映像作品を撮影する際に、監督が「絵コンテ」というものを書く場合があります。撮影するカットごとにカメラの動きやアングルなどを簡単な絵で書いたもので、監督が自分のイメージを固めるためと、スタッフにどんな映像を撮ろうとしているかを伝えるのが主な目的です。
 アニメの場合は必ず絵コンテが必要です。スタッフに絵を描いてもらわないといけないので、元になるものがないと何も作業出来ません。実写の場合は、現場で俳優を立たせて「このアングルから撮ろう」などと口頭で言ってもいいので、必ず絵コンテが必要ということはありません。書かない監督もけっこういるようです。


 前作に引き続き今作でも、僕は絵コンテを書きました。なぜ書いたかと言うと、まず撮影の前に自分のイメージをはっきりさせておきたいということがあります。新米監督としては、現場に行ってから「うーん、どうしよう」などと考え込んで、何も浮かばず頭が真っ白になったらどうしようという不安があるので、とりあえずこれに基づいて撮ればいいという安心材料が欲しいのです。
 もうひとつの目的は作業が効率的になるということです。絵コンテを全スタッフにコピーして配っておけば、「これはもう撮った」「あとはこれが残っている」などと作業の進行状況やこれからやることを共有することが出来て、いちいち説明する手間が省けるのです。実際、撮影が終わったとき、助監督が「この絵コンテがあったおかげでスケジュール内で撮ることが出来ました」と言ってました。


 その絵コンテがこれです。



 こういうものを全シーンにわたって描くのです。一応、スタッフからは「わかりやすい」と好評でした。このコンテの一番下のあるのは、予告編にも出て来るこのカットです。

 


 

 加藤パーチクさんの髪型が書いてあるので、キャスティングを決めた後で書いたんだということがわかります。

 僕の場合は必ずしも絵コンテの通りに撮ろうとは思っていません。カメラマンと話し合って「この方がよいのでは」ということになって変更することはあります。そういうコミュニケーションを取るためにも、話をするベースとして絵コンテがあった方がいいのではないかと思います。


 ちなみにテレビドラマの場合は、台本にカットの切れ目の線を引いて「誰それのアップ」などと書き込んだ「割り」と呼ばれるものを演出家が書いて、その日に撮影する分を冊子にした「割り本」というものをスタッフに配ります。

 ところで、昔の名監督はどんな絵コンテを書いていたのでしょうか。詳細な絵コンテを書いたことで有名なのは岡本喜八監督で、下の写真は「日本のいちばん長い日」の絵コンテです。

 これは、この映画の絵コンテを一冊の本にした『描いちゃ消し描いちゃ消し 岡本喜八の絵コンテ帖』という本です。(絶版になっていたものをヤフオクでゲットしました)今回の映画を撮る前にこれを参考にして絵コンテを書こうとしたのですが、すぐに「このレベルは無理・・・」と諦めました。


 こちらは黒澤明監督の「七人の侍」の絵コンテ。(『黒澤明「七人の侍」創作ノート』より)


 これを見ると、「あ、この程度でもいいんだ」と安心します。(もちろんそれは絵コンテの絵の話で、出来上がった映画のことではありません)

 

 ああでもない、こうでもないと考えながら絵コンテを描くことは楽しいことで、映画作りの楽しさのひとつです。 

 

[尾崎将也ブログ「カントクのお仕事」 2107年5月28日]

 

 

「世界は今日から君のもの」

監督・脚本:尾崎将也

音楽・川井憲次 主題歌・藤原さくら「1995」
出演:門脇麦 三浦貴大 比留川游 マキタスポーツ YOUほか

上映時間:106分
配給:アークエンタテインメント

7月15日(土)から渋谷シネパレスほかで全国公開

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予告編