コウボウシバ(弘法芝)
Carex pumila
イネ目カヤツリグサ科スゲ属

北海道から南西諸島までの海岸の砂地に生える多年生の草本。まれに海岸でなく内陸奥の湖畔の砂地で見ることがある。国外では、東アジアからオーストラリア、ニュージーランド、南アメリカのチリで見られる。地下には横に走る長い根茎があり、地上茎は間を置いて出る。葉は硬く細長く、花茎より長く伸び、深緑色をしており、縁には上向きの小突起がありざらつく。花序は頂小穂が雄性で、その下に続いて2-4個の雄小穂があり、さらにその下に1-3個の雌小穂が互いに接近してつく。雌小穂は短い柱状で柄があり、果胞(スゲ属植物に見られる雌しべを包む袋状の器官)が密集して付く。果胞は長卵形で、コルク質で水に浮きやすく、海水中で2ヶ月以上も浮かんでいることができるので海流分散する。海岸砂浜特有の植物なので海岸線の開発工事などによる減少が危惧されており、本種が主となる群落を絶滅危惧に指定している地域がある。和名は同じスゲ属でやはり海岸砂地に生えるコウボウムギ(弘法麦、Carex kobomugi)よりも実が小さいことによる。コウボウムギは雌雄異株だが、コウボウシバは雌雄同株の雌雄異花。

 

 

 


2026年4月14日 神奈川県横須賀市走水

Identification of a novel link connecting indole-3-acetamide with abscisic acid biosynthesis and signaling

Moya-Cuevas et al.  New Phytologist (2026) 249:2452-2466.
doi: 10.1111/nph.70819

オーキシン(インドール-3-酢酸:IAA)の生合成は、アミノ酸のトリプトファンを基質とし、① インドール-3-ピルビン酸を経由する経路、② インドール-3-アセトアルドキシムを経由する経路、③ インドール-3-アセトアミド(IAM)を経由する経路の3つの経路が知られている。最近の研究において、IAMをIAAに変換するアミダーゼ(AMI1)が機能喪失したシロイヌナズナ変異体の芽生えは浸透圧ストレスに対して過敏性を示すことが判明した。しかしながら、IAMのシグナル分子としての役割については明らかとなっていない。スペイン マドリード工科大学(UPM)Pollmannらは、IAMが主根の伸長を抑制する効果に関連する遺伝子座を同定することを目的として、イベリア半島産のシロイヌナズナ166系統を用いてゲノムワイド関連解析(GWAS)を行なった。

芽生えにIAM処理をしたところ、大多数の系統は主根の伸長が抑制されたが、11 %の系統では促進効果が認められた。各系統のIAM処理に対する根の応答についてGWAS解析を実施し、241個の候補遺伝子が特定された。このうち、ABA3(At1g16540:MOCOスルフラーゼ、アブシジン酸生合成の主要な調節因子)とGA2ox2(At1g30040:ジベレリン不活性化酵素)は、短期的なIAM処理に対してそれぞれ発現の増加および減少を示すことが以前に報告されており、ABA3 およびGA2ox2 のマイナー対立遺伝子を持つ系統をそれぞれ16系統および15系統同定した。これらの系統はいずれもIAMに対する感受性が低下していた。これらの系統の地理的分布をみると、GA2ox2 のマイナー対立遺伝子は広範囲に分布していたのに対し、ABA3 のマイナー対立遺伝子はイベリア半島南西部の狭い地域に限定されていた。特に、ABA3 のマイナー対立遺伝子を持つ16系統のうち13系統は、イベリア半島産の系統で以前に報告された遺伝グループC4に属しており、このグループは種子休眠などのアブシジン酸(ABA)シグナル伝達に関する重要な形質によって特徴づけられている。

166系統のABA3 遺伝子およびGA2ox2 遺伝子についてゲノムDNA配列を調査したところ、それぞれ155個(プロモーター領域に95個、コード領域に60個)および63個(プロモーター領域に37個、コード領域に6個)の一塩基多型(SNP)が見られた。ABA3 遺伝子のSNPは全体に分布しており、マイナー対立遺伝子を有する16系統と連鎖不平衡(LD)を示す31のSNPがあった。この対立遺伝子は6つの同義変異と、L102I、A150G、L267Vの3つのミスセンス変異を含んでおり、ABA3_Altと命名した。一方、GA2ox2 遺伝子ではマイナー対立遺伝子とLDを示すSNPは2つのみであり、いずれもアミノ酸配列の変化を示すものではなかった。

ABA3で見られた3つのアミノ酸置換はいずれも保守的な置換であるものの、タンパク質の二次構造の予測結果からは、αヘリックス、βストランド、およびコイル領域の長さや配列にわずかな違いが見られた。Col-0のABA3タンパク質(ABA3_Ref)と高次構造を比較すると、ABA3_Altはわずかにねじれていることが判明し、このような構造的変化はタンパク質の幾何学的構造や立体化学的性質に影響を及ぼす可能性がある。酵素活性や基質親和性の観点から考察すると、L267V変異は、ABA3の活性に不可欠であるNifS-likeドメインK271残基へのピリドキサールリン酸補因子の結合を阻害する可能性が考えられた。また、これらの変異はABA3タンパク質の安定性に影響している可能性が推測された。

IAMを介した生長抑制におけるABA3GA2ox2 の役割を解明するために、これら2つの遺伝子のノックアウト系統を用いて解析を行なった。過去の研究において、ami1 変異体ではGA2ox2 だけでなくGA2ox6 の発現も誘導されていることから、ga2ox1 ga2ox2 ga2ox3 ga2ox4 ga2ox6 五重変異体(ga2ox q)を解析の対象に加えた。さらに、ABAシグナル伝達が欠損したabi5 変異体も解析対象とした。野生型対照のCol-0芽生えは、IAM処理により主根の長さが30 %短縮し、ga2ox2 変異体およびga2ox q 変異体では、それぞれ34 %および35 %の主根伸長の減少しており、Col-0との有意差は認められなかった。対照的に、aba3 変異体では12 %減少、abi5 変異体では8 %の減少となり、IAMが誘導する根の伸長抑制が有意に低かった。これらの結果から、IAMがもたらすABAの生合成およびシグナル伝達に対する影響が根の伸長抑制に寄与しており、ジベレリンの不活性化はIAMに対する根の伸長応答には関与していない可能性が高いと考えられる。

