Xiong et al. Cell (2026) 189:1785-1801.
doi:10.1016/j.cell.2025.12.056
概日時計は植物の生長を制御する重要な要素の1つである。例えば、時計遺伝子のCIRCADIAN CLOCK ASSOCIATED 1(CCA1)を過剰発現させたシロイヌナズナ(CCA1-ox)の芽生えは胚軸が長くなる表現型を示す。このことはCCA1に生長促進作用があることを示しているが、その分子機構は完全には解明されていない。
スペイン 農業ゲノミクス研究センター(CRAG)のMasらは、CCA1-oxおよびCCA1の機能を補完するLATE ELONGATED HYPOCOTYL(LHY)とCCA1 の両方が機能喪失したcca1lhy 二重変異体を用いて芽生えの生長におけるCCA1の役割を解析した。連続光条件下で生育させたCCA1-ox芽生えは、野生型植物(WT)に比べて胚軸が有意に長く、cca1lhy 変異体では逆の表現型が観察された。しかし、暗黒条件下ではCCA1-ox、cca1lhy 変異体ともにWTと比較して有意な差は認められなかった。これらの結果は、CCA1が胚軸伸長を促進する役割を担っており、CCA1-oxは光による胚軸伸長の抑制に対して感受性が低く、cca1lhy 変異体は感受性が高いことを示している。芽生えの根を観察したところ、WTと比較してCCA1-oxの主根は短く、cca1lhy 変異体では有意に長くなっていた。これらの根の形質は様々な光強度条件下で一貫して見られたが、暗黒下では観察されなかった。低光強度(15 μE)下で生育した芽生えを経時解析したところ、WTでは根の伸長に周期変動が認められたが、CCA1-oxではその振幅が弱かった。これらの結果は、CCA1による概日リズムが根の伸長を制御する上で重要であることを示している。胚軸と根の生長量の違いから、CCA1-oxは胚軸と根の長さの比がWTと比較して有意に増加し、cca1lhy 変異体では有意に減少しており、CCA1は器官特異的に生長を制御していることが示唆される。
CCA1の器官特異的機能の根底にある転写ネットワークを解明するためにシュートと根のRNA-seq解析を行なった。WTと比較してCCA1-oxにおいて発現が変動している遺伝子(DEG)を解析したところ、根では発現が低下した遺伝子の数が増加していたのに対し、シュートでは発現上昇した遺伝子の数が多いことが判った。DEGの約95 %はシュートと根の両方で周期的な発現変動が認められた。シュート特異的DEGに対してGO解析を行なったところ、CCA1-oxのシュートで特異的に発現上昇した遺伝子はオーキシン関連のものに富んでいることが示された。シュートと根に共通して見られたDEGは、概日シグナル伝達経路、概日過程制御、光および非生物的刺激への応答、発生の各経路に関連するものが有意に富んでいた。共通DEGには多くのコア時計遺伝子が含まれており、CCA1はシュートと根の両方で抑制因子として機能していた。根特異的DEGには、CCA1-oxの根において特異的に発現が抑制された様々な遺伝子が含まれており、例えば細胞壁の弛緩にまつわるEXPANSIN B2(EXPB2)などの遺伝子が挙げられる。これは、根の伸長が抑制されたという結果と一致している。CCA1-oxの根ではグリコシル化および炭水化物代謝に関与する一部の遺伝子の発現が有意に低下し、cca1lhy 変異体では発現が上昇していた。また、根特異的DEGには細胞膜を介した代謝産物の輸送に関与する遺伝子が含まれていた。一方で、根ではオーキシン関連遺伝子の発現変動は認められなかった。したがって、観察された根の形質はオーキシン関連遺伝子の制御異常によって説明される可能性は低い。
さらにRNA-seqデータを解析した結果、ショ糖トランスポーターをコードするSUCROSE2(SUC2)の発現がCCA1-oxで有意に低下し、cca1lhy 変異体で有意に上昇しており、シュートと根の両方でDEGであることが判った。したがって、CCA1 の異常発現によるシュートと根の生長バランスの変化は、光合成産物の篩部への輸送効率の低下に起因している可能性がある。そこで、培地にショ糖をしたところ、CCA1-ox芽生えの根長が増加した。ショ糖添加はcca1lhy 変異体の根長も増加させたが、その効果はWTに比べて小さかった。したがって、CCA1 の異常発現はショ糖の分配変化をもたらし、胚軸と根の生長バランスに影響をおよぼしていることが示唆される。根のショ糖含量を見たところ、CCA1-oxでは減少していたのに対し、cca1lhyでは増加していた。また、CCA1-oxのシュートはWTやcca1lhy 変異体よりも多くのデンプンを蓄積しており、炭水化物は輸送よりも貯蔵へとシフトしていることが示唆される。ChIPアッセイから、CCA1がSUC2 遺伝子プロモーターに結合することが確認された。器官特異的な生長表現型が、SUC2 の発現を抑制するCCA1の機能に依存していることを確認するため、CCA1 とSUC2 の両方を過剰発現させた系統(SUC2-ox/CCA1-ox)の生長を解析したところ、CCA1-ox芽生えの根の生長不良はSUC2 の過剰発現によってわずかに改善されたが、完全には回復しないことが判った。
