「箱男」
段ボール箱に男が入る。人から干渉されず、のぞき窓から自由に世間を見る、理想の空間。
そんな箱男(永瀬正敏)と彼に興味を持つ軍医(佐藤浩市)、ニセ医者(浅野忠信)。安部公房原作小説、27年前にクランクイン寸前で中止になった作品を、石井岳龍監督が執念によりようやく映画化された力作。今年一番インパクトがあった作品になりました。
箱男。自由な空間に喜びを感じているが、唯一無二の存在でありたい、ニセ箱男は、許せない、軍医からの命令で箱男を調査するうち、自分も箱男になることを願うようになるニセ医者。このように物語は展開していきます。暗い画面がほとんどですが、箱男が歩く、走る、寝る・・・日常の生活に入り込んだ滑稽さがとてもユニークで、これは真実か妄想か、自由なのか束縛なのか、やや解釈難な部分もありますがとても考えさせられ、楽しませてくれる作品になっています。芸達者三人に絡む女性看護師役の白本彩菜さん、彼女を見ているだけでも価値あるぐらい魅力的です。日本のエマ・ストーンになり得る可能性にぜひ注目。
(ここからストーリーに関する内容を含みます。未見の方はご注意下さい)
①この荒唐無稽な設定をどう解釈するのか、十人十色だと思いますが、ラストに箱男が思いっきり断言するセリフが答え。その答えの過程は、それぞれが持っていていいと思います。
②監督、出演者がこれほど入れ込んだ作品はそうないでしょう。27年前に中止になったくやしさ、そしていつか映像化しようとする固い決意、映画化できなければ監督は8mでも撮るつもりだったし、永瀬正敏も8mでも出演するという入れ込みよう、画面を見ていてもその意気込みが感じられました。
③主役男優三人の芸達者ぶりは凄い。浅野忠信は「首」でも結構アドリブがあったと聞いていますが、本作でも、ニセ箱男対箱男の会話は、大筋こそ決まっていてもアドリブが入るそれが見事にはまっています。ものすごいリアル感です。そしてその芸達者三人をまさに弄ぶ白本彩菜さんがとてもいいです。もともと子役さんらしいですが、この作品はオーディションで選ばれました。美貌、スタイル、美声と三拍子そろって光り輝いています。
④難解な部分もありますが、箱男という存在が色々なものを想い、考えさせてくれます。相手に見えなくて干渉されない存在、人の生活を覗き見る、どこかに自分と重なる部分が見つかります。佐藤浩市も言っていますが、スマホが手放せないいつもなければ落ち着かない現代社会の人間全般にも箱男の可能性があるのではないでしょうか。