ABAの生合成およびシグナル伝達の変異体がIAM応答において機能不全を示すこと、内性IAMの蓄積が細胞内ABA濃度に影響することが以前から報告されていることを踏まえると、IAM添加はシロイヌナズナの根においてABAの生合成およびそれに続くシグナル伝達を誘導していることが推定される。そこで、ABAシグナル伝達レポーターを導入した系統をIAM処理したところ、ABA処理と同等のABAシグナル伝達反応が根端部において誘導された。しかしながら、IAA処理ではそのような応答は見られなかった。したがって、この応答はIAM特異的であることが示唆される。

トランスクリプトーム解析の結果、IAM処理およびABA処理に対する反応として同定された1020個および1673個の発現変動遺伝子(DEG)のうち、206個のDEG(比較対象となった全遺伝子の8.3%)が共通していることが示された。これらの遺伝子についてGO解析を行なったところ、細胞の浸透圧の調整や植物の生長など、水分欠乏への応答に関連する生物学的プロセスは、IAMとABAが重複して調節している生理機能であることが示された。

以上の結果から、オーキシン前駆体のIAMによって誘導される主根の伸長抑制は、ABA3を介したABA産生増加と密接に関連していることが示唆される。また、IAMがABAシグナル伝達を活性化することが確認され、IAMとABAとの間に新たな相互作用が存在することが明らかになり、植物ホルモン間のクロストークにおいて、IAMがシグナル伝達分子として独立した役割を果たしていることが示唆される。
 

ヤマルリソウ(山瑠璃草)
Omphalodes japonica
syn. Nihon japonicum
ムラサキ目ムラサキ科ルリソウ(Nihon)属

福島県以西の本州、四国、九州の湿り気のある山地や道端、半日陰となる木陰に生育する多年草。日本固有種。根生葉は倒披針形で、縁は多少波状になり、全体に毛が多く、ロゼット状に広がる。茎の基部は倒れて上部が斜上し、茎葉は根生葉よりも小さく、基部が茎を抱き、上部のものほど小さく、まばらに互生する。茎の頂に総状花序をつける。花冠は5裂して平らに開き、基部に白色の付属体が2個ずつ付き、歯車状になる。花色は初め淡桃色で後に瑠璃色に変わる。

属名の「Omphalodes」はギリシャ語の「へそに似た」という意味で、分果の中央が凹んでいることに由来する。ルリソウ属には従来29種ほどが含まれていたが、形態と花粉形態の特徴と分子系統学的解析の結果から日本産ルリソウ属およびOmphalodes scorpioides(東欧から中央欧州にかけて分布)は他のルリソウ属とは近縁ではないことが判明し、それぞれNihon 属およびMemoremea 属として独立した属に分離された [Phytotaxa (2014) 173:241–277. DOI:10.11646/phytotaxa.173.4.1]。

旧来のクロンキスト分類体系では、ムラサキ科(Boraginaceae)はシソ目(Lamiales)に含まれていたが、実際には、この目内の他の科と他のいくつかのキク類(Asterids)の科との間には同程度の類似性しか見られなかった。そのため、2016年のAPG IV分類体系でムラサキ目(Boraginales)が新設され、ムラサキ科はキク類ムラサキ目に属する唯一の科として分類された [Botanical Journal of the Linnean Society (2016) 181:1–20. DOI:10.1111/boj.12385]。

 

 

 

 

2026年4月10日 神奈川県箱根三国山

Foliar dewdroplet–induced redox cascades promote early flowering in Brassicaceae plants

Zheng et al.  PNAS (2026) 123:e2527021123.
doi:10.1073/pnas.2527021123

植物科学では、露などの大気からの水分供給がしばしば見過ごされがちである。最近の物理化学研究により、固体表面での微小液滴の凝縮や水-固体間の接触が活性酸素種(ROS)を自然発生させることが明らかになっている。植物においてROSはシグナル伝達やエピジェネティックな機構を通じて生長・発達を調節することが知られているので、日較差によって葉の表面、特にトライコーム(毛状突起)で生じた露滴が開花などの植物のフェノロジー(生物季節)に影響を与える可能性がある。しかし、葉に付着したこれらの微小液滴内で起こる化学反応や、それらが植物の代謝や生長におよぼす影響についてはほとんど解明されていない。中国 江漢大学Liangらは、シロイヌナズナの葉上の露滴の化学的性質と、花成誘導における役割について検討した。

2021年および2022年の3月から5月にかけて、オランダのユトレヒト地方に自生するシロイヌナズナの開花および気象データを収集・分析した。露の発生を「地表温度が露点以下に低下して露の凝結が生じていることを示す期間」と定義して解析を行なったところ、開花期の具体的な時期は年によって異なっていたが、記録された開花事象の50.4 %が露の凝結期間の1週間以内に発生していることが判った。露と花成誘導との時間的連動は、露がこれまで十分に認識されていなかった花成の環境シグナルとして機能的な役割を果たしている可能性を示唆している。

露は主にトライコームの表面で形成されることから、自然の露を再現するために、トライコームに微小液滴を手作業で配置したところ、トライコーム上の微小液滴内でROSが自然発生し、微小液滴が蒸発するとROSも消失することが判った。環境シミュレーションチャンバーに入れた葉の表面で発生した凝縮水を回収してROSの種類を間接的に特定したところ、ヒドロキシルラジカル(•OH)であることが示された。さらに、葉表面の微小液滴において、植物の重要なシグナル伝達分子である活性窒素種(RNS)の一酸化窒素(NO)の生成が観察された。このNOはトライコーム表面に存在するROSとアミン、アミド、または亜硝酸塩基との反応によって生成された可能性がある。これらの知見は、大気中の水分の凝縮がNOの生成を含む葉表面での一連の酸化還元反応を引き起こし、植物のシグナル伝達に潜在的な影響をおよぼす可能性を示唆している。

