今頃になるとバリの食い物を思い出して無性に食いたくなる。
オレンジ色の大皿に盛られた料理が、テーブルに運ばれてきた瞬間、思わず息をのむ。深い褐色に煮込まれた牛肉の塊が、どっしりと中央に鎮座している。インドネシア料理を代表する「レンダン」だ。
牛肉は長時間ココナッツミルクと香辛料で煮込まれていて、繊維がほろりと崩れる。甘さ、辛さ、そしてココナッツ由来のやわらかなコクが口に広がる。
日本のカレーのようなとろみはないが、スパイスの香りは凝縮され、濃密な余韻を残す。
横には白いご飯。バナナの葉で三角に包まれたその姿は、ただの主食を「ご馳走」に変える。葉を開くとほのかな青い香りが立ちのぼり、南国の食卓らしさを一層引き立てる。
ご飯の上に散らされた揚げたエシャロットが、香ばしいアクセントになっている。
小鉢にはサンバル。青唐辛子のペーストで、一匙口に運ぶと鋭い辛さが舌を刺す。それを白飯と一緒に頬張ると、レンダンの重厚な旨味がぐっと引き立つ。辛さと旨味のせめぎ合いが、この料理の醍醐味だ。
皿の片隅には、軽やかに揚がったクルプック。パリッと噛む。サラダの紫キャベツやパセリが添えられていて、見た目の彩りも鮮やかだ。
サヌールのタンブリンガン通り、オープンテラスで食べる。じんわりと汗はにじむが、口が火を吹くほどではない。
レンダンは「世界一美味しい料理」とも評されるらしい。大げさだと感じないのは、南国の太陽の下で、ゆるやかな時間とともに味わうからだ。皿の上の一品が、旅と幸せを刻印する。