今回紹介する映画は『ハケンアニメ』人気小説の映画化。藤村深月先生の小説『ハケンアニメ』の実写映画化で、新人アニメ監督・斉藤瞳と天才監督・王子千晴の覇権の座をかけたアニメ制作を描いた話。監督は吉野耕平、出演は吉岡理帆、中村倫也、柄本佑、尾野真千子など。

 

原作との違い 原作は直木賞作家である辻村深月先生による小説。辻村先生は2019年に公開された『ドラえもん月面探査機』の脚本も手掛けていおり、藤子F不二雄先生の大ファンということもあり、この『月面探査機』は近年のドラえもん映画では屈指の傑作でした。そんな辻村先生が描いたアニメ製作の仕事ものが今回の『ハケンアニメ』で、この原作の小説も非常に面白いので、是非読んでもらいたい作品です。

 

 今回の作品は、原作と大筋の流れは同じですが、結構変わってるところも多いです。一番は主人公となるキャラがより明確になったところ、原作だと1章から3章それぞれが3人のキャラクターの視点から描かれる構成ですが、映画版では吉岡理帆演じる新人監督・斉藤瞳を中心に、彼女のアニメ監督としての成長譚としてまとめ上げてます。設定も映画用にアレンジされ、原作ではゲームのアニメーションを手掛けて好評だった実績のある期待の新人監督という感じのキャラでしたが、映画版ではガチの新人監督のデビューになっており、非常にお仕事ムービーらしいキャラになってます。

 

 中村倫也演じる王子監督との対決がより直接的になってるのも原作から変わってるところ。原作と違い映画では同じ時間に放送されてる裏番組になっており、完全に直接対決になってます。現実では、普通アニメ同士で同じ時間に放送するのは避けますが、直接対決にしたことで『バクマン』っぽくなってます。斎藤監督がアニメ業界に入ったのも王子監督の過去作を見たことがきっかけになってたり、2人の監督の関係や対比がより明確になっていて、この辺の映画に向けたアレンジは旨いところだと思います。

 

 あとは小野花梨が演じるアニメーターの並澤のエピソードが映画だと大幅カットされて、アニメの聖地巡礼とか非常に面白いソードなので少し残念な感じもありますが、1本の映画としてまとめ上げるには英断だったと思います。

 

お仕事ムービーとしてシンプルに面白い 本作はアニメ制作を描いた「お仕事もの」となっており「お仕事もの」としてシンプルで王道的な作品で、特に監督とプロデューサーに焦点を当てて描いてます。監督はもちろんプロピューターの個性もよく出てます。斎藤監督と組む行城は作品を広めるためにあらゆる手を尽くすプロデューサーで、一見すると作品のクオリティより売れるかどうかを重視する人にも見える。経験のないアイドルの声優起用とか、謎のコラボ宣伝とかを嫌うアニメファンは多いが、商売として成功させるため、何よりアニメというものを広めるためには必要なものでもあります。時には監督を振り回しているようにも見えるが、まだ未熟な監督にいろんな経験を積ませようともしている、師匠な存在でもあります。今回の話は新人監督がベテランプロデューサーのもとで学び巣立っていく物語とも言えます。

 

 一方、王子監督と組むプロデューサー、尾野真千子演じる有科は監督の才能に絶対の信頼を置き、監督の思い描くものを形にするために全力を尽くすプロデューサー。王子監督自分で納得できるものをとことん追求する作家で、時には無茶苦茶なことを言って現場に大きな負担をかけたりもする、それでも監督と作品の力を信じて全力でサポートする、作家にとって理想的なプロデューサーです。王子監督は王子監督で天才といわれるがいうの葛藤、傑作を生み出さなきゃいけないプレッシャーと戦う繊細な面も描かれてました。そんな傑作と言われる前作でさえ監督にとっては心残りのある作品、だからこそ後悔のない全力を込めた作品を作ろうとする、そんなアニメ作りにかける熱意が詰まった作品だと思います。

 

劇中アニメのクオリティも高い 本作はアニメ制作の話なので、劇中でも作られたアニメが流れますが、これがめちゃくちゃクオリティが高い。スタッフも声優も現役の大物が手がけてるので流石の出来です。アニメの設定もかなり斬新で、どんな作品か非常に気になりますし、普通にアニメ化して放送して欲しいぐらいです。

 

 個人的には王子監督の「運命戦線リベルライト」が気になります。魔法少女もので1話ごとに1年経過していくという、普通だったらこんな盛りまくりも特殊な設定、持て余しそうな作品ですが、それをどう扱うのかめちゃくちゃ気になります。こんな感じで劇中アニメにしっかり覇権が取れるだけの説得力があるのが素晴らしいところだと思います。

 

役者陣について あとは役所陣ですが、主要キャストは全員はまり役だったと思います。特に斎藤監督を演じた吉岡里穂、新人の初々しさ、未熟さを保ちつつ、アニメ制作への情熱、芯の強さも出てる絶妙なバランスだったと思います。柄本佑も淡々としてる仕事人間らしさを出しつつも、斎藤監督を気遣う優しさも見える絶妙な演技でした。中村倫也も天才イケメン監督という役にぴったりなカリスマ性があります。あとは声優の河野麻里佳がアイドル声優役で出てるのも面白いところです。

 

 こんな感じで非常によくできた映画だと思いますが、少しだけ気になったところを挙げるなら少し古さを感じたところです。作中だと覇権争いが視聴率や円盤の売り上げなどで見られてますが、近年のアニメは配信もかなり強くなっています。アニメの視聴率とか近年では『鬼滅の刃』みたいな怪物でもないと気にしない人がほとんどです。サブスクがそこまで大きくなかった時代の作品ですが、だからこそ今の映画としてアップデートしてほしかったところです。とは言え、アニメ制作お仕事ムービーとしてシンプルに楽しめた作品でしたし、普段から当たり前のように見てるアニメが多くの人が魂を削って作られているのは改めて実感できた、良いエンタメ映画だったと思います。気になった方は是非ご覧ください。

 

 

 

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