露にさらされた葉の気孔細胞のNOは、露の付着していない葉よりも高くなっており、NOは拡散によって気孔を通して葉内に侵入していると推測される。また、露にさらされた芽生えではNO含量が有意に増加していたが、一酸化窒素合成酵素(NOS)の活性は露処理群と未処理群の間で差異は見られなかった。よって、葉表面の微小液滴が細胞内のNO量を化学的に上昇させていることが示唆される。

NO関連のシグナル伝達経路は、生理活性を有する様々なタンパク質のS-ニトロシル化に関与しており、その中には開花時期の調節に関与しているヒストン脱アセチル化酵素HDA19も含まれている。HDA19は、細胞質と核内において様々なタンパク質と複合体を形成しており、露にさらされることで複合体の分子量が増加した。解析の結果、葉が露にさらされるとHDA19は核内でグルタレドキシンGRXS17と複合体を形成することが確認された。GRXS17もNOシグナルによるS-ニトロシル化の標的となっており、HDA19、GRXS17共に露にさらされることでS-ニトロシル化が促進された。さらに、GRXS17はHDA19よりも高いNO結合率を示し、GRXS17がNOをHDA19へ転送するトランスニトロシル化メディエーターとして機能していると思われる。これらの結果から、細胞外微小液滴によって生成されたNOはGRXS17を介したS-ニトロシル化を通じてヒストン脱アセチル化酵素の活性を調節し、それによって植物の生長を制御していることが示唆される。

露にさらされた葉では、HDA19のゲノムへの結合が強まり、花成シグナルの中心的な統合因子であるFLOWERING LOCUS TFT)の発現量が変化していた。このことから、NO-HDA19経路が花成を制御していることが推測される。遺伝子発現解析から、露によって発現抑制される29の遺伝子が同定され、その中でも、4つの遺伝子は露条件下でHDA19の結合が増加し、プロモーター領域のH3K14ac修飾が減少していることが確認された。これらの遺伝子の中にはアブシジン酸(ABA)の生合成および/またはシグナル伝達に関与しているAT2G27150AAO3)とAT1G52340ABA2)が含まれていた。そこで、露と内性ABA濃度との関係を調査したところ、微小液滴処理をした植物ではABA濃度が徐々に低下していくことが判った。また、微小液滴処理をした植物は1週間以内に抽苔および開花を示したのに対し、対照植物は栄養成長期にとどまっていた。この経路におけるS-ニトロシル化の役割を直接検証するため、酸化還元修飾が起こらないHDA19c137a点変異タンパク質を用いて解析を行なった。その結果、HDA19c137aを導入したhda19 変異体では露によるABA含量の有意な減少は見られず、開花時期の変化も認められなかった。ABA合成の低下はジベレリンの蓄積とシグナル伝達を促進し、その結果、早期花成を引き起こす可能性がある。また、HDA19が花成を負に制御している因子を抑制しているとも考えられる。いずれにせよ、この結果は、葉上の微小な露滴内で起こる細胞外での化学的な変化がシロイヌナズナ細胞内での生化学的な変化や開花時期に影響を及ぼし得ることを示す説得力のある証拠となっている。

微小液滴内で起こる物理化学的反応がおよぼす影響をより深く理解するために、分析対象をアブラナ科全体に拡大して解析を行なった。1990年から2023年の間に記録された、地球規模生物多様性情報機構(GBIF)データベースの位置情報付き人的観測データ138,580件を基に、81属478種にわたる開花記録12,692,736件を解析した。その結果、露点温度はアブラナ科全体において開花頻度の最も有意な正の予測因子であることが明らかになった。露点温度と(大気の混濁の程度を表わす)視程との相互作用も正の相関を示しており、露滴に作用する日光が開花調節に関与する葉の酸化還元反応連鎖に寄与している可能性が示唆される。対照的に、降水量、平均海面気圧、大気視程などのいくつかの変数は開花頻度と有意な負の相関を示した。これらの知見は、露の形成がアブラナ科植物における開花を地球規模で促進要因として作用しているという仮説を支持するものである。これらの結果は、葉表面の微小な露滴が開花時期を調節する補助的な因子として機能することを示しており、、植物のフェノロジーや生殖戦略を地球規模の気候変動という観点から検討するにあたって、降雨以外の露などの水分供給源の変動を考慮することの重要性を強く示唆している。

以上の結果から、葉表面での露の凝結は、活性酸素種(ROS)や一酸化窒素(NO)を伴う酸化還元連鎖反応を引き起こし、細胞内シグナル伝達を調節して遺伝子発現を変化させ、花成を促進することが示された。この機構は、従来の光周期や温度によるシグナルと並行して機能し、植物が環境シグナルをどのように統合しているかについての理解に新たな側面を加えている。これらの知見は、水と植物の相互作用の生態学的意義を再定義するとともに、微視的な物理化学的過程が巨視的な生物学的結果にいかに影響を与えるかを浮き彫りにしている。
 

ナガバノスミレサシン(長葉の菫細辛)
Viola bissetii
キントラノオ目スミレ科スミレ属

本州の福島県以西、四国、九州の太平洋側の雪の少ない地方に分布し、山地や丘陵の夏緑林の林床や林縁のやや湿り気のある場所に生育する。地下茎が横にはい、節が多く、密に接近する。地上茎はない。長い葉柄のある少数の根葉が束生する。葉身は厚く、長三角形卵形で先がとがり、基部は心臓形、縁には低い鈍鋸歯がある。完全に展開する前の葉間から花柄を伸ばし花を横向きに開く。花は淡紫色で濃淡の変化が大きく、花弁5個に紫色の条があり、唇弁の条はとくに著しい。唇弁の距は太く短く、袋状で左右から押しつぶされている。同じスミレサイシン節に属するスミレサイシン(菫細辛、 Viola vaginata)は主に日本海側に分布しており、両種は日本の中で棲み分けている。

 

 

 

 

 