また、CCA1-oxではH⁺ポンプATPaseであるAHA3 の発現が有意に低下し、cca1lhy 変異体では上昇していた。AHA3 はシュートと根の両方で発現していたが、全体としてはシュートでの発現が高かった。AHA3 はコンパニオン細胞特異的に発現しており、アポプラストを酸性化させることでSUC2を介したショ糖/H⁺共輸送を駆動するプロトン駆動力をもたらしている。アポプラストがアルカリ化するとΔpHが低下して膜が脱分極し、このことによってSUC2の活性が低下し、その結果、葉からのショ糖輸出が制限され、根への炭素供給が減少する。CCA1-oxの根では、WTと比較して、篩部の基部から先端部への流れが有意に低下し、cca1lhy 変異体では有意に上昇していた。CCA1はAHA3 遺伝子プロモーターに結合することで発現を直接調節していることが確認された。
もしCCA1がAHA3 の発現を制御しているならば、CCA1-oxのコンパニオン細胞のアポプラストにおいてプロトン勾配の変化が見られるはずである。解析の結果、CCA1-oxのアポプラストのpHは、胚軸および根のいずれにおいてもWTよりも有意に高いことが判った。したがって、CCA1-oxにおけるAHA3 の発現低下と篩部における局所的なアポプラストのアルカリ化の増強は連動している。
オーキシンはシュート表皮細胞のアポプラストを酸性化させ、CCA1はオーキシンシグナル伝達と胚軸の伸長を促進するので、胚軸表皮細胞アポプラストのpHを調べたところ、CCA1-oxではWTと比較してアポプラストのpHが低く、cca1lhy 変異体では高いことが判った。経時解析から、WTの胚軸および根の篩部のアポプラストpHに周期変動が認められ、CCA1-oxの方が常に高いpH値を示していた。WTの胚軸表皮細胞のアポプラストpHも篩部のpHの周期変動に対してほぼ逆位相となる形で変動しており、CCA1-oxの表皮のアポプラストpH値は常にWTよりも低かった。アポプラストpHの対照的かつ細胞型特異的な変化は、CCA1 を異常発現させた芽生えで観察された胚軸および根の生長表現型と一致している。
cca1lhy 変異体においてコンパニオン細胞特異的にCCA1 を発現させたところ、根の長さは短くなったが、胚軸の長さには明らかな変化は見られなかった。CCA1-oxでAHA3 を過剰発現させたAHA3-ox/CCA1-oxは、胚軸の長さに変化は見られなかったが、根の生長低下は回復し、篩部の輸送速度の低下も回復した。AHA3-ox/CCA1-oxの胚軸コンパニオン細胞のpH値はWTと同程度になっていたが、表皮細胞のアポプラストpHはCCA1-oxとAHA3-ox/CCA1-oxで有意な差は認められず、pHの回復はコンパニオン細胞のアポプラスト特異的なものであった。これと一致して、AHA3-oxは根の長さは有意に増加したが、胚軸の長さには変化が見られなかった。
以上の結果から、概日時計の構成要素であるCCA1は、分子レベルの可変抵抗器として機能し、細胞特異的にプロトンの電気化学的勾配を微調整することで、炭素の配分とシュートと根の生長バランスを調整していると考えられる。表皮細胞と篩部コンパニオン細胞のアポプラストpHは逆位相の変動を示し、CCA1はオーキシンシグナル伝達を活性化することで細胞膜のH⁺-ATPaseを活性化して表皮細胞のアポプラストpHを低下させ、胚軸の伸長を促進している。また、師部コンパニオン細胞においては、CCA1はAHA3 およびSUC2 の発現を抑制することでアポプラストのpHを上昇させ、ショ糖の取り込みと根の伸長を制御していると考えられる。
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コウボウムギ(弘法麦)
Carex kobomugi
イネ目カヤツリグサ科スゲ属
別名:フデクサ(筆草)
北海道から九州にかけての比較的よく発達した砂浜に群生する多年草。神奈川県内では湘南、三浦の海岸砂浜で見られる。砂中に匍匐茎を長く伸ばし、やや間隔をあけて節から茎や葉を出す。葉は湾曲して強靭で広線形、表面はなめらかで縁に鋭い鋸歯がある。茎の先に無柄の小穂が多数密集した卵形~長楕円形の太い筆のような花序をつける。雌雄異株まれに雌雄同株。雄花序は雌花序より細い。果胞は楕円形で偏平、上端は長い嘴となり、縁に不揃いの歯牙がある。
和名「コウボウムギ」の「弘法」は古い葉鞘の繊維を筆として使ったといわれ、筆といえば弘法大師という発想からきているという。「麦」は雌小穂と実の形がムギに似ているからとされている。学名「Carex kobomugi」を命名したのは日本の植物学者でカヤツリグサ科を中心に分類を行なった大井次三郎(1905-1977)。

雌株
雌株
雌株
雄株
雄株
雄株
2026年4月29日 神奈川県三浦市南下浦町(三浦海岸)
Lyu et al. Developmental Cell (2026) 61:518-535.
