本日は『低PBR株の逆襲』日本実業出版社、著者はみずほ証券エクイティ調査部チーフ株式ストラテジスト、菊地正俊さんの本を紹介していきたいと思います。昨年、異例の東証からの要請により「日本株の潮流が激変した」ということが書かれており、その背景、様々な業種、多くの具体的な企業の対策に対するコメントなど、かなりボリューミーに掲載された1冊になっています。

 

 日本株は他の先進国と比べても割安な傾向がまだあると言われており、PERやPBRなどの指標からも裏付けされていると思います。そこで『低PBRの逆襲』という本書、外国人投資家がどのような興味を持っていて、どういった考えをしているのかという観点も本書で学べると思います。そんな中で「評価されるPBR対策はどのようなものなのか」3つのポイントについて、資本コストとはどういったものなのかについて考えていきたいと思います。

 

 この資本コストを意識した「ROE、ROICといった収益目標」「株主還元・財務戦略の具体策」「事業ポートフォリオ見直しなどの成長戦略」この3つが特に重要だと言われています。今回は、以下について紹介していきたいと思います。

  1. PBR改善要請の背景
  2. 評価されるPBR対策3本柱

 PBRとは株価純資産倍率、Price Book-Value Ratioのことで、解散価値とも言われています。帳簿上の資産から、借金を引いた残りと、株価(時価総額)とどちらが高いかを比較するものとして見られています。ただし、実際の帳簿通りの価格で売れるかとかは分からないですし、あくまで帳簿上の解散価値を割れているかどうか、1倍という基準が特に見られているポイントです。

 

PBR改善の背景 PBR1倍割れの企業は、バブルの時はほぼありませんでした。それがバブル崩壊して以降、50%以上もの企業が1倍割れをしてしまい、リーマンショックでそれが8割ほどになったそうです。アベノミクスで上昇相場になったことで30%に減るくらいまで株価が上昇、そして2022年末時点ではまた47%、結構PBR1倍割多かったんです。

 

 それが2023年の3月末に東証の要請があり、その効果があってか10月末には44%まで若干改善され、平均PBRは1.2~1.4倍へ上がっています。昨年の低PBR改善要請はある程度の効果、10月末時点で現れていた、そして今もさらに改善されています。

 

 この要請についてですが「基本コストや株価を意識した経営の実現に向けての対応について」というものでした。その中で現状分析に用いることでまずWACCや株主資本コスト、2つ目が資本収益性、ROIC、ROE、3つ目が市場評価、株価・時価総額、PBR、PER。どの指標を用いるかの定めはないことでしたが、その中でもPBRが特にメディアでは大きく騒がれがちでしたが、結果的にPBR改善するのを目指す時に、資本コストの意識、収益性の意識、市場評価、どれも欠かせないところでした。

 

 特に、PBRは分かりやすく「解散価値」という言葉も印象にも残りますし、分かりやすい方が話題にもなりやすかったから、PBRが取り沙汰されたと感じます。

 

資本コスト 今回、資本コストを紹介しましたが、これは見出しにもある通り重要なことで、これは基本の部分ですが、本書でも1つ見出しとして出ていたのが、株主資本コストは0ではないということです。

 

「最近、米国の大手テクノロジー企業のCEOには、ファイナンスとエンジニアリングのマスターのダブル学位を取った人が増えていますが、日本企業の社長には工場や販売など現場出身の方が多いため、ファイナンスの知識が十分ではないケースが散見されます。「株主資本」をコストがかからない「自己資本」と見なし、自社の資本コストは借入れ金利のみだと誤解していた地方の上場企業の社長もいたぐらいです」

 

と書かれています。確かに、銀行からの借入れは明確に金利によりキャッシュが出ていってるので、これは資本を準備するのにコストが明らかにかかっているのは分かりますが、「株主資本コスト」はそういうものがないので、返さなくていいお金みたいに言われることもあるのかなと思いますが、そういう言い方では本当にコストのかからない調達手段に聞こえてしまいます。

 

