1-Aminocyclopropane-1-carboxylic acid oxidase determines the fate of ethylene biosynthesis in a tissue-specific way
Houben et al. Plant Physiology (2026) 200:kiag025.
doi:10.1093/plphys/kiag025
植物の気体状ホルモンであるエチレンは、1-aminocyclopropane-1-carboxylic acid(ACC)からACCオキシダーゼ(ACO)によって生合成される。シロイヌナズナは5つのACO 遺伝子をコードしているが、それらの遺伝的、分子的、生化学的特性や生物学的意義については不明な点が残されている。ベルギー ルーヴェン・カトリック大学のVan de Poelらは、エチレン生合成、植物の発達、生物的/非生物的ストレス耐性の調節におけるACO 遺伝子ファミリーの役割を解明するために、aco 変異体作出して表現型を観察した。
aco 単独変異体はACC添加によって野生型植物(Col-0)と同程度のエチレン生成量を示し、aco 二重変異体ではエチレン量はわずかに減少したが、必ずしも有意な差とはならなかった。aco 四重変異体はエチレンの生成量が減少したが、aco 五重変異体(ET-free)では検出可能なエチレンは生成されなかった。ET-free系統ではACCおよびその主要な縮合体であるmalonyl-ACC(MACC)が蓄積していた。一方、低次aco 変異体ではこのような現象は見られなかった。これらの結果ら、ACOファミリー内には冗長性があることが示唆される。
すべてのACO酵素は、親和性の違いはあるものの、ACCからエチレンを生成した。ACO1は最も高い酵素活性(Vmax 値)を示したが、ACCに対する親和性(Km 値)はかなり低かった。ACO1と同様に、ACO3とACO4もKm 値は低かったが、Vmax 値は3~5倍低かった。興味深いことに、ACO2は最も高いKm 値を示したが、Vmax 値は最も低く、一方、ACO5はKm 値が最も低く、Vmax 値も低かった。これらの結果から、ACO2は、ACC濃度が低い組織においてエチレンの生成効率が高い一方、ACO1はACCが十分に存在する際に高濃度のエチレンを生成するために利用されると考えられる。しかし、Vmax 値の差を考慮すると、ACCの利用可能量が低い場合でも、ACO1の方がACO2よりも多くのエチレンを生成する可能性が高いと考えられる。
転写レポーター(GUS-GFP)を用いてACO 遺伝子の発現特異性を調査した。ACO1 は、明所育成芽生えでは主に根とシュートの接合部、明所および暗所で育成した芽生えの両方で根端部で発現しており、根および茎頂の分裂組織に近い領域にも強く発現していた。ACO2 の発現は弱く、明所育成芽生えの葉や根の篩部に限定されていた。ACO3 の発現も主に維管束組織に限定されているが、明所育成芽生えの胚軸や、暗所育成芽生えの根の維管束組織において弱く発現していた。ACO4 の発現は、ACO1 と同様に、根の先端、根とシュートの接合部、分裂組織付近に限定されていた。ACO5 は芽生えの根や暗所育成芽生えの胚軸において広範囲に発現していた。成熟個体での発現を見ると、ACO1 とACO2 は茎頂分裂組織や若い葉の中肋付近で強い発現が観察された。また、ACO2 は維管束組織でも発現していた。ACO3 とACO4 は全体的に発現が弱かった。ACO5 は若い葉や成熟した葉の基部付近で強く発現していたが、維管束組織や中肋では発現していなかった。花器官での発現について短時間のGUS染色(1時間)で解析したところ、ACO1 はどの花器官でも発現していなかった。ACO2 の発現は雄ずい花糸の維管束組織に限られ、ACO3 は頂生花の柱頭でのみ発現していた。ACO4 は柱頭および発達中の蒴果を含むすべての花器官の基部でより強く発現していた。ACO5 の発現は雄ずい花糸の上部に特異的で、維管束組織で最も強く発現していた。しかし、一晩かけて行なったGUS染色では、多くの花器官で強い発現が認められた。ACO2、ACO3、ACO4、ACO5 は花器官においてより広範囲に発現していたのに対し、ACO1 の発現は発達中の長角果の基部に限定されていた。ACOの細胞内局在を見たところ、すべてのACOは細胞質に局在し、根においてACO1、4、5が核に局在していることが確認された。