doi:10.1016/j.devcel.2025.12.009
イネ科作物(イネ、コムギ、オオムギ)への高窒素(HN)施肥は、中程度の窒素(MN)施肥と比較して収量を向上させるが、開花時期や成熟が遅延するといった望ましくない結果をもたらす。しかし、窒素施肥がどのように植物に感知され、そのシグナルが活性化されるのかについては解明されていない。中国 浙江大学のWuらは、単子葉植物のモデル植物でありHN条件下で強い花成遅延を示すミナトカモジグサ(Brachypodium distachyon、イネ科ヤマカモジグサ属)を用いてHNの花成に対する影響の分子機構の解明を試みた。
ミナトカモジグサは完全長日植物で、フロリゲン遺伝子FLOWERING LOCUS T(FT)のオルソログが6つあり、このうち4つ(BdFT1、BdFT2、BdFT4、BdFTL10)が長日条件下で発現している。解析の結果、HN処理によってBdFT4 のみ発現誘導されることが判明した。また、BdFT4タンパク質量は、MN条件下と比較して、HN条件下で有意に多くなっていた。タンパク質の安定性について調査したところ、MN条件下で生育した芽生えのタンパク質抽出液でBdFT4タンパク質を処理すると急速に分解されたが、HN条件下で生育した芽生えの抽出液で処理した場合には、明らかな分解は観察されなかった。このMN条件下でのBdFT4タンパク質の分解は、26Sプロテアソーム阻害剤であるMG132を添加することで著しく抑制された。また、窒素濃度が増加するにつれてBdFT4タンパク質のユビキチン化の程度が低下した。これらの結果から、BdFT4はMN条件下では速やかに分解されるが、HN条件下では安定化することが示唆される。
ミナトカモジグサのBdFT1は、bZIP型転写因子のFDや13-3-3タンパク質と結合してフロリゲン活性化複合体を形成し、花成制御における下流遺伝子VERNALIZATION (VRN1)のシスエレメントに結合して発現を活性化、花成を誘導する。BdFT4タンパク質は14-3-3タンパク質のBdGF14bおよびFDホモログタンパク質のBdFD1と相互作用をするが、BdFT4で構成された複合体はBdVRN1 の発現を抑制した。BdFT4 を過剰発現させた形質転換体は長日条件下での花成が遅延し、CRISPR-Cas9系で作出したBdft4 変異体は花成遅延の程度が野生型植物(WT)と比較して有意に低下していた。よって、BdFT4は異なる窒素条件下での花成制御に関与していることが示唆される。26Sプロテアソーム系により分解されるタンパク質では特定のリジン(K)残基がポリユビキチン化されるが、イネ科植物FT4タンパク質において保存されているK残基のうちK48がFT4タンパク質の分解にとって重要であることが確認された。
MH条件下でのBdFT4タンパク質の分解に関与しているE3リガーゼの探索を行なったところ、青色光受容体として機能することが知られているF-boxタンパク質のFLAVIN-BINDING, KELCH REPEAT, F-BOX 1(BdFKF1)がBdFT4と相互作用することが確認された。この相互作用は他のイネ科植物においても見られ、BdFKF1のKelchリピートドメインがBdFT4の認識に関与していることが判った。ベンサミアナタバコでの一過的発現解析から、BdFT4タンパク質の蓄積量はBdFKF1を共発現させることで減少したが、MG132を添加したり、F-boxドメインを欠いたBdFKF1(BdFKF1ΔFbox)を共発現させた場合には分解は著しく抑制された。このことから、BdFKF1はBdFT4のユビキチン化を介した分解に関与していることが示唆される。Bdfkf1 変異体は、長日条件下では花成遅延を示したが、短日条件下ではWTと同等の時期に開花した。これは、BdFKF1 の発現が主に長日条件下で起こるという事実と一致している。さらに、BdFKF1 を過剰発現させた系統(OE-BdFKF1)は長日条件下で早期花成した。BdFKF1はBdFT4 の転写に有意な影響を与えていないので、BdFKF1がBdFT4の分解に関与している可能性が高いことが示唆される。BdFT4タンパク質をBdfkf1 変異体由来の抽出液で処理した場合は安定していたが、OE-BdFKF1 由来抽出液でした場合はほぼ消失した。これらの結果から、BdFT4タンパク質の代謝回転がBdFKF1によって制御されていることが示唆される。Bdfkf1 変異体の花成遅延表現型は、Bdfkf1/Bdft4 二重変異体において著しく緩和された。しかし、この二重変異体の形質はBdft4 変異体の形質を完全に再現するものではなかった。このことから、通常条件下の花成制御においてBdFT4はBdFKF1の下流で部分的に作用していることが示唆される。
真核細胞は、多くの生理的制御過程において、膜を持たない凝集体を利用して多価分子を局在化している。これらの凝集体の多くは、液-液相分離(liquid-liquid phase separation、LLPS)によって液体のような性質を獲得していることが示されており、植物においては環境ストレスに敏感に反応することが知られている。解析の結果、MN条件下で生育したミナトカモジグサの根端細胞においてBdFKF1の凝集体の形成が確認された。また、BdFKF1 を一過性に発現させた細胞において核内凝集体が観察された。さらに、精製したBdFKF1タンパク質は、一定の濃度となると濁り、タンパク質濃度の増加に伴い液滴サイズも大きくなった。液滴は互いに交差すると直ちに融合し、1つのより大きな凝集体へと合体した。これらの結果から、BdFKF1はLLPSを経て凝集体を形成することが示唆される。
BdFKF1タンパク質は細胞質と核の両方に局在しているが、青色光照射によって核局在が増加した。FKF1の青色光受容はLight-Oxygen-Voltage(LOV)ドメイン内の95番目のシステイン(C95)残基に依存していることが示されており、C95を置換した変異型BdFKF1は、核局在が不完全であるだけでなく、凝集体を形成する能力も失っていることが観察された。これらの知見から、BdFKF1の核局在と凝集体形成の両方において青色光が不可欠であることが示唆される。
