医療訴訟(損害賠償請求事件)のとんでも判決が最近減少したように思う
平成17年(ワ)3126号 損害賠償請求事件
平成20年12月15日判決 東京地方裁判所 民事第14部
この事件は、原告が子宮頸部を原発とする癌の発見が遅れた結果患者が死亡したと主張し、被告は、原発不明癌であり、過失はないと主張したものである。
患者 昭和30年12月7日生(平成15年8月14日死亡)
平成10年11月に実施された職場の健診で細胞診クラスⅢbの子宮癌疑いと指摘された。
12月26日順天堂大学医学部付属順天堂浦安病院を受診した。
その後平成14年12月までの間に15回の細胞診を受け、いずれも癌は否定された。
また、平成11年1月25日から平成14年5月27日までの間に7回の組織診を受け、いずれもがん細胞を認めなかった。
平成14年11月ころから腰痛を認め、平成15年1月12日無尿となり同14日泌尿器科を受診したところ両水腎症、急性腎不全の診断で、右腎瘻増設した。
同2月10日EMについての組織診で扁平上皮癌が発見された。
以後同病院産婦人科においてケモ・ラジを受けたが、平成15年8月14日死亡した。
遺族は、司法解剖を希望したが、犯罪性はないとのことから、行政解剖を依頼した。
同15日に千葉大学大学院医学研究院法医学教室において行政解剖が実施された。
結果は、肝臓、右副腎、両側腎、後腹膜に扁平上皮癌の転移巣がみとめられたが、原発巣は検索できなかった。
争点
死亡原因について
子宮頸部を原発とする癌に罹患していたことは疑いのないところであり、その発見が遅れたために癌が子宮体部をはじめとする周辺に浸潤して完治不可能な状態になり、患者は死亡するに至ったものである。
死亡に至る機序について
患者の子宮頸癌は平成10年12月ころから平成11年暮れにかけては上皮内癌(0期)又は微小浸潤癌(Ⅰa期)であり、平成12年初めから平成13年にかけて浸潤癌(Ⅱ期)に、平成14年後半ごろからⅢ期に移行したものといえる
被告の義務違反
適切な細胞診、組織診を行う義務の違反
円錐切除術を行う義務の違反
円錐切除術の必要性を十分に説明する義務の違反
被告の義務違反と死亡との因果関係
損害
9,260万余
裁判所の判断
解剖医の供述書から
肝臓ほか、通常扁平上皮の存在しない臓器から扁平上皮由来の癌細胞が認められていることから、転移巣であると考えられる。
一方、腫瘍の原発巣が体表の組織であれば、臨床経過中に通常発見されると考えられる。
本例の場合は、体表からは発見しづらい臓器を原発とする扁平上皮由来のものであると考えられる。その場合、食道癌、子宮癌、肺癌などが考えられるが、食道、肺には病変が認められなかった。
また、子宮にも炎症性腫瘤を認めた以外に大なる変形など異常は認めなかった。
通常、多数の転移が認められる場合、原発巣はかなりの変形等、異常が認められるが、本例ではそのような異常は認められなかった。
証拠から
子宮頸癌が臓器に転移する場合は、子宮頸部から骨盤内リンパ節に転移し、そこから傍大動脈リンパ節を経て臓器に転移するという経路をたどるのが通常であり、癌の原発巣が至急頸部にもかかわらず、子宮近傍の骨盤内リンパ節に転移巣が認められず、遠隔の傍大動脈リンパ節のみに転移が認められることは、一般的には想定しにくい。
これらのことから、原告の主張(子宮頸癌の見逃し。)は認められなかった。
また、「子宮頸部を原発とする癌によって死亡したとすることは困難であるから、仮に義務違反があったとしても、死亡との間に相当因果関係があると認めることは困難である。」とした。
その他の主張も、念のため検討するとして、すべて退けている。
主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
こういう妥当な判決が出ると、ほっとします。
しかし、足掛け3年の間この裁判にかかわった医師の負担(精神的、事務的)を思うと、各病院に、訴訟担当チームの設置が必要であると思います。
平成11年2月9日には、十分な説明の後、円錐切除術を勧めており、患者がこれを拒否しています。
平成10年12月28日の細胞診と平成11年1月25日の組織新の結果が一致していないためでしたが、これ以降は勧めていません。
これは、侵襲を伴う検査であり、これ以降もコルポスコープ診、擦過細胞診などでフォローしていること。
患者に不正出血が一切認められなかったこと。
内診では常時軟であったこと。
経膣エコーで異常所見がなかったことなどによります。