映画制作には色々な工程がありますが、撮影後に行う重要な作業として「編集」があります。撮影した映像を取捨選択して、順番につないでいく作業です。

 編集の作業にどれくらい時間と手間がかかるかは、作品によってかなり差が出ると思います。「せかきみ」は比較的少ない方でしょう。カット数がそれほど多くなく、絵コンテに沿って必要なカットだけを撮影していく手法だからです。これがアクションもののように細かいカット割りだったり、撮影のときに色々なアングルでたくさんのテイクを撮っていたりすると、その分編集の手間も増えて行きます。
 前に何かで読んだのですが、ハリウッド映画では複数のチームに別れて何ヶ月もかけて作業したりするそうです。

 編集作業の流れですが、撮影が終わると、まずは編集担当の人がOKカットを順番通りに頭からラストまでつないだ粗編集を作ります。まだ音楽や効果音もなく、各カットの頭やお尻も長めにつないであってリズムもないので、多くの監督はこれを見てがっくりするそうです。僕はそんなこともありませんでした。初心者なもので「とりあえず映っててよかった」とか「とりあえずストーリーはわかる」とかいうレベルで満足するからです。

 僕の場合はこれをDVDに焼いて貰って、家に持ち帰って再生し、しょっちゅう止めたり戻したりしながら「ここは2秒くらい短く」とか「ここは入れ替える」などと紙に書き出します。次のときにそれを渡して、直して貰います。


 編集室では、編集の人がパソコンに向かい、監督やプロデューサーは後ろに座っています。昔はフィルムを切ったり貼ったりする作業でしたが、今はデジタルになってパソコンの編集ソフトで行うので、直しの作業はサクサクと進みます。

 ちなみに編集やダビングなどポストプロダクションの作業は日活撮影所で行いました。


 一カ所直すごとに直した箇所を横にあるモニターで再生して確認します。「どうですか?」と編集の人に聞かれ、監督は「OKです」とか「もうちょっと切りましょうか」などと言います。このとき編集の人がいちいち振り返って聞くので、首が疲れるのではないかと余計な心配をしました。
 ひと通り直しが終わったら全体を通して見て、気になるところがあればまた直してもらいます。この作業を「もう直しがない」という状態になるまで繰り返すのです。

 前に書きましたが、直しを繰り返す感じは脚本の作業に通じるものがあります。脚本もパソコンで書くようになって、手書きのときよりも挿入、削除、入れ替えなどが簡単に出来るようになりました。編集も同じです。「ここ切ってください」と言って切ってもらったのを見て、やっぱり前の方がいいなと思ったとき、「すみません、やっぱり前ので」と気軽に言えます。これがフィルムの切り貼りだと申し訳なくて言いにくいのではないかと思います。

 今回、粗編集を見て「シーンとして弱いな」と感じたシーンがありました。ヒロインの真実が神社でスケッチブックにイラストを書くシーンです。ここは真実が自由にイラストを書けるようになったというハッピーな感じのあるシーンにしたいのですが、撮影した映像ではその感じが足りない気がしたのです。そこで要素を追加することにしました。何を足したかは、映画を見て確認してください。神社のシーンで、「あ、これを足したんだな」と思って見てもらえるとありがたいです。

 

編集で要素を足した神社のシーン

 

  
 話は変わりますが、編集に関して映画とテレビドラマで大きく違うのは、映画は作品の長さは決まっていないけど、テレビは秒単位で決まっているということです。僕はテレビドラマの編集作業に関わったことはありませんが、いつも関心するのはちゃんと1秒違わず決まった長さで作品が出来上がるとういうことです。
 テレビドラマでは、脚本が大体出来た段階で記録の人がそれを読んで、「何分長い」とか「短い」とか言ってくれます。その読みに従って脚本の長さを調整するわけですが、このとき、時間ぴったりにはせず、2,3分長い状態で決定稿にします。だから編集の最初の段階では少し長くなります。これを編集でちょっとずつ切っていくわけです。

 

 映画の編集について書いた書籍はそう多くはないですが、ウオルター・マーチ著「映画の瞬き」(フィルムアート社)という本が平易な文章で読みやすいです。

 この本の中で一番「なるほど」と思ったのは、編集において重要なのは物理的な動きの整合性などよりも、人物の感情がきちんと表現されているかどうかだという部分です。感情がきちんと流れていれば、観客は人物の位置関係に多少の矛盾があったりするのは気にしないのです。

 そう言われてみると、先に書いた神社のシーンを含め、ああしよう、こうしようと編集で試行錯誤したことは全て人物の感情を作り、それを観客に伝える作業だったとわかります。これは編集に限らず、脚本や演出など映画を作る作業の全てにおいて通じることだと思います。

 

[尾崎将也ブログ「カントクのお仕事」 2107年6月11日]

 

 

「世界は今日から君のもの」

監督・脚本:尾崎将也

音楽・川井憲次 主題歌・藤原さくら「1995」
出演:門脇麦 三浦貴大 比留川游 マキタスポーツ YOUほか

上映時間:106分
配給:アークエンタテインメント

7月15日(土)から渋谷シネパレスほかで全国公開

公式ツイッター

公式Facebook

 

予告編