LLPSを促進する架橋ネットワークの形成には安定した三次元構造を持たない天然変性領域(intrinsically disordered region、IDR)が必要であり、BdFKF1のN末端に典型的なIDRが見られた。IDRを欠いた変異型BdFKF1(BdFKF1ΔIDR)は凝集体を形成せず、IDRがBdFKF1のLLPSに不可欠であることが示唆される。BdFKF1のIDR領域にある65個のアミノ酸のうち17個が疎水性のアラニン(A)残基であり、これらはαヘリックスおよび2つのβシート構造に集中して分布していた。そこで、IDRのA残基に富んだ領域(A-array)の8Aおよび17Aをグルタミン酸(E)残基に置換した変異型BdFKF1(8Am、17Am)をベンサミアナタバコで発現させたところ、凝縮体を有する細胞の割合が大幅に減少し、さらには消失することが示された。また、BdFKF117Am 過剰発現系統(OE-BdFKF117Am)では、OE-BdFKF1 と比較して発現量は同等であるにもかかわらず、MN条件下の開花が著しく遅延した。さらに、OE-BdFKF1 ではBdFKFの核凝集体が形成されていたが、OE-BdFKF117Am では核全体に均一に分散しており、IDRにおけるA-arrayがBdFKF1のLLPSおよび花成促進に必要であることが示唆される。
F-boxドメインが欠失したBdFKF1およびBdFKF117Amは、ユビキチン化活性が著しく低下していた。また、ベンサミアナタバコを用いた一過的発現解析において、BdFKF1を共発現させた場合、BdFT4が有意に減少したが、BdFKF1ΔIDRまたはBdFKF117Amを共発現させた場合、減少は有意に弱まった。このことから、BdFKF1凝集体がユビキチン化を介したBdFT4の分解効率を高めていることが示唆される。
ベンサミアナタバコ細胞の核内にある BdFKF1凝集体は、MN培養液中では球状の凝集体へと発達したが、窒素量が高まるにつれて凝集体は不規則な形状へと変化して数が徐々に減少し、HN条件下では凝集体が確認できなくなった。興味深いことに、HN条件からMN条件に移すと、消失していた凝集体が再び現れた。このことは、BdFKF1のLLPSの動的特性が窒素条件の影響を受けており、HN条件下でのミナトカモジグサの花成遅延においてBdFKF1凝縮体形成の抑制が重要であることが示唆される。
各窒素条件下で生育したミナトカモジグサ芽生えを解析したところ、MN条件下では、OE-BdFKF1 と比較して、OE-BdFKF117Am でのBdFT4蓄積量が高く、BdFT4のユビキチン化の程度が有意に低かった。しかし、HN条件下では、OE-BdFKF1 のBdFT4蓄積が著しく促進され、ユビキチン化の程度が著しく低下した。これに対し、OE-BdFKF117Am では、2つの条件下でのBdFT4タンパク質量とユビキチン化の状態は概ね安定していた。BdFKF1 とBdFT4 を過剰発現させた系統のHN条件下での花成はBdFT4 過剰発現系統と同等となることから、BdFT4はBdFKF1を介したHN誘導花成遅延の主要な下流因子として機能していると考えられる。
ベンサミアナタバコでの解析において、MN条件下でBdFKF1はBdFKF1の核内凝集体とは共存していなかった。このことは、BdFT4がBdFKF1凝集体に取り込まれる過程に足場タンパク質が必要とされる可能性を示唆している。解析の結果、足場タンパク質のGIGANTEA(BdGI)がBdFKF1と共局在していることが判った。さらに、Bdgi 変異体は、Bdfkf1 変異体と同様に、花成遅延を示した。また、BdGIが細胞質および核内でBdFT4と直接相互作用することが示され、ベンサミアナタバコ細胞においてBdFKF1、BdGI、BdFT4の3者を共発現させた場合に凝集体が観察された。これらの結果から、BdFKF1はBdGIと凝集複合体を形成し、MN条件下でBdFT4を効率的にリクルートしていると考えられる。IDRが欠損したりA-arreyが変異していてもBdFKF1はBdGIと相互作用したが、BdFKF1のBdGIに対する結合能力は劇的に低下していた。よって、BdFKF1のIDRは、LLPSを促進するだけでなく、多量体形成やタンパク質間相互作用も調節していることが示唆される。さらに、BdGI の機能喪失は、MN条件下におけるOE-BdFKF1 の早期花成やBdFT4の分解を著しく緩和した。これらの結果から、BdFT4をBdFKF1凝集体にリクルートして分解させるためには、BdGIが不可欠であることが示唆される。長日条件でのMNおよびHN条件下において、3遺伝子の発現は日周変動を示し、BdFT4 は午前中(ZT4)に、BdGI は正午(ZT8)に、BdFKF1 は午後(ZT12)にピークを示した。このことから、BdFT4がまずBdGIと結合し、その後BdFKF1の凝集体に入り、そこで分解されるという流れになっていることが示唆される。
HN条件下でのBdFKF1とBdGIとの相互作用は、MN条件と比較して有意に減少しており、この相互作用はBdFKF1のN末端IDRに依存していることが判った。ベンサミアナタバコ細胞での観察において、BdFKF1-BdGI-BdFT4凝集体はMN条件下では当初丸みを帯びた形状を示していたが、窒素濃度の増加に伴い徐々に解離し、HN条件下では消失した。しかし、熱ストレスや低温ストレスなどの処理は凝集体の状態に影響を及ぼさなかった。これらの結果から、HN条件はBdFKF1凝縮体の形成および足場タンパク質BdGIとの相互作用を減少させ、そのことでBdFT4の分解が抑制されることが示唆される。