すべてのACO 遺伝子のプロモーター領域にエチレンシグナル伝達における主要な転写因子であるEIN3が結合する部位が存在することから、ACO 遺伝子の発現がエチレンやACCによって制御されているかを調査した。その結果、エチレンやACCはわずかにACO の発現を変化させるが、それは生長条件や個々の遺伝子に大きく依存していることが判った。暗所育成芽生えの根端部では、ACCまたはエチレン処理によってACO1 の発現増加が認められたが、他のACO はそれほど反応しなかった。明所育成芽生えの根では、ACO5 のみがACCまたはエチレン処理後にコルメラ領域での発現がわずかに増加した。成熟個体では発現の変化はそれほど明確ではなかったが、エチレン処理後にACO2 とACO5 の発現がわずかに増加した。花序では、エチレン処理によるACO1 とACO4 の発現誘導が観察されたが、これは発達中の長角果の基部に限定されていた。RT-qPCRによる解析を行なったところ、明所育成芽生えでは、エチレン処理後にACO 発現量が低下したが、ACO3 については有意な変化は見られなかった。暗所育成芽生えでは、発現に有意な変化は認められなかった。
暗所育成芽生えの発達におけるACOの役割を解析するために、各aco 変異体の三重反応(エチレン処理による① 胚軸の短縮・肥大、② 根の伸長抑制、③ 茎頂フックの強調)を比較した。ACC処理なしでは、ET-free系統はCol-0よりも胚軸が長くなるが、低次aco 変異体で有意な差を示すものはごくわずかであった。低濃度ACC(0.2 μM)処理すると、一部の低次aco 変異体の胚軸長はエチレン生成量と強い相関を示した。根の長さに関しては、aco3,5 変異体、aco4,5 変異体、aco1,3,4 変異体はCol-0よりも有意に長く、ET-free系統はACC感受性を示さなかった。これらの結果から、暗所育成芽生えの胚軸および根の発達におけるACO 遺伝子の高い冗長性が示唆される。
明所育成芽生えの生長を比較したところ、ACC処理なしの場合、多くの単独変異体および高次変異体の胚軸はCol-0よりも長かったが、根の長さについては有意な変化はほとんど見られなかった。ACC処理をしたところ、aco1,4 変異体を除いたaco 変異体ではACCによる胚軸伸長は観察されなかった。これは、他のaco 変異体の胚軸ではエチレンの生成量が少ないことを示唆している。根については、Col-0とaco 単独変異体および二重変異体との間に顕著な違いは認められず、ACC処理によって伸長が阻害された。ET-free系統の根は低濃度ACC(0.5 μM)に対して感受性を示さず、根の伸長抑制が見られなかったことから、エチレンを産生できないことが示唆された。しかし、高濃度ACC (5 μM) に対しては感受性を示し、Col-0と同様に根が短くなった。このことから、ACC自体が高濃度で投与された場合にエチレンとは独立して根の伸長を阻害する可能性がある。
成熟個体では、一部の二重変異体(aco2,3、aco2,5、aco3,4)はCol-0に比べてロゼットがわずかに大きかった。しかし、ET-free系統のロゼットは、一貫して大きいとは限らなかった。また、花序および花の発達についても解析を行ったが、ごくわずかな変化しか認められなかった。ET-free系統はCol-0と比較して1~2日早く開花した。一次花序の長さや分枝数は遺伝子型間で大きな変化は見られなかった。aco 変異体は正常な長角果を形成し、結実数も正常であった。これらを総合すると、エチレンの生合成が減少または欠如しても、シロイヌナズナの栄養生長および生殖生長に劇的な影響は及ぼさないと結論づけられる。
エチレンによって誘導される老化や離層形成について解析したところ、ET-free系統はCol-0と比較して花弁の離脱が遅延しており、このような表現型はエチレン非感受性変異体(etr1-1、ein2-5)においても観察されている。一方、エチレン非感受性変異体で見られる葉の老化遅延、発芽や葉の展開の遅延についてはET-free系統では見られなかった。
最後に、aco 変異体における生物的/非生物的ストレス耐性を調査した。ET-free系統は、ein2-5 変異体と同様に、Col-0と比較して葉への糸状菌(Botrytis cinerea)感染の影響をより強く受けた。Col-0は砂中から発芽する際に機械的ストレスに応答してエチレンを生成して砂層の貫通を容易にしているが、ET-free系統は、ein2-5 変異体と同様に、砂層での発芽率が低下していた。しかし、aco1,2,3,4 変異体の発芽率はCol-0と有意な差が見られず、ACOファミリー内の冗長性が重要であることが示唆される。塩ストレスについては、ET-free系統はCol-0と比較して大きな差は見られなかったが、ein2-5 変異体は塩分ストレスの影響を受けた。栄養欠乏ストレスについては、ET-free系統がCol-0に比べて劣った成績を示し、これはein2-5 変異体と同様の傾向であった。アルミニウムやカドミウムなどの重金属ストレスについては、ET-free系統は軽度のストレス下においてCol-0に比べて良好な成績を示し、これもein2-5 変異体と同様の傾向であった。
以上の結果から、シロイヌナズナの5つのACOは、遺伝子発現が組織特異的に制御がされており、酵素の動力学的特性も異なっていることから、組織特異的なエチレン生合成を促進する上で重要な役割を果たしていると考えられる。したがって、ACOはエチレンシグナル伝達が関連する多くの発生過程やストレス応答の調節因子である可能性が高いと結論づけられる。