2026年4月10日 神奈川県箱根三国山

ヒメウズ(姫烏頭)
Semiaquilegia adoxoides
キンポウゲ目キンポウゲ科ヒメウズ属

関東地方以西の本州、四国、九州の暖帯域の路傍や畑の畦、石垣の間、林縁などに生育する小型の多年生草本。やや湿った日陰、木漏れ日程度のところに多い。地下に塊茎があり、先端から根出葉と花茎を出す。根出葉は叢生し、長い柄があり、3出複葉で、小葉には短柄があり、くさび形で2-3に裂け、よく育つとそれぞれが更に裂ける。葉裏は紫色を帯びている。花茎は途中に茎葉をつける。茎葉は短柄があるか無柄で、基本的には根出葉に似ている。花茎の頂にオダマキのような小花を付け、ややうつむいて咲く。花弁に見えるのは萼片で、白くて時にやや赤みを差し楕円形で5枚、下向きに抱えるように開く。その内側にやや黄色みを帯びた筒状の5枚の花弁がある。花の基部には短いながら距があって萼片の間から上に出る。雄しべは9~15個、雌しべは離生して2~5個、棒状。

属名の「Semiaquilegia」は「semi (半分)」+「aquilegia (オダマキ属)」を意味し、種小名の「adoxoides」は、ギリシャ語で「目立たない」ことを意味する「adoxos」に由来する。ヒメウズ属は、1902年に牧野富太郎によって設立が提唱された。牧野は、この属の特徴を、オダマキ属の外観に近いが、蜜腺の突起がないこと、雄しべの数が15本未満であること、そして扁平な仮雄しべのように見える内側の雄しべを持つことといったいくつかの点で異なるものと評価した。多くの研究者は、この属はSemiaquilegia adoxoides 1種のみとしているが、キュー王立植物園の「Plants of the World Online」では、ヒメウズ属に4種を認めている。 和名の「ヒメウズ」はトリカブト(烏頭)に似ているが小形であることを意味している。葉、果実、塊茎の様子はトリカブトに似ているとのことだが、花からはトリカブトは連想されない。キンポウゲ科なので、植物全体が有毒成分を含んでいる。

 

 

 

 


2026年4月5日 神奈川県横須賀市衣笠山公園

1-Aminocyclopropane-1-carboxylic acid oxidase determines the fate of ethylene biosynthesis in a tissue-specific way

Houben et al.  Plant Physiology (2026) 200:kiag025.
doi:10.1093/plphys/kiag025

植物の気体状ホルモンであるエチレンは、1-aminocyclopropane-1-carboxylic acid(ACC)からACCオキシダーゼ(ACO)によって生合成される。シロイヌナズナは5つのACO 遺伝子をコードしているが、それらの遺伝的、分子的、生化学的特性や生物学的意義については不明な点が残されている。ベルギー ルーヴェン・カトリック大学Van de Poelらは、エチレン生合成、植物の発達、生物的/非生物的ストレス耐性の調節におけるACO 遺伝子ファミリーの役割を解明するために、aco 変異体作出して表現型を観察した。

aco 単独変異体はACC添加によって野生型植物(Col-0)と同程度のエチレン生成量を示し、aco 二重変異体ではエチレン量はわずかに減少したが、必ずしも有意な差とはならなかった。aco 四重変異体はエチレンの生成量が減少したが、aco 五重変異体(ET-free)では検出可能なエチレンは生成されなかった。ET-free系統ではACCおよびその主要な縮合体であるmalonyl-ACC(MACC)が蓄積していた。一方、低次aco 変異体ではこのような現象は見られなかった。これらの結果ら、ACOファミリー内には冗長性があることが示唆される。

すべてのACO酵素は、親和性の違いはあるものの、ACCからエチレンを生成した。ACO1は最も高い酵素活性(Vmax 値)を示したが、ACCに対する親和性(Km 値)はかなり低かった。ACO1と同様に、ACO3とACO4もKm 値は低かったが、Vmax 値は3~5倍低かった。興味深いことに、ACO2は最も高いKm 値を示したが、Vmax 値は最も低く、一方、ACO5はKm 値が最も低く、Vmax 値も低かった。これらの結果から、ACO2は、ACC濃度が低い組織においてエチレンの生成効率が高い一方、ACO1はACCが十分に存在する際に高濃度のエチレンを生成するために利用されると考えられる。しかし、Vmax 値の差を考慮すると、ACCの利用可能量が低い場合でも、ACO1の方がACO2よりも多くのエチレンを生成する可能性が高いと考えられる。

転写レポーター(GUS-GFP)を用いてACO 遺伝子の発現特異性を調査した。ACO1 は、明所育成芽生えでは主に根とシュートの接合部、明所および暗所で育成した芽生えの両方で根端部で発現しており、根および茎頂の分裂組織に近い領域にも強く発現していた。ACO2 の発現は弱く、明所育成芽生えの葉や根の篩部に限定されていた。ACO3 の発現も主に維管束組織に限定されているが、明所育成芽生えの胚軸や、暗所育成芽生えの根の維管束組織において弱く発現していた。ACO4 の発現は、ACO1 と同様に、根の先端、根とシュートの接合部、分裂組織付近に限定されていた。ACO5 は芽生えの根や暗所育成芽生えの胚軸において広範囲に発現していた。成熟個体での発現を見ると、ACO1ACO2 は茎頂分裂組織や若い葉の中肋付近で強い発現が観察された。また、ACO2 は維管束組織でも発現していた。ACO3ACO4 は全体的に発現が弱かった。ACO5 は若い葉や成熟した葉の基部付近で強く発現していたが、維管束組織や中肋では発現していなかった。花器官での発現について短時間のGUS染色(1時間)で解析したところ、ACO1 はどの花器官でも発現していなかった。ACO2 の発現は雄ずい花糸の維管束組織に限られ、ACO3 は頂生花の柱頭でのみ発現していた。ACO4 は柱頭および発達中の蒴果を含むすべての花器官の基部でより強く発現していた。ACO5 の発現は雄ずい花糸の上部に特異的で、維管束組織で最も強く発現していた。しかし、一晩かけて行なったGUS染色では、多くの花器官で強い発現が認められた。ACO2ACO3ACO4ACO5 は花器官においてより広範囲に発現していたのに対し、ACO1 の発現は発達中の長角果の基部に限定されていた。ACOの細胞内局在を見たところ、すべてのACOは細胞質に局在し、根においてACO1、4、5が核に局在していることが確認された。