HN条件に応答したFKF1によるFT4の分解機構はイネにおいても保存されており、イネ400系統を用いた解析から、OsFKF1 は窒素利用に応答して開花を調節する主要なQTLとして機能していることが判った。イネゲノムデータベースの解析から、OsFKF1 のコード領域内に28個の一塩基多型(SNP)を含む19以上のハプロタイプを同定し、そのうち4つのSNPが非同義変異を引き起こしていた。進化上の関係に基づき、主要な5つのハプロタイプを2つのグループに分類したところ、グループ H(OsFKF1H)の遺伝資源コレクションはグループ L(OsFKF1L)よりもHN条件に対する花成応答性が高く、OsFKF1L はOsFKF1H よりもHNによる開花遅延の影響を受けにくいことが示唆された。興味深いことに、一般的に窒素貧乏な土壌地域(インド北東部やガンジス川流域のバングラデシュなど)に分布するAus種は、そのほとんどがOsFKF1L 型(97.2%)に属していた。対照的に、温帯ジャポニカ(GJ)種が広く栽培されている窒素豊富な地域(中国北東部、韓国、日本など)では、OsFKF1L 型はほぼ失われていた。これらの結果から、OsFKF1 がイネの開花時期において土壌中の窒素利用可能性に適応する過程に寄与している可能性が示唆される。
そこで、OsFKF1H 型の日本の代表的なGJ種の日本晴(Nip)を親系統とし、OsFKF1L 型のインドの窒素貧乏な土壌地域に由来するAus種のカサラス(Ka)の第11染色体断片を保持する染色体断片置換系統(CSSL)について、MNおよびHN条件下における開花特性を調査した。その結果、OsFKF1L を含むCSSLは、MN条件下ではOsFKF1H 型のNipよりも開花が遅かったが、HNによる開花時期の遅延に対する感受性は低かった。これは、HN条件下でのCSSLでの開花遅延の軽減が、Ka由来のOsFKF1L の影響に起因することを示している。
興味深いことに、NipとKaとの間にみられるOsFKF1 のSNP1とSNP2はIDR領域に存在しており、SNP2はGWAS解析での高窒素応答開花制御のピークの1つに位置していた。自身のプロモーター制御下にある異なるハプロタイプのOsFKF1 を Nip バックグラウンド Osfkf1 変異体に導入したところ、pOsFKF1:OsFKF1H /Osfkf1 系統はOsfkf1 変異体の開花遅延表現型を完全に相補することを確認した。一方、pOsFKF1:OsFKF1L を導入した系統では、OsFT4蓄積量が多かったため回復度は低かった。さらに、pOsFKF1:OsFKF1H/Osfkf1 系統では、OsFKF1の核内凝集体が観察され、pOsFKF1:OsFKF1L/Osfkf1 系統では凝集体はほとんど観察されず、核内で拡散していた。pOsFKF1:OsFKF1L/Osfkf1 系統は、MN条件の土壌では開花時期が遅くなったが、HN条件下では開花時期が早くなった。これは、異なるLLPSポテンシャルを持つOsFKF1のハプロタイプが、窒素含有量が異なる土壌条件下において、イネの開花時期に直接影響を及ぼし得ることを示唆している。
以上の結果から、窒素濃度の変化はイネ科植物の花成阻害因子FT4の安定性に影響しており、このことで花成時期が変化することが判った。中程度の窒素条件下では、FT4は青色光受容体FKF1の凝集体にリクルートされてユビキチン化を介して分解されるが、高窒素条件下ではFKF1の凝集能力が失われて足場タンパク質GIとの相互作用が阻害され、FT4が安定化して花成が抑制される。これらの知見は、過剰な窒素肥料による高収量にもかかわらず生じる開花遅延や輪作体系の乱れといった問題に対処するための品種改良に役立つ可能性がある。
ジロボウエンゴサク(次郎坊延胡索)
Corydalis decumbens
キンポウゲ目ケシ科キケマン属
関東から西の本州、四国、九州のやや湿った原野や山麓地帯に生える多年草。地下茎から根生葉と茎を数本だす。茎は弱々しくやや傾いて伸び、茎生葉を2、3個つける。根生葉は長い柄を、茎生葉は短い柄をもち、2~3回3出複葉、小葉は2~3個に深裂する。裂片は倒卵状くさび形で全縁、先端がわずかに尖る。総状花序にやや少数の花をつける。小花柄の基部の苞は菱形の卵形で、先はとがり分裂しない。花冠は一方が唇状に開き、その反対側が距となる。花冠は紅紫色から青紫色、まれに白色(シロバナジロボウエンゴサク)。和名の「ジロボウエンゴサク(次郎坊延胡索)」の「延胡索」はキケマン属のこの類の漢名、「次郎坊」は、三重県伊勢地方において、スミレを「太郎坊」とよび、本種を「次郎坊」とよんで、子供たちがお互いの花の距をからませて引っ張り合いをして勝負したことに由来する。

コウボウシバ(弘法芝)
Carex pumila
イネ目カヤツリグサ科スゲ属
北海道から南西諸島までの海岸の砂地に生える多年生の草本。まれに海岸でなく内陸奥の湖畔の砂地で見ることがある。国外では、東アジアからオーストラリア、ニュージーランド、南アメリカのチリで見られる。地下には横に走る長い根茎があり、地上茎は間を置いて出る。葉は硬く細長く、花茎より長く伸び、深緑色をしており、縁には上向きの小突起がありざらつく。花序は頂小穂が雄性で、その下に続いて2-4個の雄小穂があり、さらにその下に1-3個の雌小穂が互いに接近してつく。雌小穂は短い柱状で柄があり、果胞(スゲ属植物に見られる雌しべを包む袋状の器官)が密集して付く。果胞は長卵形で、コルク質で水に浮きやすく、海水中で2ヶ月以上も浮かんでいることができるので海流分散する。海岸砂浜特有の植物なので海岸線の開発工事などによる減少が危惧されており、本種が主となる群落を絶滅危惧に指定している地域がある。和名は同じスゲ属でやはり海岸砂地に生えるコウボウムギ(弘法麦、Carex kobomugi)よりも実が小さいことによる。コウボウムギは雌雄異株だが、コウボウシバは雌雄同株の雌雄異花。

2026年4月14日 神奈川県横須賀市走水
Moya-Cuevas et al. New Phytologist (2026) 249:2452-2466.
