明した、色素性母斑の取り方に影響する因子を1つずつ確認していきましょう。

 

患者様のご希望
・できるだけ目立たなくして欲しい。

・なるべく保険診療で治療して欲しい。

・癌の心配はあまりしていないが、大きいのでできれば病理検査したい

 

部位

・右下腿外側

 

大きさ
・45×35mm

 

深さ
・視診では正確にはわからない。

しかし、四肢の先天性色素性母斑は、大きいものになるほど、皮下脂肪まで存在する可能性が高くなるという論文がある

→ おそらく腫瘍は皮下脂肪まで達しているだろうと推測

 

 

 

このような条件が出てきました。

 

 

ここからどのように腫瘍をとるかを考えますうーん

 

医学的な観点から考えると、

・まあまあ大きいので、できれば病理検査をしたい。

・皮下脂肪まで腫瘍がありそうなので、皮膚を削り取るレーザーと色素除去のレーザーを併用しても、全く傷跡がない状態にするのはかなり難しそう。できるとしても、治療回数がかなり増えそう。

・まあまあ大きいけれども、そのまま縫い閉じられそう。(植皮術や皮弁移植術は必要なさそう。)

 

患者様のご希望は、

・なるべく保険診療で治療してほしい。

→ 保険診療では、皮膚を削り取るレーザーは使えない。

・できれば病理検査したい。

→ レーザーで皮膚を削ると、腫瘍全体を病理検査に提出することはできなくなる。

・できるだけ目立たなくしてほしい。

→ レーザーで治療しても、ある程度傷跡や色素が残りそう。

 

以上のことを総合して考えると、今回はレーザーではなく、腫瘍を完全に切除し、病理検査に提出する方がメリットが大きいと判断しましたニコニコ

 

 

 

腫瘍を完全に切除することを決めたら、次は、できる傷跡をいかに目立たなくするかということを考えますうーん

 

 

みなさまが傷跡について気になることとしては、

 

①傷跡の長さ

②傷跡の幅

③傷跡の色

④傷跡の周りのゆがみ

 

などがあるのではないでしょうか。

 

執刀医は、これらの要素の総合点が一番高くなる手術方法を考えます。

 

 

「えっ、切って、とって、縫うだけじゃないの?うーん

 

と思われるかもしれませんが、実は、プランニングによって結果はかなり変わってきます。

なぜなら、①~④はお互いに影響を及ぼしあうからです。

 

 

例をあげますねニコニコ

 

今回のような腫瘍を切除縫合する場合、

 


こんな感じのデザインで切除される先生が多いと思います。

 

このようなデザインにするのは、下記のような理由からです。

 

・縫合後のラインがRSTL(relaxed skin tension line)になるべく平行になるようにする。

傷跡がRSTLに平行になるほど、傷跡が目立ちにくくなると言われています。

・dog earを目立たなくするために、腫瘍だけではなく正常皮膚も少し切り取る。

 

 

「ん?dog earって何?」犬

 

と思われた方のために、ご説明しますね。

 

dog earとは、直訳すると「犬の耳」です。

ただここでは、「皮膚や腫瘍を切除して1本の傷に縫い合わせたときに、傷の両端に生じるふくらみ」のことを言います。
 

紙を皮膚と見立ててご説明します。

 


 

腫瘍をとった後、このような皮膚欠損ができたとします。

 

これをそのまま縫合すると、図のように両端がふくらんでしまいます。

これがdog earです。犬の耳のように見えますよね。(異論は認めますえー

 

 

 

 

このふくらみを目立たなくするために、よく行われるのが、切開線を長くする方法です。

 

丸い欠損をそのまま縫い閉じるのではなく、下の図のように切開線を長くします。

 

 

 

この状態で縫い閉じたとしても、両端のふくらみは生じますが、さきほどよりは目立たなくなっているのがおわかりいただけると思います。

 

 

 

