私が事件・事故を担当していてやるせなくなるのは、子供を事件・事故で失った親が、民事の損害賠償請求の訴訟を起こそうとすると、親戚から、「お前は子供の命を金に換えるのか!」と非難されるケースがあることだ。賠償を求めて訴訟をするのは決して金が欲しいからではない。
 
殺人事件で子供を殺された親の言葉であるが、こう言っていた。「私が『加害者』に三億円払ったら息子の命が返ってくるなら私は喜んで払う。」この言葉を聞いたとき、涙が止まらなくなった。交通事故でも親は同じ思いだろう。
 
親戚がどんな考えを持つかはその人の自由だ。しかし、傷ついている人をさらに傷つけて良い自由まではない。
 
訴訟をするのは、命を金に換えようとしているからではない。その人にとって最も大切な家族の命を奪ったのだから加害者の当然の報い、償いとして民事訴訟を起こすのである。
 
ただ、金を払ったからと言って、償いを終えたなどとは考えて欲しくない。本当の償いは 命を返してもらうことなのだから。