はるの地にいのる | 友野雅志の『TomoPoetry』

友野雅志の『TomoPoetry』

日々書きためている詩をのせます。noteには下にのせています。https://note.com/mtomono





黒い土に横たわる春

天は銀

流れるのは純白の鳥

青いトゥシューズが地表ではねる

背の下では

プラスチックの球から

やわらかいアオマダラの羽

徐々に

ほそい指のように

なにかを抱くかたちになる


キャベツが洗われる

雫にまぎれて涙が落ちる音

わたしの人生を

かなしんではいけない

あなたはまもなく

風の歌を聴く

とおい歴史から

傷や黴

虫と凍った星

それらの削りおとされる音

最も古い窓を

遠くからの風のために

すこしだけ開けるといい


あなたは幸せでいよ

三千年の風と

爆風と刃をくぐっていった身体で


死の欠片をあつめた祭りの場

焼き捨てる山から

一本の牡丹と

濡れた水晶の手を

持ち帰るといい

まだ花弁は開いていない

まだ指は蕾のまま

あなたは水になる

牡丹の篩管束を湿らす

手の毛細血管に

流れるものになる

命の形をたどる


正確には

あなたはすでに約束されている

はるの理念によって

いのちになる

春の土に

しばらく凍っているが


わたしは

シーツ二枚にくるまって

川を二本巻き込んで

そのまま眠る

あなたが地上に立ち上がり

花を抱えるまで

フラミンゴが飛び立つように

一瞬で

水は波紋をつくり

死の静けさに

将来のあなたが立つ


ときに願う

眠りが何日もさめないことを

はるの眠り   あるいは

目覚めると新しい春に

シーツをめくり

窓は大きく開き

祭りの火が消えている

はる

心地よい

あたらしい世界の目覚め

あなたのライラックが香る


眠りの祈り

星に葬列と泣き声がつづく

しかし、約束がある

わたしの右腕は地中海

左腕はカリブ海

右脚が南太平洋をかきまわす

青い珊瑚が

指を伸ばす

カジキの銀の針には

カラフルな星雲が刺さっている


わたしは

はるの海

背は春の地

シーツのうえで

わたしは

星にささやく

目覚めの歌のように

とぎれとぎれに

まったくあたらしい

メロディーの

口笛をいれながら