私は、地方の中核病院で、医療裁判(民事)に関わる事務をしていました。
また、地域連携にも深く関わってきました。
その中で、福島県立大野病院のK先生が逮捕された事件に衝撃を受け、多くの医師ブログをみることを、日常にしました。今回の墨東病院の件をきっかけに、医療について私が感じたさまざまな事を述べてみます。
1 産科(周産期)医療
当院は、臨床研修病院、地域がん診療連携拠点病院などの指定を受けていますが、現在、地域周産期母子医療センターにも指定されています。
平成17年のことですが、当時4人であった産婦人科医師のうち1人が、デプって休職(後退職:しかも医師をやめてしまった。)し、お産の受け入れを制限しました。
大学の医局も派遣する医師がいないとのことで、研修医の面接では、産科希望者を積極的に採用する方針にしました。しかし、マッチングした研修医のうち産科希望者が2~3人いるものの、最終的にFixするのは1人です。
その後、医局からの派遣1人と、Fixした後期臨床研修医3人で、なんとか7人体制(現在は8人)になりました。
2 周産期医療の体制(平成20年10月)
(1) ベッド数
産科 30床
婦人科 17床
NICU 15床
NCU 5床
新生児 13床
(2) 医師数
産婦人科 8人
新生児・小児循環器科 8人
麻酔科 5人
当院には、このほか小児科(新生児・小児循環器科とは、大学の医局が異なる。)医師が7人、小児外科医師が2人の体制で診療している。
3 医療圏域における周産期医療の崩壊
この地方(2次医療圏域約40万)の病院は17施設:3,506床(うち精神4施設:1,007床)、医師数(常勤)281人です。
しかし、産科の廃止が相次ぎ、お産を取り扱う病院は、当院だけになったことと、NICU(新生児集中治療室)がある病院は、当院だけであるため、ハイリスク妊婦は、当院に集中することになり、産婦人科医師、新生児科医師の労働条件は、厳しいものになっています。
また、日産婦誌56巻9号によれば、NICU1床あたりがカバーする出生数が300~500とあります。
2次医療圏の出生数は、およそ3,500ですから、数字上は十分カバーできるはずです。しかし、現実には常時満床が続いています。
これは、他の医療圏や愛知県西部、三重県北部、滋賀県東部からの搬送を受けているためです。(周辺地域でNICUのベッド数が不足している。)
時には、違法状態であることを承知の上、NICU内の予備室(医療ガス、吸引など、緊急用に設備されている。)にクベースを置いて児を収容する場合もあります。
新生児、小児循環器科の医師は、新生児科が4人、小児循環器科が4人(1人は管理職)です。
宿直が週7回、日直が週2回(祝日がないとして)とすると、最低でも月に4回の当直業務があるわけです。
産婦人科は、宅直(オンコール:皆さん病院の近くにアパートを借りている。部長も自宅とは別に、官舎を借りている。)でまわしていますが、飛び込みの緊急カイザーや婦人科入院の急変など、帰宅もままならない日が多く、大変な状況が続いています。
4 おわりに
周産期医療の崩壊については、全国的に話題になっています。
しかし、解決策については、どうも医師数を増員することが必須であるという方向であるようです。
また、周産期医療機関の集約化も言われています。(当2次医療圏域に周産期を取り扱う病院はありませんので、集約化は困難です。)
それは、そのとおりであると思いますが、今、現在の状況をどうするのかについては、結論を出せません。
当院でも、一時OBで開業しておられる先生にオペに入っていただくことを検討しました。
立会い(見学)⇒前立ち⇒オペレーター
しかし、当院は、公立病院であることから、さまざまな問題が発生しました。
まず、ドクタズーフィーをどうするのか。
当院では、医局から臨時に派遣していただく医師のネーベン料を6万円から7万円で設定しています。(この先生方については、あらかじめ岐阜県においても保険医登録をし、医師賠償責任保険に入っています。)
これらの先生方と、開業医の先生方との金額の整合性をどうとるのか。
医師賠償責任保険(当院において発生した場合にもカバーできるもの)をどのように取り扱うのか。(そのような保険があるのか?)
誰と病院(市長)とが契約するのか。(地区産婦人科医会か個人か。)
前立ちにとどめるのかオペレーターまでやっていただくのか。
予定手術のみとするのか当番性で緊急オペまでお願いするのか。
緊急の場合患者の同意が得られなかった場合どうするのか。
公務員の兼業禁止規定をどうするのか。(午前中クリニックで外来をして、午後のオペに入る場合、兼業になるのではないか。)
これらの問題をクリアできなかったため、現在は立ち消えになっています。
やはり、国が機構横断的に(厚労省と総務省)対応策を検討し、法改正を行う必要があります。