すべてのACO 遺伝子のプロモーター領域にエチレンシグナル伝達における主要な転写因子であるEIN3が結合する部位が存在することから、ACO 遺伝子の発現がエチレンやACCによって制御されているかを調査した。その結果、エチレンやACCはわずかにACO の発現を変化させるが、それは生長条件や個々の遺伝子に大きく依存していることが判った。暗所育成芽生えの根端部では、ACCまたはエチレン処理によってACO1 の発現増加が認められたが、他のACO はそれほど反応しなかった。明所育成芽生えの根では、ACO5 のみがACCまたはエチレン処理後にコルメラ領域での発現がわずかに増加した。成熟個体では発現の変化はそれほど明確ではなかったが、エチレン処理後にACO2ACO5 の発現がわずかに増加した。花序では、エチレン処理によるACO1ACO4 の発現誘導が観察されたが、これは発達中の長角果の基部に限定されていた。RT-qPCRによる解析を行なったところ、明所育成芽生えでは、エチレン処理後にACO 発現量が低下したが、ACO3 については有意な変化は見られなかった。暗所育成芽生えでは、発現に有意な変化は認められなかった。

暗所育成芽生えの発達におけるACOの役割を解析するために、各aco 変異体の三重反応(エチレン処理による① 胚軸の短縮・肥大、② 根の伸長抑制、③ 茎頂フックの強調)を比較した。ACC処理なしでは、ET-free系統はCol-0よりも胚軸が長くなるが、低次aco 変異体で有意な差を示すものはごくわずかであった。低濃度ACC(0.2 μM)処理すると、一部の低次aco 変異体の胚軸長はエチレン生成量と強い相関を示した。根の長さに関しては、aco3,5 変異体、aco4,5 変異体、aco1,3,4 変異体はCol-0よりも有意に長く、ET-free系統はACC感受性を示さなかった。これらの結果から、暗所育成芽生えの胚軸および根の発達におけるACO 遺伝子の高い冗長性が示唆される。

明所育成芽生えの生長を比較したところ、ACC処理なしの場合、多くの単独変異体および高次変異体の胚軸はCol-0よりも長かったが、根の長さについては有意な変化はほとんど見られなかった。ACC処理をしたところ、aco1,4 変異体を除いたaco 変異体ではACCによる胚軸伸長は観察されなかった。これは、他のaco 変異体の胚軸ではエチレンの生成量が少ないことを示唆している。根については、Col-0とaco 単独変異体および二重変異体との間に顕著な違いは認められず、ACC処理によって伸長が阻害された。ET-free系統の根は低濃度ACC(0.5 μM)に対して感受性を示さず、根の伸長抑制が見られなかったことから、エチレンを産生できないことが示唆された。しかし、高濃度ACC (5 μM) に対しては感受性を示し、Col-0と同様に根が短くなった。このことから、ACC自体が高濃度で投与された場合にエチレンとは独立して根の伸長を阻害する可能性がある。

成熟個体では、一部の二重変異体(aco2,3aco2,5aco3,4)はCol-0に比べてロゼットがわずかに大きかった。しかし、ET-free系統のロゼットは、一貫して大きいとは限らなかった。また、花序および花の発達についても解析を行ったが、ごくわずかな変化しか認められなかった。ET-free系統はCol-0と比較して1~2日早く開花した。一次花序の長さや分枝数は遺伝子型間で大きな変化は見られなかった。aco 変異体は正常な長角果を形成し、結実数も正常であった。これらを総合すると、エチレンの生合成が減少または欠如しても、シロイヌナズナの栄養生長および生殖生長に劇的な影響は及ぼさないと結論づけられる。

エチレンによって誘導される老化や離層形成について解析したところ、ET-free系統はCol-0と比較して花弁の離脱が遅延しており、このような表現型はエチレン非感受性変異体(etr1-1ein2-5)においても観察されている。一方、エチレン非感受性変異体で見られる葉の老化遅延、発芽や葉の展開の遅延についてはET-free系統では見られなかった。

最後に、aco 変異体における生物的/非生物的ストレス耐性を調査した。ET-free系統は、ein2-5 変異体と同様に、Col-0と比較して葉への糸状菌(Botrytis cinerea)感染の影響をより強く受けた。Col-0は砂中から発芽する際に機械的ストレスに応答してエチレンを生成して砂層の貫通を容易にしているが、ET-free系統は、ein2-5 変異体と同様に、砂層での発芽率が低下していた。しかし、aco1,2,3,4 変異体の発芽率はCol-0と有意な差が見られず、ACOファミリー内の冗長性が重要であることが示唆される。塩ストレスについては、ET-free系統はCol-0と比較して大きな差は見られなかったが、ein2-5 変異体は塩分ストレスの影響を受けた。栄養欠乏ストレスについては、ET-free系統がCol-0に比べて劣った成績を示し、これはein2-5 変異体と同様の傾向であった。アルミニウムやカドミウムなどの重金属ストレスについては、ET-free系統は軽度のストレス下においてCol-0に比べて良好な成績を示し、これもein2-5 変異体と同様の傾向であった。

以上の結果から、シロイヌナズナの5つのACOは、遺伝子発現が組織特異的に制御がされており、酵素の動力学的特性も異なっていることから、組織特異的なエチレン生合成を促進する上で重要な役割を果たしていると考えられる。したがって、ACOはエチレンシグナル伝達が関連する多くの発生過程やストレス応答の調節因子である可能性が高いと結論づけられる。
 

シキミ(樒、梻)
Illicium anisatum
アウストロバイレヤ目(シキミ目)マツブサ科シキミ属
別名:シキビ (櫁、嬥)、コウノキ (香木)、コウシバ (香柴)、コウノハナ、タコウボク (多香木)、マッコウ、マッコウギ、マッコウノキ、マッコー、マッコーギ、ヤマグサ (山草)、ハバナ (葉花)、ハカバナ、ブツゼンソウ (仏前草)、ホトケバナ (仏花)、ハナシバ (花柴)、ハナノキ (花木、花の木)、ハナサカキ (花榊)、ハナ (花、華、英)