doi: 10.1111/nph.70819
オーキシン(インドール-3-酢酸:IAA)の生合成は、アミノ酸のトリプトファンを基質とし、① インドール-3-ピルビン酸を経由する経路、② インドール-3-アセトアルドキシムを経由する経路、③ インドール-3-アセトアミド(IAM)を経由する経路の3つの経路が知られている。最近の研究において、IAMをIAAに変換するアミダーゼ(AMI1)が機能喪失したシロイヌナズナ変異体の芽生えは浸透圧ストレスに対して過敏性を示すことが判明した。しかしながら、IAMのシグナル分子としての役割については明らかとなっていない。スペイン マドリード工科大学(UPM)のPollmannらは、IAMが主根の伸長を抑制する効果に関連する遺伝子座を同定することを目的として、イベリア半島産のシロイヌナズナ166系統を用いてゲノムワイド関連解析(GWAS)を行なった。
芽生えにIAM処理をしたところ、大多数の系統は主根の伸長が抑制されたが、11 %の系統では促進効果が認められた。各系統のIAM処理に対する根の応答についてGWAS解析を実施し、241個の候補遺伝子が特定された。このうち、ABA3(At1g16540:MOCOスルフラーゼ、アブシジン酸生合成の主要な調節因子)とGA2ox2(At1g30040:ジベレリン不活性化酵素)は、短期的なIAM処理に対してそれぞれ発現の増加および減少を示すことが以前に報告されており、ABA3 およびGA2ox2 のマイナー対立遺伝子を持つ系統をそれぞれ16系統および15系統同定した。これらの系統はいずれもIAMに対する感受性が低下していた。これらの系統の地理的分布をみると、GA2ox2 のマイナー対立遺伝子は広範囲に分布していたのに対し、ABA3 のマイナー対立遺伝子はイベリア半島南西部の狭い地域に限定されていた。特に、ABA3 のマイナー対立遺伝子を持つ16系統のうち13系統は、イベリア半島産の系統で以前に報告された遺伝グループC4に属しており、このグループは種子休眠などのアブシジン酸(ABA)シグナル伝達に関する重要な形質によって特徴づけられている。
166系統のABA3 遺伝子およびGA2ox2 遺伝子についてゲノムDNA配列を調査したところ、それぞれ155個(プロモーター領域に95個、コード領域に60個)および63個(プロモーター領域に37個、コード領域に6個)の一塩基多型(SNP)が見られた。ABA3 遺伝子のSNPは全体に分布しており、マイナー対立遺伝子を有する16系統と連鎖不平衡(LD)を示す31のSNPがあった。この対立遺伝子は6つの同義変異と、L102I、A150G、L267Vの3つのミスセンス変異を含んでおり、ABA3_Altと命名した。一方、GA2ox2 遺伝子ではマイナー対立遺伝子とLDを示すSNPは2つのみであり、いずれもアミノ酸配列の変化を示すものではなかった。
ABA3で見られた3つのアミノ酸置換はいずれも保守的な置換であるものの、タンパク質の二次構造の予測結果からは、αヘリックス、βストランド、およびコイル領域の長さや配列にわずかな違いが見られた。Col-0のABA3タンパク質(ABA3_Ref)と高次構造を比較すると、ABA3_Altはわずかにねじれていることが判明し、このような構造的変化はタンパク質の幾何学的構造や立体化学的性質に影響を及ぼす可能性がある。酵素活性や基質親和性の観点から考察すると、L267V変異は、ABA3の活性に不可欠であるNifS-likeドメインK271残基へのピリドキサールリン酸補因子の結合を阻害する可能性が考えられた。また、これらの変異はABA3タンパク質の安定性に影響している可能性が推測された。
IAMを介した生長抑制におけるABA3 とGA2ox2 の役割を解明するために、これら2つの遺伝子のノックアウト系統を用いて解析を行なった。過去の研究において、ami1 変異体ではGA2ox2 だけでなくGA2ox6 の発現も誘導されていることから、ga2ox1 ga2ox2 ga2ox3 ga2ox4 ga2ox6 五重変異体(ga2ox q)を解析の対象に加えた。さらに、ABAシグナル伝達が欠損したabi5 変異体も解析対象とした。野生型対照のCol-0芽生えは、IAM処理により主根の長さが30 %短縮し、ga2ox2 変異体およびga2ox q 変異体では、それぞれ34 %および35 %の主根伸長の減少しており、Col-0との有意差は認められなかった。対照的に、aba3 変異体では12 %減少、abi5 変異体では8 %の減少となり、IAMが誘導する根の伸長抑制が有意に低かった。これらの結果から、IAMがもたらすABAの生合成およびシグナル伝達に対する影響が根の伸長抑制に寄与しており、ジベレリンの不活性化はIAMに対する根の伸長応答には関与していない可能性が高いと考えられる。
ABAの生合成およびシグナル伝達の変異体がIAM応答において機能不全を示すこと、内性IAMの蓄積が細胞内ABA濃度に影響することが以前から報告されていることを踏まえると、IAM添加はシロイヌナズナの根においてABAの生合成およびそれに続くシグナル伝達を誘導していることが推定される。そこで、ABAシグナル伝達レポーターを導入した系統をIAM処理したところ、ABA処理と同等のABAシグナル伝達反応が根端部において誘導された。しかしながら、IAA処理ではそのような応答は見られなかった。したがって、この応答はIAM特異的であることが示唆される。
トランスクリプトーム解析の結果、IAM処理およびABA処理に対する反応として同定された1020個および1673個の発現変動遺伝子(DEG)のうち、206個のDEG(比較対象となった全遺伝子の8.3%)が共通していることが示された。これらの遺伝子についてGO解析を行なったところ、細胞の浸透圧の調整や植物の生長など、水分欠乏への応答に関連する生物学的プロセスは、IAMとABAが重複して調節している生理機能であることが示された。
以上の結果から、オーキシン前駆体のIAMによって誘導される主根の伸長抑制は、ABA3を介したABA産生増加と密接に関連していることが示唆される。また、IAMがABAシグナル伝達を活性化することが確認され、IAMとABAとの間に新たな相互作用が存在することが明らかになり、植物ホルモン間のクロストークにおいて、IAMがシグナル伝達分子として独立した役割を果たしていることが示唆される。
ヤマルリソウ(山瑠璃草)
Omphalodes japonica
syn. Nihon japonicum
ムラサキ目ムラサキ科ルリソウ(Nihon)属
福島県以西の本州、四国、九州の湿り気のある山地や道端、半日陰となる木陰に生育する多年草。日本固有種。根生葉は倒披針形で、縁は多少波状になり、全体に毛が多く、ロゼット状に広がる。茎の基部は倒れて上部が斜上し、茎葉は根生葉よりも小さく、基部が茎を抱き、上部のものほど小さく、まばらに互生する。茎の頂に総状花序をつける。花冠は5裂して平らに開き、基部に白色の付属体が2個ずつ付き、歯車状になる。花色は初め淡桃色で後に瑠璃色に変わる。
属名の「Omphalodes」はギリシャ語の「へそに似た」という意味で、分果の中央が凹んでいることに由来する。ルリソウ属には従来29種ほどが含まれていたが、形態と花粉形態の特徴と分子系統学的解析の結果から日本産ルリソウ属およびOmphalodes scorpioides(東欧から中央欧州にかけて分布)は他のルリソウ属とは近縁ではないことが判明し、それぞれNihon 属およびMemoremea 属として独立した属に分離された [Phytotaxa (2014) 173:241–277. DOI:10.11646/phytotaxa.173.4.1]。
旧来のクロンキスト分類体系では、ムラサキ科(Boraginaceae)はシソ目(Lamiales)に含まれていたが、実際には、この目内の他の科と他のいくつかのキク類(Asterids)の科との間には同程度の類似性しか見られなかった。そのため、2016年のAPG IV分類体系でムラサキ目(Boraginales)が新設され、ムラサキ科はキク類ムラサキ目に属する唯一の科として分類された [Botanical Journal of the Linnean Society (2016) 181:1–20. DOI:10.1111/boj.12385]。

2026年4月10日 神奈川県箱根三国山
Foliar dewdroplet–induced redox cascades promote early flowering in Brassicaceae plants
Zheng et al. PNAS (2026) 123:e2527021123.
