もう、住んではいないのに、

お帰り、と、

毎月お世話になるホテルの、ドアマンのおじさんが笑顔で迎えてくださる。

ホテルを、後にする時には、

いってらっしゃい、と。

もう、静岡には戻りたくはない。

だって、

君はいない。

わたしは、進歩がない。

桃は、

わたしが帰るのを、

虫の息で、待っていた。

認めたくなくて、

寒い中、八坂神社と、円山公園を行ったり来たりして、帰らなかった。

桜が、滲んで消える。

最終の新幹線で帰ると、

桃は、わたしを呼ぶ。

わたしに、抱かれて

わたしの腕の中で、静かに目を閉じた。

ただ、只管、わたしを待っていたのだ。

愚かな、わたしを。

わたしは、泣きたいのではない。

叫びたいのかも知れない。

絶叫したいのだな。

ああ、ジェットコースターに、

乗りに行こう。

誰にも気兼ねなく、

泣き叫べるから。

ばかだな、わたしは。

バカは、なおらないのだ。