常緑の小高木で東北地方南部以西〜沖縄の山地に生える。幹は黒っぽい灰褐色。葉は倒卵状長楕円形から倒披針形、全縁で葉質は厚く平滑、互生するが、枝先に集まってつく。短い葉柄がある。ソメイヨシノの開花よりも早い春彼岸のころに葉腋から短い花柄を出して黄緑色を帯びた白色の花が咲き、ときに枝先にまとまってつく。花被片はらせん状につき、12~28枚、萼片と花弁の明瞭な分化は見られないが、外側のものはやや幅広くて短い楕円形、内側のものは細長い線状長楕円形で多少波状によじれる。雄しべは15~28個がらせん状につき、長楕円形、葯と花糸はほぼ長さが同じ。雌しべは離生心皮からなり、7~10個が1輪につく。秋に扁平で星型の袋果をつける。

属名の「Illicium」は、ラテン語の「illicere」(「誘惑する」の意)に由来する。種小名の「anisatum」は香辛料となるアニスの香りに似ていることを意味する。和名「シキミ」の語源については、四季を通して美しいことから「四季美」、四季を通して芽をつけることから「四季芽」、実の形から「敷き実」、多数の種子をつけることから「重く実」(しげくみ)、種子の香りが強いことから「臭しき実」(くしきみ)、種子が有毒であることから「悪しき実」(あしきみ)といった説がある

シキミは毒性と独特の香りを持つため、邪気を払う力があると考えられおり、仏事や神事に用いられ、しばしば寺院や墓地に植栽されている。

葉や茎、根、花、果実、種子など全体が有毒で、なかでも果実、種子は毒性が強い。有毒成分は神経毒であるアニサチンやネオアニサチン。アニサチンは神経伝達物質であるGABAに拮抗作用を示す神経毒であり、植物毒としては最強のものの1つである。

シキミは精油を含み、葉や樹皮には芳香がある。主な香気成分は1,8-シネオール、サフロール、リナロール、オイゲノールなどで、サフロールがシキミ特有の強い香りの主成分となっている。

1885年にオランダ人化学者のヨハン・フレデリック・エイクマン(Johan Fredrik Eykman)がシキミ果実から環状ヒドロキシ酸を単離し、「シキミ酸(shikimic acid)」と命名した。エイクマンは1877年に日本の内務省衛生局の招きに応じて来日、長崎司薬場、東京司薬場を経て1881年に東京大学医学部製薬学科の教師となり製薬学、化学、薬剤学などを担当、日本産の薬用植物や有毒植物の成分研究に有機化学と栄養分析の手法を導入して日本の薬学における新分野の基礎を築いた。ほとんどの植物はシキミ酸を中間代謝産物として芳香族アミノ酸(チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン)を生合成しており、この生合成経路はシキミ酸経路とよばれている。シキミ酸経路は植物における重要な二次代謝経路であり、アルカロイド、フェニルプロパノイド、フラボノイドの生合成に関わっている。

 

 

 



2026年3月29日 神奈川県横須賀市汐入町 長光寺

Light-quality-directed plant growth strategy controlled by SnRK2s

Qin et al.  Developmental Cell (2026) 61:292-307.
doi:10.1016/j.devcel.2025.10.004

Sucrose non-fermenting 1 (SNF1)-related protein kinase 2(SnRK2)は、乾燥、低温、高塩濃度などの複数の非生物的ストレスに対する植物の応答を調節するSer/Thrタンパク質キナーゼである。シロイヌナズナでは10種類のSnRK2(SnRK2.1/SRK2A~SnRK2.10/SRK2J)が同定されており、これらはさらに3つのサブクラスに分類されている。このうちサブクラスⅢのSnRK2(SnRK2.2/SRK2D、SnRK2.3/SRK2I、SnRK2.6/SRK2E/OPEN STOMATA1)は、アブシジン酸(ABA)シグナル伝達経路の制御において重要な役割を果たしていることが知られている。最近の研究により、SnRK2.2/3/6は至適条件下では生長を促進するが、ストレス条件下では生長を阻害することが示された。そこで中国農業大学Liらは、遠赤色(FR)光のような植物が日陰ストレスと感じる条件下においてSnRK2.2/3/6が生長調節に関与しているかを検討した。

解析の結果、暗所で育成したsnrk2.2/3/6 三重変異体芽生えの胚軸の長さは野生型植物(Col-0)との間で有意な差は見られなかったが、赤色(R)、青色(B)、および白色(W)の光条件下ではCol-0より胚軸が短くなり、FR光条件下ではCol-0より長い胚軸を発達させた。興味深いことに、snrk2.2/3/6 変異体芽生えは、強い日陰条件(R/FR比:0.2)では長い胚軸を示したが、中程度の日陰条件(R/FR比:0.8)では短い胚軸となった。したがって、SnRK2.2/3/6は、FR光が強い条件下では胚軸伸長を阻害するが、FR光が全くないあるいは弱い条件下では胚軸伸長を促進すると考えられる。さらに、snrk2.2/3/6 変異体芽生えは、FR光下ではアントシアニン蓄積量が減少し、R光下ではクロロフィル蓄積量が増加した。これらの結果は、snrk2.2/3/6 変異体芽生えはR光下では光形態形成が促進されるが、FR光下では阻害されることを示しており、SnRK2.2/3/6はFR光下とR光下において光形態形成に対して相反する調節作用を及ぼすことが示唆される。

胚軸伸長の制御において、bZIP型転写因子のELONGATED HYPOCOTYL5(HY5)とbHLH型転写因子のPHYTOCHROME-INTERACTING FACTOR4(PIF4)は相反する役割を果たす主要な調節因子となっている。そこで、SnRK2.2/3/6がHY5もしくはPIF4の蓄積に影響しているかを見たところ、試験したすべての光条件下において、snrk2.2/3/6 変異体芽生えでは、Col-0またはSnRK2.6 過剰発現系統と比較して、HY5とPIF4の蓄積量が減少していることが判った。snrk2.2/3/6 変異体のHY5 転写産物量は光条件によって変化しないこと、snrk2.2/3/6 変異体のPIF4タンパク質はFR光下でもR光下でもCol-0よりも速く分解されることから、SnRK2.2/3/6はFR光およびR光下においてHY5タンパク質とPIF4タンパク質の安定性を促進していると考えられる。また、各種解析から、SnRK2.2/3/6とHY5/PIF4は直接相互作用をしていることが確認された。

