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~クラブにて~

 

「いやー日曜にクラブに来たの初めてですよ。」

 

あつしは隣に並んでいるゆうこに声をかけた。ここは渋谷のクラブ『バタフライ』。日曜日ということで客の数は少なめだが、それでもやや多いようにあつしは感じた。

 

「私も日曜は初めてー。明日に響かないようにほどほどにしないとね。」

 

ゆうこは黒をベースにした、すらっとしたドレスを着ていた。色自体は控えめだが、どこか主張めいたものを感じさせる、着る人を選ぶものだ。

 

普段だったら絶対に自分からは声を掛けられないなとあつしはやや自嘲気味に考えているうちに列は進み、2人は中に入っていった。

 

中に入ると前座のDJがプレイしていた。トランス調ではあったが、あつしはあまり惹かれない音楽だ。時間も早かったため、ひとまず2人はビールを買い、隅で会場を見渡しながら雰囲気を楽しむことにした。

 

「あつしくんがトランス好きなの今まで知らなかったよー。もっと早く知ってれば一緒に行けたイベントたくさんあったのになぁ。」

 

ゆうこは残念がりながらも、一方でいたずらを仕掛ける子供のようににやにやしながらあつしに話しかけてきた。

 

あつしはそんないたずら心の上で転がされたくはなかったが、うまい返しが思いつかず、半ば諦めたようにゆうこに返した。

 

「いやー残念です。ゆうこさんみたいな美人とイベントに来れたかと思うと。でもまぁ、その分今日初めてゆうこさんと来れて、めっちゃ僕嬉しいですけどね。」

 

「あら、嬉しい事言ってくれるわね。テキーラでも奢ろうか?」

 

「いや、明日に残ったらまずいんじゃなかったんですか?」

 

「残んないわよ。だって私は飲まないもん。」

 

「いや、それだったら尚更ないですよ。ただ僕を酔わせたいだけじゃないですか!」

 

「あら、いけない?」

 

そんなやりとりがあつしにはたまらなく好きだった。

 

「そういえば、あつしくんは彼の音楽のどこが好きなの?」

 

「僕はやっぱり音運びがすごく好きです。無心になって聴いてるとどこか異世界にでも連れていってくれるような。彼のプレイしている動画を見ているとその日1日のストレスも忘れて楽になれるんですよね。」

 

「たしかに、私もそこ好きだなー。ほら、女って普段いろいろルールがあるじゃない。気にしないといけないことも多くて。だからトランスを無心で聴いてる時って本当に気持ちいいの。その時間だけは何も考えなくていいから。」

 

「たしかにそれはありますよね。僕も上司に怒られた日は帰り道ずっとトランス聴いてます。というかもうずっとトランスだけ聴いて生きていきたいですね。上司に怒られることもないし、イライラすることもないですし。」

 

「そうなんだ。でもそしたら彼って意外じゃない?土日はこうしてDJとしてパフォーマンスして、普段は会社の役員してって、あつしくんが嫌な会社にいる時間が彼の普段過ごす時間なんて。彼にとっては会社もDJと同じか、それ以上大事な時間なんでしょうね。」