1 地方自治体立病院の人事構造は、どうなっているのか。

  

  医師  中部地方では、大学の医局人事で、自治体が人事を左右できない。

  

  薬剤師 自治体(首長)が、病院職員として採用する。


技師  同上。

  

  看護師 同上。

   

  事務職 自治体職員(首長部局の職員。)が、病院事務局に派遣される。

      また、病院職員として直接雇用されている事務員もいる。

  

  その他 自治体(首長)が、病院職員として採用する。


2 プロモーションについて

  

  病院長等  主に、前院長が推薦し、首長部局の決定により就任する。

        (議会への根回しを必要とする。)

  

  

  看護部長、薬剤部長、技師長

       病院長が推薦し、首長部局の決定により就任する。

  

  事務長   首長部局が決定し、就任する。(2~3年の任期であることが多い。

        事務局の課長以下の職員も、首長部局が決定する。)


  ここで問題になるのは、病院長と事務長の人事である。

  

  前病院長からの意向を受けて、新病院長人事について事務長が知事(市長)、副知事(副市長)に進達する。首長等は、議会の意向も踏まえて内定する。従って、病院経営のノウハウが豊富な医師が病院長になるとは限らない。

  

  また、事務長は、病院での勤務経験があるとは限らず、いわゆる「お役所仕事」のプロであることが多い。

  

  自治体立病院の職員は、病院長であれ地方公共団体の職員(首長から辞令を受けて任命される。)であるため、事務長の上司は、職階上病院長であるが、その命令を受けて仕事をしているのではなく、常時首長部局(本庁という。)を向いて仕事をしている場合が多い。

  

  高額医療機器の購入など、病院長が希望しても本庁の意向(財政難)により購入できないことも多い。(病院長が事務長の顔色を窺って病院経営にあたることなど、日常茶飯事である。)

  

  また、不採算部門の縮小(廃止)なども、議会の反対により実現が困難である。(医師が逃散すれば別だが。)

  

  そのくせ赤字になれば首長自らか、その意向を受けた本庁幹部職員が病院を訪れ、病院長を叱責するなど、悲惨な状況がある。



3 事務局職員の差別

  

  事務局には、病院採用職員(俗に「単純技能労務職員」:行政職給料表2の職員)と、本庁から派遣された職員が混在する。

  

  本庁から派遣された職員は、事務長まで昇進することができるが、病院採用の職員は、係長にすらなれない場合が多いし、給料も安い。(本庁から出向している職員と同じ職務をしているにもかかわらず。)

  

  事務局幹部職員は、すべて本庁からの派遣職員であるから、病院経営についてのプロフェッショナルではなく、診療報酬や施設基準すら理解できない職員が多く、病院での仕事は、行政職の幹部職員として執行すべきとは考えていない。(何があっても2~3年辛抱していれば本庁へ復帰できるという考え方であるから。)

  

  従って、本庁から出向している職員は、モチベーションが低い。

  

  病院採用の職員もプロモーションに不満がある(または、あきらめている。)ため、モチベーションを維持できる状態にはない。

  

  民間病院の事務方は、それぞれが専門職として働いているため、診療報酬改定や、法改正などの情報収集を血眼になって行っており、その結果を即座に病院経営に反映させることができる。

  

  一方、自治体立病院の事務方は、厚生労働省からの情報をもとに条例改正、規則改正、人事配置を行うため、4月1日から実施しようとしても無理である。これは、地方議会が3月、6月、9月、12月に開催されるためで、2月に決定された事項を4月から実施することができないからである。


4 地方議会の弊害

  

  前項で述べたことをわかりやすく解説する。

 

 ① 診療報酬改定等は、厚労省のH.P.で2月に明らかになる。

 

 ② 新設された加算等の施設基準が適用可能かどうかを検討する。(〔例〕ハイリスク褥瘡管理加算)

 

 ③ 施設基準をクリアするための機器や人材導入の予算を見積もる。

 

 ④ 院内会議で導入を決定する。(この時点で3月になる。)

 

 ⑤ 補正予算案や条例・規則改正の決済を受ける。

 

 ⑥ 高額機器を導入する場合は、機器選定委員会が本庁で開催される。

 

 ⑦ 議案が作成される。(5月)

 

 ⑧ 議案が議会に上程される。(6月初旬)

 

 ⑨ 議会の委員会で審議、議決される。

 

 ⑩ 本会議で議決される。(6月下旬)

    7月1日から施行される。

  

  このように、地方自治体は小回りがききません。

  

4 地方公営企業法の弊害

  地方自治体立病院の大半が、地方公営企業法を適用しています。

  

  地方公営企業の会計に関する部分だけを適用(「財務規定適用」といいます。)する方法と、全部の条項を適用(「全部適用」といいます。)する方法があります。

  

  非常に難しいので、細かい説明はしませんが、大きな違いは人事権です。

  

  全部適用:病院事業管理者が開設者となる場合が多いです。人事権も病院独自の(管理者の)権限となります。

  

  しかし、実態は本庁の指示により経営を行うことになるので、全部適用のメリットは、あまりないと言われています。


5 地方交付税交付金の弊害(地方交付税法の弊害)

  

  病院を経営する地方自治体には、病院分として地方交付税交付金が交付されます。

  

  地方交付税には普通交付税と特別交付税があります。

  

  800床の病院で、最大およそ6億円の地方交付税が支給されます。

  

  ところが、病院分として支給される地方交付税は、一般財源(どの支出に充当してもよい。)として執行されるため、病院のために使用しなくてもよいことになっています。(企業債償還金の1/2など、義務的経費を除く。)

  

  現在では、病院ばかりではなく、地方自治体の財政も逼迫していますから、本庁としては病院事業に支出したくありません。

  

  このため、医師の人件費に回されることなく、執行されているのが現実です。

  

  また、自治体立病院が存在する医療圏が、単独の自治体であるか又は来院患者が病院を経営する自治体の住民だけであればよいのですが、複数の自治体の住民が患者である場合は、その患者へは地方交付税がフィードバックされないことになります。

  

  例えば600,000人の来院患者のうち、300,000人が病院を経営する自治体以外の住民であれば、前述の6億円のうち3億円は住民の税を軽減している効果があるともいえます。


6 地方公務員法の弊害

  

  地方公務員の給与は、その自治体の条例によって定められています。

  

  また、手当てについても同様です。

  

  仮に、医師の手当てを新設(条例、規則の改正)しようとすると、総務省からストップがかかりますし、給与の大幅アップは、地方議会の承認が必要です。

  

  地方自治体には、職員の定数条例があり、職員数は上限が定められています。

  

  このため、医療職の増員を図ろうとしても、この条例がじゃまをします。

  (医療職を増員するためには、事務職を削減しなければならない。)

 

  このように、地方自治体立病院には、法令、議会、本庁など、さまざまな改革阻害

 要因があり、一向に改革は進まない(改悪は進む。)ことになります。