hy5-215 snrk2.2/3/6 四重変異体の芽生えは、FR光およびR光のいずれにおいても、hy5-215 変異体およびsnrk2.2/3/6 変異体の芽生えと比較して中程度の胚軸長を示した。snrk2.2/3/6 変異体でHY5 を過剰発現させたところ、FR光条件下でのsnrk2.2/3/6 変異体の長い胚軸の表現型は完全に回復したが、R光条件下での短い胚軸の表現型は回復されなかった。これらの結果から、snrk2.2/3/6 変異体芽生えでのHY5蓄積量の低下はFR光下での胚軸伸長阻害の原因であることが示唆される。pif4 snrk2.2/3/6 四重変異体芽生えは、R光下においてpif4 変異体と同等の胚軸長を示した。このことは、R光下での胚軸伸長を調節する上で、PIF4SnRK2.2/3/6 よりも上位であることが示唆される。しかし、FR光下ではpif4 snrk2.2/3/6 変異体芽生えはpif4 変異体と snrk2.2/3/6 変異体の中間の胚軸長を示した。また、snrk2.2/3/6 変異体でPIF4 を過剰発現させることでR光およびFR光のいずれにおいてもCol-0に比べて胚軸が長くなった。これらの結果から、SnRK2.2/3/6はHY5およびPIF4のタンパク質量を調節することで芽生えの光形態形成を制御していることが示唆される。

hy5 変異体芽生えはFR光下でもR光下でも胚軸がCol-0よりも長くなるが、hy5 pif4 二重変異体芽生えは、FR光下では長い胚軸を示したが、R光下での胚軸の長さはCol-0と同等であった。これは、hy5 変異による胚軸伸長効果が、R光下ではpif4 変異による胚軸短縮効果によって相殺されていることを示している。これらの結果から、HY5とPIFが同時に変異した場合、FR光下ではHY5の影響がより顕著であるため胚軸が長くなる一方、R光下ではPIFの役割がより支配的であるため、hy5 pif4 変異体の胚軸は短くなったと考えられる。したがって、HY5とPIF4の機能的な重要性の違いが、FR光とR光におけるsnrk2.2/3/6 変異体の相反する表現型を説明している可能性がある。

SnRK2はABAシグナル伝達に関与するタンパク質キナーゼであることから、snrk2.2/3/6 変異体芽生えの胚軸表現型はABAシグナル伝達の異常によって引き起こされている可能性がある。しかしながら、暗所やR、FR、Bの各光条件下においてaba2-21 ABA欠損変異体とCol-0の芽生えに有意な差異は認められなかった。ABA処理はSnRK2のキナーゼ活性を活性化するが、光シグナルではそのような活性化は見られなかった。また、HY5、PIF4はSnRK2によってリン酸化されることはなく、ABA処理によってHY5、PIF4のタンパク質量が変化することはなかった。SnRK2.6は2つのSer残基(Ser171、Ser175)がリン酸化されることで活性化することが示されている。そこで、このSer残基をAla残基に置換したSnRK2.6S171A/S175Asnrk2.2/3/6 変異体で発現させたところ、FR光、R光条件下においてもsnrk2.2/3/6 変異体の胚軸表現型が回復した。これらの結果から、SnRK2が光形態形成の調節において果たす役割は、ABAによって誘導されるキナーゼ活性とは無関係であると考えられる。

FR光、R光下におけるsnrk2.2/3/6 変異体でのHY5タンパク質の減少はプロテアソーム阻害剤MG132を添加することで抑制されることから、SnRK2.2/3/6はHY5タンパク質の蓄積を26Sプロテアソームを介した分解を阻害することで促進していると考えられる。CONSTITUTIVELY PHOTOMORPHOGENIC1(COP1)はHY5を標的とするE3ユビキチンリガーゼとして機能している。プロトプラストを用いた共発現解析から、CPO1はHY5蓄積量を減少させるが、SnRK2.6を共発現させることでCOP1によるHY5の分解が阻害されることが確認された。この阻害はキナーゼ活性が失われた変異型SnRK2.6を共発現させても見られた。酵母three-hybrid(Y3H)アッセイから、SnRK2.6はCOP1とHY5の相互作用を阻害することが判明し、このことがSnRK2によるHY5の安定化をもたらしていると考えられる。COP1は暗所においてPIFの26Sプロテアソームによる分解を阻害して安定化させることが知られている。解析の結果、COP1によるPIFタンパク質の蓄積促進は暗所だけでなくFR光やR光下でも観察された。また、SnRK2.6はCOP1とPIF4の相互作用を促進することが判った。

以上の結果から、SnRK2は光条件に応答した生長制御に対して二重の作用を有しており、極度にFRが富む光条件下では胚軸伸長を抑制するが、FR光が全くない、あるいは少ない光条件下では胚軸伸長を促進することが判明した。SnRK2は光条件下において胚軸伸長を拮抗的に制御しているHY5とPIF4の両タンパク質と相互作用することで、COP1とHY5との相互作用を阻害、COP1とPIF4との相互作用を促進してHY5とPIF4の蓄積を促進しており、FR光下ではHY5がPIFよりも支配的な役割を果たす一方、R光下ではPIFがHY5よりも顕著な効果を発揮ため、異なる光条件下でSnRK2の二重効果が起こると考えられる。

The brassinosteroid receptor BRL3 triggers acclimation to elevated temperature from phloem companion cells in Arabidopsis

Rico-Medina et al.  Plant Physiology (2026) 200:kiaf548.
doi:10.1093/plphys/kiaf548

膜受容体キナーゼのBRASSINOSTEROID-INSENSITIVE 1(BRI1)は、植物の生長・発達を促進するブラシノステロイド(BR)の受容体として機能している。シロイヌナズナのゲノムにはBRI1 の他に2つのBRI1様受容体遺伝子BRI1-LIKE 1BRL1)とBRL3 がコードされており、これらは主に維管束で発現している。BRLの機能的意義については、変異体の表現型が野生型植物と同等であることやBRI1とBRLの機能には冗長性があることが報告されている程度で、これまで殆ど注目されていなかった。スペイン農業ゲノミクス研究センター(CRAG)Caño-Delgadoらは、以前の研究において、BRL3 を過剰発現させたシロイヌナズナはプロリンや糖といった浸透圧調節物質の蓄積を促進することで乾燥ストレス耐性を示すことを明らかにした。そこで、BRL3のストレス特異的な役割について詳細な解析を行なった。