doi:10.1073/pnas.2527021123
植物科学では、露などの大気からの水分供給がしばしば見過ごされがちである。最近の物理化学研究により、固体表面での微小液滴の凝縮や水-固体間の接触が活性酸素種(ROS)を自然発生させることが明らかになっている。植物においてROSはシグナル伝達やエピジェネティックな機構を通じて生長・発達を調節することが知られているので、日較差によって葉の表面、特にトライコーム(毛状突起)で生じた露滴が開花などの植物のフェノロジー(生物季節)に影響を与える可能性がある。しかし、葉に付着したこれらの微小液滴内で起こる化学反応や、それらが植物の代謝や生長におよぼす影響についてはほとんど解明されていない。中国 江漢大学のLiangらは、シロイヌナズナの葉上の露滴の化学的性質と、花成誘導における役割について検討した。
2021年および2022年の3月から5月にかけて、オランダのユトレヒト地方に自生するシロイヌナズナの開花および気象データを収集・分析した。露の発生を「地表温度が露点以下に低下して露の凝結が生じていることを示す期間」と定義して解析を行なったところ、開花期の具体的な時期は年によって異なっていたが、記録された開花事象の50.4 %が露の凝結期間の1週間以内に発生していることが判った。露と花成誘導との時間的連動は、露がこれまで十分に認識されていなかった花成の環境シグナルとして機能的な役割を果たしている可能性を示唆している。
露は主にトライコームの表面で形成されることから、自然の露を再現するために、トライコームに微小液滴を手作業で配置したところ、トライコーム上の微小液滴内でROSが自然発生し、微小液滴が蒸発するとROSも消失することが判った。環境シミュレーションチャンバーに入れた葉の表面で発生した凝縮水を回収してROSの種類を間接的に特定したところ、ヒドロキシルラジカル(•OH)であることが示された。さらに、葉表面の微小液滴において、植物の重要なシグナル伝達分子である活性窒素種(RNS)の一酸化窒素(NO)の生成が観察された。このNOはトライコーム表面に存在するROSとアミン、アミド、または亜硝酸塩基との反応によって生成された可能性がある。これらの知見は、大気中の水分の凝縮がNOの生成を含む葉表面での一連の酸化還元反応を引き起こし、植物のシグナル伝達に潜在的な影響をおよぼす可能性を示唆している。
露にさらされた葉の気孔細胞のNOは、露の付着していない葉よりも高くなっており、NOは拡散によって気孔を通して葉内に侵入していると推測される。また、露にさらされた芽生えではNO含量が有意に増加していたが、一酸化窒素合成酵素(NOS)の活性は露処理群と未処理群の間で差異は見られなかった。よって、葉表面の微小液滴が細胞内のNO量を化学的に上昇させていることが示唆される。
NO関連のシグナル伝達経路は、生理活性を有する様々なタンパク質のS-ニトロシル化に関与しており、その中には開花時期の調節に関与しているヒストン脱アセチル化酵素HDA19も含まれている。HDA19は、細胞質と核内において様々なタンパク質と複合体を形成しており、露にさらされることで複合体の分子量が増加した。解析の結果、葉が露にさらされるとHDA19は核内でグルタレドキシンGRXS17と複合体を形成することが確認された。GRXS17もNOシグナルによるS-ニトロシル化の標的となっており、HDA19、GRXS17共に露にさらされることでS-ニトロシル化が促進された。さらに、GRXS17はHDA19よりも高いNO結合率を示し、GRXS17がNOをHDA19へ転送するトランスニトロシル化メディエーターとして機能していると思われる。これらの結果から、細胞外微小液滴によって生成されたNOはGRXS17を介したS-ニトロシル化を通じてヒストン脱アセチル化酵素の活性を調節し、それによって植物の生長を制御していることが示唆される。
露にさらされた葉では、HDA19のゲノムへの結合が強まり、花成シグナルの中心的な統合因子であるFLOWERING LOCUS T(FT)の発現量が変化していた。このことから、NO-HDA19経路が花成を制御していることが推測される。遺伝子発現解析から、露によって発現抑制される29の遺伝子が同定され、その中でも、4つの遺伝子は露条件下でHDA19の結合が増加し、プロモーター領域のH3K14ac修飾が減少していることが確認された。これらの遺伝子の中にはアブシジン酸(ABA)の生合成および/またはシグナル伝達に関与しているAT2G27150(AAO3)とAT1G52340(ABA2)が含まれていた。そこで、露と内性ABA濃度との関係を調査したところ、微小液滴処理をした植物ではABA濃度が徐々に低下していくことが判った。また、微小液滴処理をした植物は1週間以内に抽苔および開花を示したのに対し、対照植物は栄養成長期にとどまっていた。この経路におけるS-ニトロシル化の役割を直接検証するため、酸化還元修飾が起こらないHDA19c137a点変異タンパク質を用いて解析を行なった。その結果、HDA19c137aを導入したhda19 変異体では露によるABA含量の有意な減少は見られず、開花時期の変化も認められなかった。ABA合成の低下はジベレリンの蓄積とシグナル伝達を促進し、その結果、早期花成を引き起こす可能性がある。また、HDA19が花成を負に制御している因子を抑制しているとも考えられる。いずれにせよ、この結果は、葉上の微小な露滴内で起こる細胞外での化学的な変化がシロイヌナズナ細胞内での生化学的な変化や開花時期に影響を及ぼし得ることを示す説得力のある証拠となっている。
