争点③に対する主張
③ 被告病院担当医師は、Aが呼吸停止となった後、輪状甲状靱帯切開を実施して、気道を確保すべき注意義務があったか否か。

原告
Aが無呼吸となった時の切開の程度については、証人Gの証言及び乙A1、2号証によれば、少なくとも甲状軟骨下辺から5cmの範囲について皮膚切開は終えていた状態であったと考えられる。
そして、甲状軟骨付近には筋肉がほとんどないのであるから、甲状靱帯付近の組織は剥離されたといってよい状態にあり、G医師は、甲状軟骨、輪状軟骨の位置の見当をつけることは容易な状態であり、実際、G医師自身も甲状軟骨、輪状軟骨の位置の見当がついていた。
このような状態の場合、靱帯部をねらって、甲状間膜にメスを到達させ、それを広げることはきわめて単純なことであり、その操作は数十秒以内で行えるものである。
被告は、呼吸停止の時間を3~4分と主張するが、本件では、呼吸憎悪座位不穏状態トラヘルパー留置(なお原告らは同事実を認めるわけではない。)気管切開という経過をたどっているから、呼吸停止の時間が3~4分というのはありえない。
そもそも、本件では、術前、Aはすでに呼吸不全となっていた。
血中酸素濃度も減少しており、無呼吸に対する抵抗力が小さい状態にあった。
こうした状態で無呼吸となれば、通常よりも短い窒息時間で脳障害を生じる可能性があることは予見できた
したがって、被告担当医師が、数十秒以内で実施できる輪状甲状靱帯切開を実施していれば、Aの死亡という結果を免れることができたところ、長時間を要する気管切開を選択したため、Aに脳症(その後死亡)という結果が生じたのである。

被告
G医師は、Aが呼吸停止となった直後にトラヘルパーを2回試みたが十分な換気が得られなかった。
そこで、G医師は、腫脹の著しい炎症性軟部組織内での輪状甲状靱帯切開という確実性に欠ける操作に時間を費やすよりは、すでに進行している気管切開術の術野内の甲状腺峡部下方に気管切開をする方が確実で早期に気道確保ができると判断して、同方法を選択し、施行した。
したがって、G医師の判断に過失があるとはいえない。
なお、原告らは、輪状甲状靱帯切開をしていればAの死亡という結果を免れることができたと主張するが、上記方法を実施していたらAが救命可能であったか否かは不明というべきである。

ここでは原告は

呼吸状態が悪い患者は、通常より短い時間で低酸素脳症を惹起することが予見できた

輪状甲状靱帯切開をすれば、数十秒で換気ができる状態になったので、呼吸停止時間が短時間ですんだ

 従って、救命しえた

と主張するのに対し

 被告は、腫脹の著しい炎症性軟部組織内での輪状甲状靱帯切開という確実性に欠ける操作に時間を費やすよりは、すでに進行している気管切開術の術野内の甲状腺峡部下方に気管切開をする方が確実で早期に気道確保ができると判断した

 輪状甲状靱帯切開をしていればAが救命可能であったか否かは不明というべきである

と主張しています

原告の主張する「予見可能性」については、言及していません

争点④に対する主張

原告

5421万8982円及びこれに対する平成15年12月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

被告

争う

続きます。