映画の準備作業には色々ありますが、前に書いたロケハンと並んで重要度が高いものとして「衣装合わせ」があります。映画でもテレビドラマでも、登場する人物は全て、どのシーンでどんな衣装を着るかが撮影前に決まっていなくてはなりません。これは眼鏡や靴、鞄など身につけるもの全般について言えることです。
 衣装合わせは、これらを決める作業です。まず衣装担当の人(スタイリスト)と監督が打ち合わせをします。そしてそれぞれの人物について、全体的なイメージやどのシーンでどんな衣装を着せたいかというようなことを話します。
 これはロケハンの前に制作部のスタッフと監督が各シーンについてどんな場所がいいかイメージを話すのと似ています。大きく違うのは、僕はファッションのことはよくわからないということです。ロケ場所については「このシーンはこんな場所で撮りたい」とかなり明確に言えますが、衣装に関しては非常に漠然としたことしか言えません。その分スタイリストにお任せという度合いは高くなります。今回のスタイリトは白石敦子さんです。
 スタイリストはこの打ち合わせを受けて、衣装の候補をたくさん用意し、衣装合わせの日に臨みます。
 衣装合わせは何日かに分けて行い、俳優に一人ずつ来てもらいます。部屋の一角に衝立で囲った着替え場所を作り、俳優とスタイリストがそこに入って着替えをします。用意したものをとっかえひっかえ着ては出て来てもらい、「これはこのシ-ンで」と決めて行くのです。着てもらっても「これはちょっと違う」と却下になるものもあります。
 
 衣装合わせの日は、俳優とメインスタッフの初顔合わせという意味もあります。そして監督が俳優に役柄について説明する場でもあるのです。今回、門脇さんの衣装合わせの前に、役について話す時間を設けて撮影所の食堂に入ったのですが、僕が「脚本を読んで何か質問は」と聞くと「大丈夫です」と彼女が答えて、一瞬で終ってしまいました。このインタビューを読むと、門脇さんはこのときだけでなくいつもそんな感じだそうです。

 今回、衣装に関して力を入れたのは、ヒロイン・真実と、友人になる恵里香です。恵里香は真実とは対照的な活動的なキャラです。職業もスタイリストという設定なので、着る服にこだわりを持っているだろうということで、オシャレな服を色々と用意してもらいました。

 


 どちらかというと難しいのは真実の方です。引きこもりなのでオシャレに気を使うという性格ではないものの、自分の世界はちゃんと持っているという感じをどう出すか。白石さんは古着を用意したり、ストーリーが進むに連れて真実の衣装が明るくなって行ったりという提案をしてくれました。

 


 結果として、今回の映画は衣装も見どころのひとつになっています。ファッションに詳しくない監督でも、スタイリストさんに任せることでそれが実現出来るのです。

 それで思い出したのですが、先日「ロボコップ」や「氷の微笑」などで有名なポール・バーホーベン監督のトークショーに行ったのですが、会場から出た「『ロボコップ』は編集がすごいですがどのようにやったのですか」という質問に対して「編集をしたのは編集マンです」と答えていました。また「監督の重要な仕事は、優秀なスタッフを集めて任せることだ」とも。このことの大切さは今回僕自身が監督をして実感したことです。

 

[追記]この映画の衣装については、公式サイトの中にも解説がありますので合わせてご覧下さい。

 

 

「世界は今日から君のもの」

渋谷シネパレスほかで公開中。劇場情報は公式サイトをご覧下さい。

 

監督・脚本:尾崎将也

音楽・川井憲次 主題歌・藤原さくら「1995」
出演:門脇麦 三浦貴大 比留川游 マキタスポーツ YOUほか

上映時間:106分
配給:アークエンタテインメント

 

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