微小液滴内で起こる物理化学的反応がおよぼす影響をより深く理解するために、分析対象をアブラナ科全体に拡大して解析を行なった。1990年から2023年の間に記録された、地球規模生物多様性情報機構(GBIF)データベースの位置情報付き人的観測データ138,580件を基に、81属478種にわたる開花記録12,692,736件を解析した。その結果、露点温度はアブラナ科全体において開花頻度の最も有意な正の予測因子であることが明らかになった。露点温度と(大気の混濁の程度を表わす)視程との相互作用も正の相関を示しており、露滴に作用する日光が開花調節に関与する葉の酸化還元反応連鎖に寄与している可能性が示唆される。対照的に、降水量、平均海面気圧、大気視程などのいくつかの変数は開花頻度と有意な負の相関を示した。これらの知見は、露の形成がアブラナ科植物における開花を地球規模で促進要因として作用しているという仮説を支持するものである。これらの結果は、葉表面の微小な露滴が開花時期を調節する補助的な因子として機能することを示しており、、植物のフェノロジーや生殖戦略を地球規模の気候変動という観点から検討するにあたって、降雨以外の露などの水分供給源の変動を考慮することの重要性を強く示唆している。
以上の結果から、葉表面での露の凝結は、活性酸素種(ROS)や一酸化窒素(NO)を伴う酸化還元連鎖反応を引き起こし、細胞内シグナル伝達を調節して遺伝子発現を変化させ、花成を促進することが示された。この機構は、従来の光周期や温度によるシグナルと並行して機能し、植物が環境シグナルをどのように統合しているかについての理解に新たな側面を加えている。これらの知見は、水と植物の相互作用の生態学的意義を再定義するとともに、微視的な物理化学的過程が巨視的な生物学的結果にいかに影響を与えるかを浮き彫りにしている。
ナガバノスミレサシン(長葉の菫細辛)
Viola bissetii
キントラノオ目スミレ科スミレ属
本州の福島県以西、四国、九州の太平洋側の雪の少ない地方に分布し、山地や丘陵の夏緑林の林床や林縁のやや湿り気のある場所に生育する。地下茎が横にはい、節が多く、密に接近する。地上茎はない。長い葉柄のある少数の根葉が束生する。葉身は厚く、長三角形卵形で先がとがり、基部は心臓形、縁には低い鈍鋸歯がある。完全に展開する前の葉間から花柄を伸ばし花を横向きに開く。花は淡紫色で濃淡の変化が大きく、花弁5個に紫色の条があり、唇弁の条はとくに著しい。唇弁の距は太く短く、袋状で左右から押しつぶされている。同じスミレサイシン節に属するスミレサイシン(菫細辛、 Viola vaginata)は主に日本海側に分布しており、両種は日本の中で棲み分けている。

2026年4月10日 神奈川県箱根三国山
ヒメウズ(姫烏頭)
Semiaquilegia adoxoides
キンポウゲ目キンポウゲ科ヒメウズ属
関東地方以西の本州、四国、九州の暖帯域の路傍や畑の畦、石垣の間、林縁などに生育する小型の多年生草本。やや湿った日陰、木漏れ日程度のところに多い。地下に塊茎があり、先端から根出葉と花茎を出す。根出葉は叢生し、長い柄があり、3出複葉で、小葉には短柄があり、くさび形で2-3に裂け、よく育つとそれぞれが更に裂ける。葉裏は紫色を帯びている。花茎は途中に茎葉をつける。茎葉は短柄があるか無柄で、基本的には根出葉に似ている。花茎の頂にオダマキのような小花を付け、ややうつむいて咲く。花弁に見えるのは萼片で、白くて時にやや赤みを差し楕円形で5枚、下向きに抱えるように開く。その内側にやや黄色みを帯びた筒状の5枚の花弁がある。花の基部には短いながら距があって萼片の間から上に出る。雄しべは9~15個、雌しべは離生して2~5個、棒状。
属名の「Semiaquilegia」は「semi (半分)」+「aquilegia (オダマキ属)」を意味し、種小名の「adoxoides」は、ギリシャ語で「目立たない」ことを意味する「adoxos」に由来する。ヒメウズ属は、1902年に牧野富太郎によって設立が提唱された。牧野は、この属の特徴を、オダマキ属の外観に近いが、蜜腺の突起がないこと、雄しべの数が15本未満であること、そして扁平な仮雄しべのように見える内側の雄しべを持つことといったいくつかの点で異なるものと評価した。多くの研究者は、この属はSemiaquilegia adoxoides 1種のみとしているが、キュー王立植物園の「Plants of the World Online」では、ヒメウズ属に4種を認めている。 和名の「ヒメウズ」はトリカブト(烏頭)に似ているが小形であることを意味している。葉、果実、塊茎の様子はトリカブトに似ているとのことだが、花からはトリカブトは連想されない。キンポウゲ科なので、植物全体が有毒成分を含んでいる。

2026年4月5日 神奈川県横須賀市衣笠山公園





















