今回は「美術」の話です。美術とは言ってみれば、画面の中に背景として映るものを用意する仕事です。今回の映画では「装飾」という言い方をしています。
 一般的に美術スタッフの一番大きな仕事は、セットを作ることです。しかし本作はオール・ロケで、セットでの撮影はありません。
 セットがない場合は、実際の場所を借りてロケするわけですが、ただそこに行けば撮影が出来るわけではありません。画面に映るものでその場にないものを、小さな物から大きな物まで用意しなければいけないのです。
 屋外の公園や道路でロケするのであれば、ほとんどの場合そのまま撮影するので、美術の仕事はあまりありません。腕の見せ所となるのは屋内での撮影です。
 本作で家のシーンは二つあります。主人公・真実の家と、友人になる恵里香の家です。これらは空き家で撮影用に貸し出しているところを借り、中を飾り込んで撮影しました。建物は最初からありますが、中身は空の状態です。その空の部屋に、そこで暮らしている人の生活をいちから作り上げて行くのです。これを「ロケセット」という言い方をします。
 真実の部屋は長年引きこもっていたオタク女子、という感じを出しながらも極端な変人にはしたくないというバランスが必要でした。
 恵里香の家は、スタイリストという職業設定なので、住むところにもかなりのこだわりがあるという感じを出したいと思いました。ここは真実が自由に才能を羽ばたかせることが出来るようになる場所でもあるので、それに相応しい雰囲気も備えていなくてはなりません。

 

何もない日本家屋が・・・

オシャレな部屋に変身


 今回、装飾を担当してくれたのは松田光畝さんです。僕は松田さんに意図を大まかに説明したくらいで、あとはお任せです。僕がやったのは、せいぜい真実の部屋の本棚のマンガの並べ方を変えたくらいです(笑)。

 今回の作品ではセット撮影はありませんでしたが、これまで自分が脚本を書いたドラマでは多くのセット撮影を見て来ました。
 セットで撮影することの利点は、シーンごとに撮影場所を移動しなくて済むとか、控え室やメイクルームが完備されているなど色々ありますが、撮影中に一番大きな違いを感じるのは、建物の「壁」の存在です。セットの壁は取り外し自由で、「次はこっちから撮ろう」となったらそちらの壁を取り外して撮影出来るのです。このときカメラは部屋の外にセッティングされます(演出意図としてカメラが部屋の中に入る場合もあります)。
 それに対してロケセットの場合は、壁を外すことは出来ないので、常にカメラは部屋の中にあります。そうするとアングルや構図に制限が起こります。またカメラを置く場所によっては邪魔になる家具を移動させるなどの作業が必要になるのです。
 今回も、真実が部屋でイラストを描くシーンでは、机に向かう真実を正面から撮ろうとすると机を動かしてカメラが壁と机の間に入り込む必要があります。セットならここは机が面している壁を取り外すことになります。
 もちろん出来た作品を見ると、カットによって家具を移動しているなどということにお客さんは気づかないでしょう。映画はこういうスタッフのプロのノウハウで出来上がっているのです。

 

 

「世界は今日から君のもの」

監督・脚本:尾崎将也

音楽・川井憲次 主題歌・藤原さくら「1995」
出演:門脇麦 三浦貴大 比留川游 マキタスポーツ YOUほか

上映時間:106分
配給:アークエンタテインメント

7月15日(土)から渋谷シネパレスほかで全国公開

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予告編