伝説的なレーベルの創設者、アラン・マッギーの伝記映画『Creation Stories』レビュー | Just for a Day: 小林真里ブログ

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映画監督/映画評論家 小林真里(Masato Kobayashi)です

かつて世界No1のインディレーベルに上り詰めた、

UKのクリエイション・レコーズの

総帥、アラン・マッギーの伝記映画

『Creation Stories』を鑑賞。

 

 

スコットランドで生まれ、思春期はパンクに

のめり込みバンド活動を行い、鉄道会社に就職するも

1983年に「クリエイション・レコーズ」を創設、

その後、インディポップバンドBig Pang Pow!を結成。

小学生の頃からの親友ボビー・ギレスピーも

ドラマーとして参加していた

The Jesus and Mary Chainのマネージャーも務め、

80年代中期に巻き起こったインディムーブメント

の波に乗って、Primal Scream、Felt、

House of Loveらのアルバムをリリースし、成功を収めると、

My Bloody ValentineやTeenage Funclub、

Ride、Slowdiveといった、

後にレジェンドとなるバンドたちと次々にサイン。

 

My Bloody Valentineの代表的なアルバム

「Loveless」の長期に渡ったレコーディング

費用がかさみ、レーベルは倒産の危機を迎えるものの、

90年代に入るとOasisを発掘し、

バンドはスターダムに駆け上がる……。

 

ロックに魅了され情熱を捧げたワイルドで

ハイパーな男の濃厚で過剰な生き様は

まさにロックンロールで、鋭い嗅覚と

音楽的センス、運命的な出会いを引き寄せる

運を持ち合わせた選ばれた人間、アラン・マッギー。

 

映画の原作となった伝記が秀逸で、

子供時代の父親によるハードコアなDV体験など

ディープな生い立ちやプライベートの様子が

詳細に語られ、発掘した数々の名バンドたちとの

出会いや彼らの名盤誕生秘話、レーベル運営の裏側、

レーベル全盛期のデカダンスでグラマラスな

不眠不休のパーティ三昧の狂乱といった

太く短く全力でスリリングに駆け抜ける様が

克明に綴られる。

抱腹絶倒の連続で、あまりにドラマティックで

エンターテインメントで、一気に読了した。

 

この最高の素材を映画化したのが、

製作ダニー・ボイル、共同脚色アーヴィン・ウェルシュ

という『トレインスポッティング』チーム。

 

主演を務めたのも『トレインスポッティング』の

スパッドこと、ユエン・ブレムナーだ。

この起用は成功で、見事な安定感で

かなりの適役ぶりだった。

 

マッギーの半生を時系列に沿って、時代ごとの

ハイライトを軸に描写しているので、

マッギーのキャリアをそれなりにわかりやすく

ダイジェスト的に映像化することに成功している。

 

このダイジェストというのが曲者で、

それなりにバランスよく全体を描いているものの、

マッギーのハイパーでダイナミックなエナジーや

クレイジーな生き様が映画を見るとインパクトが弱く、

エキサイティングな時代の

当時の空気や熱狂の再現にしても、どこか物足りない。

不完全燃焼の感は否めなかったのも正直なところ。

 

あと、登場するミュージシャンたちが

似ているようであまり似てないのもやや残念。

 

2002年にマイケル・ウィンターボトムが

監督した傑作『24アワーパーティピープル』は

ファクトリー・レコーズの創立者

トニー・ウィルソンの伝記映画だったが、

あの作品と比較すると、やはり小ぶりな感じがして

クオリティに大きく差があるのは明らか。

ここは監督の手腕と器量の差も大きいだろう

(『Creation Stories』の監督は役者あがりの

ニック・モラン)。

 

でも、この映画のおかげもあってか、

最近クリエイション・レコーズが再脚光を浴び、

再評価されており、例えば、

アメリカの人気音楽ブログサイト

「Brooklyn Vegan」では、RideやSlowdive、

Teenage Funclubのメンバーたちが

クリエイション・レコーズのベストアルバムを

選出していたりして、興味深いです。

 

最後に、僕が選ぶクリエイション・レコーズの

ベストアルバムベスト10です。

 

1. Slowdive - Souvlaki

2. My Bloody Valentine - Loveless

3. Teenage Funclub - Grand Prix

4. Ride - Going Blank Again

5. Oasis - Definitely Maybe

6. Slowdive - Just For A Day

7. Teenage Funclub - Bandwagonesque

8. My Bloody Valentine - Isn't Anything

9. Primal Scream - Screamadelica

10. Felt - Forever Breathes the Lonely World