NICUベッド数の不足をどうするのか
11月中旬のTBSTV「朝ズバ」で
「妊娠27週、1300gで出産 7医療機関受け入れ拒否で10日後に死亡」について、「みのもんた」が吠えていた。
「NICUが足りないなら、造ればいい。小さいベッド(クベースのことか)買うだけだろう。簡単にできるんじゃない。」
ばかみのが考えても答えはでないわな。www
ちなみに、新生児が肺呼吸するためには、肺胞が拡張して空気で満たされていなければなりません。
これには、「肺サーファクタント」と呼ばれる物質が必要で、通常妊娠34週ころから産生が始まります。
「妊娠27週・1300g」の赤ちゃんはサーファクタントがほとんどない状態ですから、肺ではまだ呼吸できません。(呼吸促迫症候群)
このため、サーファクタント製剤(サーファクタン 105,557.9円 一瓶120mg)で肺胞を開いて酸素呼吸を促す必要があります。
従って、今回のように病院以外の場所で未熟児を出産した場合、よほどの幸運が重ならない限り、救命できません。
呼吸促迫症候群の未熟児には、持続的気道陽圧法(CPAP:自然呼吸下に両鼻孔に入れたチューブから陽圧酸素あるいは空気を補給する)による酸素補給を必要とします。
今回のように非常に症状が重い乳児の場合は、チューブを気管の中に挿入して(挿管)、機械換気によって乳児の呼吸を補助しなくてはなりません。
1300gくらいの赤ちゃんの気管挿管に使うチューブの太さは2.5mm~3mmで、熟練した新生児科の医師により実施されます。
今回の事例では、仮に直ちに(119番通報から30分程度で)NICUのある病院へ搬送されても、救命は困難であったかと思われますし、救命し得たとしても、低酸素脳症などの重篤な後遺症が遺残した可能性が高いと思われます。
NICU増床を叫ぶ「みの」のために解説します。
当院はNICU 15床
GCU(回復治療室) 5床
があります。
NICUの増床のために必要なことは何でしょうか。
まず、NICU(新生児特定集中治療室)とはなにかというと
厚生労働省が新生児特定集中治療室の施設基準を定めています。
1 常時医師が治療室内に勤務していること
2 当直医師は他病棟との兼任でないこと
3 一床あたりの床面積が7平方メートル以上であること
4 自家発電装置を有していること
5 バイオクリーンルームであること
6 患者3人に対し、常時看護師1人が配置されていること
この条件を満たす必要があります。
1 何人の医師が必要か。
医師の当直について、週1回(土日は日当直)にするためには、7人の医師が必要です。
2 NICUの面積は
15床として、最低105平方メートル。これに、ナースステーション、医師の仮眠室、看護師の仮眠室、面会室、授乳室、感染症患者管理室、更衣室(内部に入るための清潔衣を着用するため)、予備のクベース保管室などが必要になります。
また、酸素、吸引などの配管が必要です。
3 必要看護師数
当院の勤務時間帯は次のようになっています。(休憩時間1時間)
日勤 8:00~17:00
中勤 16:00~ 1:00
夜勤 0:00~ 9:00
8時間勤務(3交代)として、入院患者15人あたり単純計算では15人の(15人÷3人=5人 5人×3交代=15人)看護師が必要です。
しかし、1週間の総労働時間は
5人×8時間×3交代=120時間
120時間×7日=840時間
840時間÷15人=56時間
労働基準法では、週の労働時間は40時間以内と決められていますので
840時間÷40時間=21人が必要になります。
ところが、夜勤あけに勤務させることはできません。(看護師はいいな~)
また、週休2日制を維持しなければなりません。
これを考えてシフトを組むと最低23人が必要となります。(年休の消化はできませんが)
これに病棟師長を加えて24人が必要です。
1床増床すると
23人÷15床=1.53人の看護師増員が必要です。
4 増設部分の改築は
面積の問題にしても、現在のNICUは、15床で設計されています。
入口は2重構造で、オペ室と同じように、足で開閉を操作します。
室内は陽圧になっているため、堅固な造りになっています。
これを改築するには、大工事が必要になりますし、入院患者がいる状態での工事はできません。
全く別の場所に新築(改築)する必要があります。新生児を早急に処置するためには、医師の動線を考えると、産科病棟、オペ室との距離が問題になります。また、GCUも同時に新築しなければなりません。
まとめ
札幌事件や母体死亡事件を受けて、NICU増床を決定した病院がありますが、それでなくとも狭い(基準のクリアを考えただけ)病室がますます狭くなり、NICU内感染の恐れが拡大するなど、根本的な解決にはなっていません。
病院の安定的な経営のために、周産期医療に関する診療報酬を増額することや、新築(改築)に要する建物、周辺設備に関する費用の国庫補助金、都道府県補助金を交付する制度の創設が必要です。
また、ドクターフィーを手厚く(公立病院は、条例で給与等が決定されるために、給与改定は、議会の同意が必要です。また、直接医師に支給できる手当て等の創設は、総務省にお伺いする必要があります。)し、病棟クラークの配置など、周産期に関わる医師の奴隷的勤務を解消しなければなりません。
産科医療無過失補償制度が、周産期にかかる訴訟を減少させることは期待できませんので、病院内に医療安全管理委員会とは別に「訴訟対策チーム(顧問弁護士、損害保険会社と緊密な連携のもと、原告(遺族など)とのやりとりを一切引き受ける)」を立ち上げ、医療以外の医師の負担を削減する必要があります。(損害賠償請求事件になると、弁論準備がほぼ毎月あり、これに必要な準備書面を作成するための資料作りなど、大変な事務量になります。)