)ドキュメンタリーもどうしても、製作者の意図が入るので、完全な記録フィルムというわけにはいきませんが、それでも知らなかった事を知る形としては優れたものだと思います。
そして何より、映像と音には明確な事実の提示と、感情を揺さぶる力があり、言葉の壁すら越えうるとおもうのです。
その中でも素晴らしいのが、100年近く前の約20年間、
フランスの銀行家アルベール・カーンが世界中にカメラマンを派遣し、当時の最先端の技術を使ってカラーで撮影させた映像の数々です。
第二次世界大戦を生き残った方達が、日本にもまだたくさんいるにも関わらず、映像で見ることが出来るのはほとんどがモノクロームです。
モノクロームである、という時点で古いもの、終わってしまったもの、自分の時間とは交差しえない別世界のもの、という印象を持ってしまいます。
アルベール・カーンは平和な世界を目指した人です。
人と人は同じ人間であるという事を理解するには、映像で伝える事、出来るだけそのままの状態を伝える事
が重要であると、感覚的に理解していたのだろうと思います。
実際にその映像を見ると、第一次大戦という、それこそ自分との接点はない歴史でも、カラーで観ることで
違う国の人だけれど同じ人間である事が強く感じられるのです。
時間や距離感が、モノクロームとは全く違ってきます。
言葉や文化の違いがあったとしても、人としての営みや、願いや希望に憎しみ合わなければいけないほどの違いは本当はないのだと思います。
知らないから、誤解をするし、勝手に決めつけてしまう。
知らないから、1人の人間ではなく、数に換算してしまえる。
誰かの事を知ってしまえば、簡単には戦争になどならないのだと、アルベール・カーンは理解していたのだと思うのです。
年の初めに、より早いスピードで混沌が増しているような世界に、立ち止まる時間があればいいのにと。
連綿とつながる歴史を感じ、かつ変わった瞬間がわかる、貴重な一冊です。
