この事件は、遺族の処罰感情が強かったことや、平成17年3月22日に「県立大野病院医療事故調査委員会」がわずか3回(最終回は、資料確認だけ)、実質2回の会議で出した結論を元に、警察は、加藤先生を不当に逮捕し、検察が起訴した(われわれは、患者の目線で捜査しているんだ:公正中立であるはずの警察、検察が、「医師=犯罪者」の先入観を持って捜査した)事件です。

1 事故調査委員会は何を調査したのか

  委員長:宗像正寛(県立三春病院 診療部長)

委 員:田中幹夫(財団法人太田綜合病院附属太田西ノ内病院

産婦人科部長)

委 員:藤森敬也(県立医科大学医学部附属病院

総合周産期母子医療センター講師)

報告書の矛盾

  委員会の設立目的は、「この事例を検証し、今後の前置胎盤・癒着胎盤の帝王切開手術における事故防止対策を検討することを目的として設置した。」とある。

  報告書第3の1 術前診断

「癒着胎盤を強く疑っていなかった。」「大野病院で手術を行うとしたことはやむを得ないと思われる。」としながら「癒着胎盤という認識が少ないため輸血の準備として濃厚赤血球5単位を用意したものであり、癒着胎盤の疑いを強く持っていれば少なくとも10単位以上の準備は必要であった。結果として準備血液は不足していた。」

 ○ 癒着胎盤を疑っていなかった⇒MAP5単位で十分である

  従って次のように表現しなければならない。

「癒着胎盤という認識が少ないため輸血の準備として濃厚赤血球5単位を用意したものであり準備量としては十分であった。しかし、癒着胎盤であったため、結果として準備血液が不足することとなった。」


  報告書第3の2 手術中

  「用手的に剥離困難の時点で癒着胎盤と考えねばならない。クーパーを使用する前に剥離を止め子宮摘出に直ちに進むべきであったと考える。しかし、妊婦は20歳台と年齢も若く、子宮温存の希望があったため子宮摘出の判断の遅れがあったと考える。」

 ○ 剥離困難⇒癒着胎盤と判断し⇒子宮摘出に直ちに進む

 ○ 妊婦が若く子宮温存の希望があった⇒子宮摘出の判断の遅れがあった

   まさに問題は、ここにある。

   検察は、「癒着胎盤と診断した時点で胎盤を子宮から剥離することを中止して、子宮摘出すべきであったのに、クーパーを使用して漫然と胎盤を剥離したため、大量出血となり患者が失血死した。また、胎盤を無理に剥離すると大量出血する可能性があることを認識していたのに、その行為を行ったのは業務上過失である。」と主張しているのである。

   現在でも、胎盤を子宮から剥離することを中止して、子宮摘出することが、周産期医療においては標準ではない。

   また、都内の大学病院の総合周産期母子医療センターで、癒着胎盤であったため胎盤剥離を中止して、子宮摘出を行ったにもかかわらず、妊婦が死亡している症例がある。(加藤医師逮捕後の200611月であることから、この逮捕・起訴の影響を否定できない。)

 

○ 診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業評価結果の概要

事例概要:既往歴に2回帝王切開手術を受けた主婦。今回妊娠早期より前置胎盤と前の帝王切開創への癒着胎盤と診断され、自己血の貯血と輸血を準備し帝王切開を予定していた。予定した帝王切開まで子宮収縮抑制薬を点滴投与していたにも拘わらず妊娠33週に性器出血が増量し、さらに破水し、陣痛が発来したため緊急帝王切開をした。手術は帝王切開に引き続き胎盤を剥離することなく直ちに子宮全摘術を行ったが、摘出直後に予期せぬ心拍停止が発生し、急激な予測不能な大量出血により母体死亡を来たした。最終出血量は9053mlに及んだ。


報告書第3の1 術前診断の続き


 「胎盤剥離後までに約5,000mlの出血があり血圧の低下、その後に脈拍数の著しい増加が持続している。・・・」

 また、「濃厚赤血球」の記載しかないが、麻酔記録では、「新鮮凍結血漿(FFP)」も投与されている。

○ 以下の記述が麻酔記録上のものであるが、これも報告書と異なる。

  14:37   児娩出

14:40   2,000

  14:50   胎盤娩出

  14:52   2,555

  15:07   7,675

  麻酔記録を検証しているなら

「胎盤娩出後までに約2,600mlの出血があり、」である。

 ○ 止血操作の部分で、院内外の医師に手術応援を求めるべきと指摘しているが、せまい術野での止血操作に、何人もの医師が必要ではない。

   また、頻脈、無尿の原因が、循環血液量の不足が原因であり、これは、人手が足りないため、輸液ルートの確保が少なく、輸液量が不足しているためである。マンパワーの不足が痛感される。と結論付けている。


まあ、間違いだらけ(本当に医学的検討がなされたのか、すら疑問)の報告書を鵜呑みにして、執刀医を逮捕し、起訴したことは言うまでもなく、遺族の主張に沿ったような報告書を作成した県の責任は重大です。


 前述の、胎盤剥離を中止し、即、子宮摘出術を行ったものの妊婦が死亡した事例は、東京の大学病院(総合周産期医療センター)で、スタッフも輸血も十分であったにもかかわらず・・・である。


診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業評価結果の概要

http://www.med-model.jp/kekka/jirei38.pdf