続き

争点②に対する主張
② 被告病院担当医師は、Aが呼吸停止となった際、トラヘルパーの施行を試みたか否か。
仮に、トラヘルパーの施行を試みたが呼吸が確保できなかった場合、その原因は、被告病院担当医師のトラヘルパーの施行方法に過失があったことによるものか否か。

原告
被告病院担当医師は、Aが無呼吸となった時点で、トラヘルパーを使用して気道確保を図るべき注意義務があったのに、トラヘルパーを使用しなかった
被告は、G医師はトラヘルパーを2回使用したが、急性喉頭蓋炎に合併した多発頸部リンパ節炎による炎症がその周囲の頸部軟部組織に波及した蜂窩織炎による頸部軟部組織腫脹によりトラヘルパーの先端が気道の中にとどかなかった可能性と、不十分ながら届いていたとしても気道内に粘調度の高い分泌物が貯留していて、それが内腔の狭いトラヘルパー内に詰まり十分な換気ができなかったことが可能性として考えられると主張する。
蜂窩織炎とは、細菌感染によって起こる皮膚と皮下組織の感染症であり、症状は痛みや腫れ、熱感、紅斑、水疱などであり、病巣部は赤く腫れ上がり、腫脹部分は激しく痛むという特徴がある。
しかし、Aが疼痛を訴えたことはないし、喉の部分(外側)が赤く腫れ上がっているという事実もない。
したがって、本件では蜂窩織炎の特徴を示す激しい疼痛、赤く腫れ上がる状況を示す証拠はないから、蜂窩織炎である旨の被告の主張は理由がない。
また、被告はAの頸部の腫脹が著しいものであったと主張するが、カルテには著しい腫脹を窺わせる記載等はない(乙A1号証の3頁には、頸部の図があり「腫脹」との記載はあるが、程度は明らかでなく、著明であれば表示されるはずである「++」の記載はない。乙A2号証12頁の説明の中にも、その後の原告Bに対する説明の中にも著しい腫脹について何ら記載はない看護記録(乙A2号証10頁)にも腫脹に対する問題意識は示されていない。)。
また、被告は、CT写真(乙A4)をもって、腫脹していると主張するが、急性喉頭蓋炎はウイルスや細菌感染に伴う粘膜、粘膜下組織の急激な炎症反応であるから、通常、頸部のリンパ節が炎症し、多かれ少なかれ喉が腫れてくるものであって、CT画像上、リンパ節部分が腫れていることをもって、本件症例が特別であるということにはならない。
したがって、本件では、被告が主張する著しい腫脹というのはなかったというべきである。
そうすると、トラヘルパーの使用を妨げるような腫脹はなく、腫脹によりトラヘルパーの先端が気道に届かないということもあり得ない。
さらに、被告が主張する粘液の存在は立証されていないから、粘液によりトラヘルパーによる気道確保ができなかったともいえない。
さらに、耳鼻咽喉科入院診療録概要(乙A2p2)には、手術内容についての簡単な記載があるが、そこには「緊急気管切開施行」とあるだけでトラヘルパーを使用した事実は一切記載されていない
乙A2号証の12頁には、母親への事前事後の説明内容の記載があるが、事前説明部分においては、「気切が必要である」とされているだけで、気管切開のことだけの説明しかなく、緊急気管切開・穿刺の記載は一切存在しないし、トラヘルパーという言葉も記入されていない。
手術後のCへの説明部分についても、気管切開をして挿管したという記載がなされているだけで、トラヘルパーという言葉は記入されていない。
輪状甲状膜の場所を見つけるためには、トラヘルパーを刺していく際の感覚が大事であるにもかかわらず、G医師は、「何に当たったとか、そういう感触は覚えていません。」という曖昧な供述しかしていないことも、トラヘルパーを使用した事実はないことをうかがわせるものである。
以上のようにトラヘルパーの使用が失敗するような事情はなく、トラヘルパーを使用したことを窺わせる記載もなく、トラヘルパーを使用したとするG医師の供述も曖昧なものであること、そしてトラヘルパーは輪状甲状靱帯をめがけて突き刺せば足りる簡単な作業であるから経験のある医師であれば失敗するような手技ではないことを考慮すると、G医師は、トラヘルパーを2回使用したが失敗したのではなく、そもそもトラヘルパーを使用していないと考えられる。
なお、看護記録には、「留置を試みる」という記載があるが、その意味は具体性に欠けよくわからないから、同記載をもってトラヘルパーの使用があったということはできない
仮に、G医師がトラヘルパーを使用したとしても、2回実施したという証拠はないし、2回とも失敗したのであれば看護記録に記載するのが通常であるところ、そのような記載がないことからすると、それは1回限りであると見るべきである
そして、上記のとおり、トラヘルパーは輪状甲状靱帯をめがけて突き刺せば足りる簡単な作業であるから経験のある医師であれば失敗するような手技ではないが、ただ、トラヘルパーの刺す角度を誤ると脇にそれて気道に達しないことがあることを考慮すると、G医師は、トラヘルパーを刺す角度を誤るという単純なミスをしたために、トラヘルパーによる気道確保に失敗したと考えられる。
トラヘルパーが適切に実施されていれば、直ちに呼吸回復を図ることができ、Aが死亡するという結果を回避することが可能であった。

被告
G医師は、Aが窒息の状態となった後、トラヘルパーを2回使用したが、Aの頸部は、急性喉頭蓋炎に合併した多発頸部リンパ節炎による炎症がその周囲の頸部軟部組織に波及した蜂窩織炎により腫脹が著しかったため、トラヘルパーの先端が気道の中に届かなかったか、不十分ながら届いたとしても気道内に粘調度の高い分泌物が貯留していて、それが内腔の狭いトラヘルパー内に詰まり十分な換気ができなかった。

どのような形で戦うのかが、だんだん分かって来たのではないかと思います

カルテの記載、オペ記事の記載、看護記録の記載が、いかに大切かがわかります

正確な記載があれば、原告の主張は異なるものとなったはずです
続きます