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「知ってる!」を増やす、bookrecommenderのおすすめ・推薦本ブログ

出会った本を、「読書」文化を広めたい一心で書く、書評ブログ。
「本を読みたいけど、続かなさそう」「何から読もう」と考える人を応援します。コメントを頂き、リクエストに沿った本を紹介する双方向型ブログを目指します。

こんにちは。masaobookrecommenderです。

事実は小説よりも奇なりとよくいいます。人間は実際に起こりそうだと自分が考えること、起こったことがありそうなことしか想像できないものです。
小説とは、筆者が経験し、想像できる範囲で起こる出来事を記述したもの。若手芸人の日常を描いた又吉直樹さんの『火花』も、筆者自身の中の芸人さんとしての経験、体験があるから書けた傑作。芸人というテーマの中でこそ、又吉さんの想像力は最大限発揮された訳ですね。

だから、誰も想像できない話を小説に書くとしたら、それはノンフィクションしかあり得ない。と同時に、誰も想像できない事象だからこそ、人はパニックになり、苦悩し、泣く。今日はそんな作品です。





《書籍名》しんがり 山一証券 最後の12人
《著者名》清武 英利
《出版社》講談社
《初版発行》2013年11月
《ジャンル》小説
《テーマ》1997年山一証券を破綻に追い込んだ簿外債務の解明についてのノンフィクション
《舞台の国》日本
《読み応え(所要時間)》★★★★☆
《あらすじ(文庫版帯より抜粋)》
会社が消えても誇りは消えない
1997年、名門・山一証券の破綻時に最後まで筋を通した無名の社員たちがいた。感動の実話。



「しんがり」とは、戦場から軍隊が撤退する際、最後尾で追っ手と向き合い、前方の味方軍隊の逃げる時間を稼ぐための役割を言います。豊臣秀吉がしんがりで織田信長の評価を高めた話は有名ですが、仕事内容からするとお察しの通りイイことほぼゼロの役回りでしょう。

本作品はバブル崩壊の最中の山一証券の自主廃業をテーマに、同社を「突然死」に追いやった「簿外債務」を追求する末席役員とその同志たちを描きます。社員達が自主廃業により再就職に向かうなか、誰かがやらなければいけない会社清算、そして会社がなくなる原因を追求するしんがり兵たちのお話です。

描きます、と書きましたが、この本はノンフィクション小説。登場人物の多くは実名です。

金融業界を描いたノンフィクションて、難しいと思うんです。業務自体や金融商品の仕組みを小説で表現するのが難しいですし、情報の秘匿の意識がかなり高い業界なので、取材の難しさもひとしおではないかと察しています。あの山崎豊子さんも都市銀行の合併を描いた『華麗なる一族』のあとがきで金融業界の取材の困難さを語っていました。

そんな、困難なテーマにノンフィクションで切り込んだのが、清武弘嗣、じゃない方のもう一人の清武。あの球団代表だった清武氏です。

覚えてますか?ジャイアンツの元球団代表、清武英利氏が本作品の筆者です。2011年にナベツネに謀反を起こした所謂「清武の乱」の清武さんです。清武さんは当然ながら2011年に読売グループを離れ、今はフリーの身で活動中。読売記者時代の優れた取材力で10年以上前の事件をノンフィクション小説に仕上げました。

清武さんがなんでナベツネに噛みついたかは詳しく言いません。ネタバレになるので小説内のことも多くを言えませんが、要は「清武の乱」も『しんがり』も内部告発という同じテーマを持っています(「清武の乱」は要はナベツネが色々口出し過ぎ!ということを主張するための告発だと思われます)。

まさに自分が取った行動と同じような行動を取った山一の社員たちを描いた小説。今回WOWWOWでドラマ化される関係で2015年の今年注目を浴びていますが、東芝、VWと不祥事が続いた今年だからこそ、企業のガバナンスの不芳事例である山一証券の廃業という主題は、私達に多くの示唆を与えてくれます。コンプライアンスが大事とかいう研修を会社でするなら、これ読んでおくのが一番早いです。

さて、これを読めば山一証券が潰れた理由は大体わかります。しかし筆者はこの本を小説として書くことで、読者に「サラリーマンであること」や「明日会社がなくなるとしたら」ということを考えさせます。四大証券の一角であった山一証券が潰れるなんて、社員たち自身が一番考えてもみなかったことでしょう。ましてや時代は今と違って正規終身雇用の時代。「気楽な稼業」のサラリーマンが、「会社がなくなります」と宣告されたとき、どうなってしまうのか。
筆者は明確に「サラリーマンにとって会社とは」とか「再就職とは」みたいなことについて、自分の主張は盛り込んでいません。あくまでノンフィクション小説として、事実を描写する事に徹しています。ただ、読了して、この小説の結末はバッドエンドではないと私は感じました。多くが穏やかに第2の人生を歩んでいるしんがり兵たちの後日談が、エピローグで描かれています。それはおそらく、清武氏自身が「清武の乱」で読売グループを追われたことを後悔していないからなのだと思います。

会社が変わっても、無くなっても人生は続く。
ケセラセラ、whatever will be, will,be.

最後は前向きな気持ちをくれる、そんなノンフィクションです。