 実際、上場企業社長も分かってないという記載もあったので、世の中の認識は本当にそれが一般的なんだと思いますが、投資家からしたら溜まったもんじゃなく、投資家はリターンを求めて投資してるので、そのリターン分がコストになっていると認識してもらわないと困ります。

 

 その「資本コストを意識しよう」というのが1番最初に書かれてるわけで、その指標の例としてWACCや株主資本コストというのが書かれてます。まずはWACC、ファイナンスの入門書には必ずWACCは書いてあります。これは借入れコストと株式調達コストを過重平均したものです。計算式は下式になりますが、初めてこの計算見た方はこういう感じなんだと、最初から全部納得しようと思うんじゃなく、最初はふーんと受け入れて、何度も聞いてるうちにだんだん納得していくのが、良いのかなと思います。

 

 WACCってすごいアカデミックだと感じる方も多いと思いますが、例えば事例としてあげられていたのがジョーシングループにおける「株主資本コスト」「過重平均資本コスト」です。これは新中計「JT2025経営計画」より引用させてもらっていますが、本書でも良い事例として紹介されています。WACCは図の下の部分で2.99%、このWACCを上回るROICなど収益率を出していきましょうというのが基本的な流れになるのと思います。上の計算の方はCAPMというもので、株主資本コストの利率をどうするかをCAPMというモデルで出したということです。これも株主用コストを割り出す時に、よくあるモデルの1つじゃないでしょうか。本書の中でも株主たちに対し、このように具体的な資本コスト意識を持ってるという良い事例として書かれいました。

 

 

 私自身、ファイナンスを学ぶ中でどのように使われるのか疑問はあったわけでですが、上場企業が出してる事例を見てこのように使われるのかと分かりますが、このような感覚を分かりやすく表していたのが本書のフレーズだと思います。「資本コストの”サイエンス”の部分と”アート”の部分、両方の意識が必要ですという話で、

 

「資本コストの”サイエンス”的な理解は必要だが、それだけでは十分ではなく、”アート”である経営判断を加味することも必要である。資本コストは、前提条件や推定方法が変わらなければ、特定の時点ではいつどのような方法で計算しても同じ結果になる。しかし、投資家が常に同じ情報を持ち、投資リターンに対して同じ期待を持ってるなどの前提条件は現実的ではない。」

 

 会社から見た調達のコストは、株主から見たら「どれだけのリターンがあるか」ということで、その株式調達は企業から見たらコストになるわけですが、投資家たちの期待値も本当に基本バラバラで、当たり前ですが絶対的な答えが存在するわけではないんです。まそういった”サイエンス”の部分の理解は必要だが、限界はあることも理解した上で、企業と投資家が実際の対話で経営判断も加した資本コストを活用することです。

 

 このように、この辺のファイナンスは曖昧な部分がある学問ですが、”サイエンス”の部分を理解はした上で”アート”の部分、会話の部分が重要だと思いました。そして、それを上回る収益性が必要だということが伝われば市場評価にもつがると思います。本書の中では、その辺の考え方で『CFO思考』という本が絶賛されており、企業のIR担当の方は必見の本なのかなと思います。

 

 日本企業の中には、ROEなどの収益性の部分が良く、資本コストも上回る収益も出しているにも関わらず、市場評価が上がらない企業もたくさんあるわけです。そもそも

 

PBR=ROE×PER

 

で表すことができるので、ROEの部分がいくら上がっても、PERも上がらないとPBRの改善は限定的なんです。なんで収益性がいいのにPER上がらないのか、その辺りも『CFO思考』で、どう投資家にアピール伝えていくのかが大事なのか、などが学べると思います。

 

 投資家目線でも大事で、収益性は良いけど株価が上がらない株があるとして、その企業が『CFO思考』を持ててるかどうかによって、周りの投資家がその企業の良さに気づくかどうかが変わってくるわけです。周りの投資家に気づかれないと株価は上がらない、じゃあ気づいてもらえるような『CFO思考』を持ってる企業なのかどうか、という目線を持てるので、これは投資家もIR担当も必要な考え方だと思います。

 

また明日も紹介しますので、良かったらチェックしてみて下さい。

 

 

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