ただ、この方法は大きな欠点があります。

傷跡が長くなってしまうのです。

 

つまり、

④傷跡の周りのゆがみ 

を小さくしようとすると

①傷跡の長さ  

が長くなってしまうのです。

 

 

上のデザインのように腫瘍を切除した場合、傷跡の長さは、下の写真の赤線ぐらいになってしまいます。

 

 

「結構長いな」ガーン

 

と思われた方が多いのではないでしょうか。

 

ただ、実際にはもっと傷を長くする場合もあると思います。

 

なぜなら、dog earは平面にできた場合よりも、四肢のような局面にできた方が、より膨らみが目立つからです。

下の図のように、局面にできたdog earの方が、ゆがみの麓の部分の差の分(赤い部分)、よりふくらみが目立つのがわかると思います。

 

 

これを解消するために、より傷を長くする場合があるということです。

 

 

 

しかし、私は、

 

傷の長さはできるだけ短くする

 

ことを常に心がけています。

 

 

傷跡が綺麗になるように閉創すれば、長くても目立たないからよい

 

という考えもあると思いますが、

 

傷跡が綺麗になるかは体質も関係する

 

以上、傷跡の綺麗さを完全にコントロールすることは不可能です。

 

しかし、傷の長さのコントロールできます。

 

個人的には、この違いは大きいと考えています。

 

 

 

 

そういう考えを前提にして、私はプランニングしました。

 

傷跡をできるだけ短くするために、腫瘍は形なりに切除します。

 

 

しかし、このまま閉創するとdog earが目立ちます。

 

そこでdog earをなるべく目立たないようにする工夫が必要になります。

 

よく行われる方法としては、

・dog earができている部分の皮下脂肪を薄くする

・広い範囲を剥離して、ゆがみを広い範囲で吸収させる

の2つかと思います。

 

この方法も症例を選べば良い方法だと思います。

 

ただ、次のような問題点があると考えています。

 

・dog earができている部分を皮下で剥離すると、ゆがみがより助長される

→ dog earができている部分の皮膚が皮下脂肪とくっついていれば、dog earは常に下向きに引っ張られていることになりますが、そこを外すと下向きに引っ張られなくなるため、ゆがみが顕在化します。

・広い範囲を剥離するということは、それだけ傷口の辺縁の血流を悪くすることになります。

やりすぎると創縁が壊死することになります。

また傷跡が汚くなる可能性があります。(ただ、剥離することで、縫合後の創縁にかかる力が小さくなり、結果として傷跡の幅を小さくできる可能性もあります。)

 

 

このあたりも考慮した結果、今回は、黄色の範囲の皮下を剥離しました。

 

 

コンセプトは、

・dog earができる部分の下床は剥離しないで、ゆがみを小さくする

・それ以外の部分は大きく血流が落ちない範囲で剥離して、創縁にかかる力を小さくし、傷跡が綺麗になるようにする

です。

 

ただ、この状態でそのまま縫合すると、dog earが目立ちます。

それをなるべく解消するために、軟部組織の移動や創縁を引っ張る方向などを考えながら、縫合していきます。

これはマニアックになりすぎるので、割愛します。

 

 

 

手術後6ヵ月

 

・dog earが目立たないように傷を延長した場合と比較して、3cm程度は傷跡を短くできていると思います。

・dog earは完全には解消できていませんが、許容範囲内かと思います。

この程度であれば、傷跡を延長せずに改善できると思います。

 

患者様に修正手術をご提案しましたが、現在のままで十分とおっしゃったので、今回は見送ることにしました。

 

 

 

このような考えで、私は色素性母斑をとっています。

次回の題材は決めておりませんが、みなさまに役立つ情報をお話しできればと思っています。


お付き合いいただけると、嬉しいですおねがい

 

 

術式:皮膚・皮下腫瘍摘出術
リスク:腫れ、痛み、出血、感染、再発、創離開、皮膚のゆがみ、肥厚性瘢痕、ケロイド