生活保護制度は、憲法第25条の生存権を担保するために定められた、生活保護法の規定に基づき成立しました。

 

*憲法

(生存権及び国民生活の社会的進歩向上に努める国の義務)

第25条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。

2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

 *生活保護法

(この法律の目的)

第1条 この法律は、日本国憲法第25条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。


 すべての国民は、健康で文化的な、最低限度の生活を無差別平等に受けることができると規定されています。

 では、どんな扶助が受けられるのかといいますと、次の8つの扶助です。

   1.生活扶助

2.教育扶助

3.住宅扶助

4.医療扶助

5.介護扶助

6.出産扶助

7.生業扶助

8.葬祭扶助

 今回は、医療扶助について考えたいと思います。

 生活保護法の規定は、次のとおりです。

(医療扶助)

第15条 医療扶助は、困窮のため最低限度の生活を維持することのできない者に対して、左に掲げる事項の範囲内において行われる。

1.診察

2.薬剤又は治療材料

3.医学的処置、手術及びその他の治療並びに施術

4.居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護

5.病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護

6.移送

 具体的には、どのような方法で支給されるかといいますと、保護受給者が福祉事務所に申請して、医療券(保険証に代わるもの。自治体によっては、受給者証を発行しているところもある。)というものを受領し、医療機関の窓口へ提出します。

 診療後に医療機関は、レセプト(診療報酬明細書)を社会保険診療報酬支払基金に送付します。

 支払基金は、内容を審査し、医療機関に診療報酬を支払います。

 支払基金は、福祉事務所に同額を請求し、福祉事務所は、これを支払います。

 従って、受給者は、自己負担が0円で受診できます。

 

 医療扶助費が占める割合(平成20年度予算ベース:厚労省)

 医療扶助費  1兆3,063億円  49.8%

 生活扶助費    8,557億円  32.6%

 住宅扶助費    3,700億円  14.1%


 このことから、いかに医療扶助費が多いのかがわかります。


 では、なぜ生活保護世帯が増加するのでしょうか。

 東京と在住で75歳の独居高齢者が生活保護を受給する場合、いくらの扶助費が支給されるのでしょうか。

 保護の基準により計算すると、年間969,770円(生活扶助のみ)

 老齢基礎年金の満額受給額は、年間792,100円

 これから、家賃、後期高齢者保険料などを支払い、病院窓口では、1割負担を支払わなければなりません。

 そもそも、老齢基礎年金だけでは、人間としての最低生活費を下回っています。

 誠実に働いて、国民年金を満額納付して、爪に火を灯すような生活で蓄えを消費しながらつつましく暮らしていた人が、蓄えが無くなれば生活保護受給です。早い段階で受診していれば、重症化しなかったはずの病気が重症化したころに、生活保護を受給するようになれば、医療扶助費は増大します。

 中には、病気になって仕事ができなくなり、生活保護を受給しなければならなくなる人もいます。

 もちろん、中には横着で保険料を支払わず、好き勝手に生きてきて、生活できなくなり、保護受給にいたるケースもあります。

 こういう患者さんが、一番医療者泣かせです。DMの食事指導に従わないばかりか、視覚障害になり、障害者加算まで受給する人。

 アルコール性肝炎の治療を受けながら、断酒できずに大量飲酒し(飲んでは強ミノ)、低栄養状態でアルブミン製剤の点滴を受ける人(腹水で腹パン)など、医療費増加の原因ではあります。


 また、適切な生活指導が必要であるにもかかわらず、ケースワーカーが訪問して指導することも、あまり積極的に行われていません。(就労指導をして、生活保護を廃止させる又は辞退させることには熱心ですが。)

 生活保護費は、3/4が国庫負担で1/4が自治体負担であるため、支出額を減らすことには熱心ですが、クレーマーには強い態度で指導しません。


 景気の低迷で、ますます保護受給者が増加すると思われます。

 適切な生活指導が必要であると思います。