適温条件下(22 ℃)で育成したシロイヌナズナbrl3 変異体芽生えに野生型植物(Col-0)と差異は見られなかったが、高温条件下(28 ℃)で育成したところCol-0よりも胚軸が短くなり、これは細胞の長さが減少したことに由来していた。一方、BRL3 過剰発現形質転換体(35Spro:BRL3–GFP)の胚軸は28 °Cにおいて著しい伸長を示した。成熟したbrl3 変異体では、葉柄の伸長や開花時期といった熱形態形成(thermomorphogenesis)の他の特徴的な表現型も乱れていることが確認された。bri1 変異体やBR合成阻害剤BRZ220の処理をしたCol-0では温度に関係なく胚軸が短くなることから、brl3 変異体でのBRI1BRL1 の発現を見たが、Col-0と同等であった。このことから、BRL3を介したBRシグナル伝達が高温下での生長に影響していることが示唆される。BRシグナル伝達経路の因子であるBRI1-EMS-SUPPRESSOR 1(BES1)/BRASSINAZOLE RESISTANT1(BZR1)およびBRASSINOSTEROID-INSENSITIVE 2(BIN2)は、高温下においてPHYTOCHROME INTERACTING FACTOR 4(PIF4)が介する温度応答経路と相互作用し、生長関連遺伝子の発現を制御している。高温下でのbrl3 変異体の胚軸表現型は、BIN2阻害剤であるビキニンの添加や機能獲得型bes1-d 変異の導入によって回復すること、brl3 変異体では高温下でのBES1の脱リン酸化作用が弱まっていることから、BRL3は高温下での生長において標準的なBRI1の下流の因子を利用して熱形態形成を制御していることが示唆される。

熱形態形成におけるBRL3の役割を解析するためにRNA-seq解析を行なったところ、brl3 変異体では非生物ストレス応答の関連遺伝子が高温下で活性化されていないことが判った。そのような遺伝子には、TEMPERATURE-INDUCED LIPOCALINTIL)や HEAT-SHOCK TRANSCRIPTION FACTOR A7AHSFA7A)、MULTIPROTEIN BRIDGING FACTOR 1CMBF1C)といった熱耐性を促進することが知られている遺伝子、GALACTINOL SYNTHASE 1GolS1)のような浸透圧調節物質の生合成を促進することが知られている遺伝子が含まれていた。BES1/BZR1PIF4AUXIN-RESPONSE FACTOR 6ARF6)、およびHOMOLOG OF BEE2 INTERACTING WITH IBH 1HBI1)などの中核的な熱形態形成関連遺伝子も高温下におけるBRL3応答遺伝子として同定された。これらの結果から、BRL3が高温応答遺伝子の適切な活性化に必要であり、BRL3経路が高温ストレスに対する生理的および分子的適応において中心的な役割を果たしていることが示唆される。

BRL3 はシロイヌナズナ根の幹細胞領域や植物体の篩部維管束組織で発現している。そこで、様々な細胞特異的プロモーター制御下でBRL3–GFPbrl3 変異体において発現させることでBRL3シグナルの細胞特異的な寄与を調査した。その結果、SUC2 プロモーター制御下でBRL3 をコンパニオン細胞特異的に発現させた場合にbrl3 変異体の熱形態形成異常が部分的に回復することが判った。

篩部コンパニオン細胞でのBRL3による転写変化がもたらす温度適応を解明するため、適温および高温条件下で生育させたSUC2pro:BRL3–GFP;brl3 系統とbrl3 変異体の地上部のトランスクリプトームを比較した。その結果、コンパニオン細胞でのBRL3発現によって温度応答性が強まった遺伝子には光呼吸に関連するものが多く見られることが判った。このことは、コンパニオン細胞でBRL3 を発現させることで光呼吸機構の抑制が解除されて高温下でのエネルギー利用効率が向上していることを示しており、これが熱形態 形成応答の向上の理由となっている可能性がある。BRL3による制御を受けている遺伝子にはBR関連遺伝子も含まれており、BRL3はBR応答を制御していることが示唆される。22 °CでBRL3によって活性化された遺伝子は細胞間コミュニケーションや刺激応答に関連するGOカテゴリーに富んでいるのに対し、BRL3によって抑制された遺伝子はストレス応答に関するカテゴリーのものが見られた。28 °Cでは、BRL3によって活性化された遺伝子は酸素応答に関連するカテゴリーが富み、抑制された遺伝子は防御、免疫、傷害応答に関連するカテゴリーが富んでいた。これらの結果から、篩部からのBRL3シグナルは、エネルギー状態やホルモン応答を調節し、温度に応答して生長のバランスを保つ上で生理学的に重要な役割を果たしていることが示唆される。

トランスクリプトーム解析から、BRL3が非生物的ストレス応答に関連する多数の遺伝子に影響を及ぼすことが示されたことから、brl3 変異体およびSUC2pro:BRL3–GFP;brl3 系統が各種ストレスにどのように反応するかを検証した。その結果、brl3 変異体は熱ショック(42 °C、150分)を受けた際の生存率がCol-0と比較して大幅に低く、brl3 変異体の根は浸透圧ストレスに対する耐性が低下していることが判った。そして、これらの表現型はSUC2pro:BRL3–GFP を発現させることでCol-0と同程度、あるいは35Spro:BRL3–GFP 系統と同程度にまで回復した。これらの結果から、篩部コンパニオン細胞でのBRL3シグナルは、植物の最適な生長を促進して生存能力を高める上で極めて重要な役割を果たしていると考えられる。

以上の結果から、篩部コンパニオン細胞を含む特定の細胞群で発現し維管束組織に豊富に存在するBR受容体のBRL3は、一般的な生長促進ではなく、植物が環境ストレス、特に高温に適応する能力において重要な役割を果たしていると考えられる。したがって、BRL3は基本的な生長を制御するのではなく、非生物ストレス応答の調整に特化した特異的なBR受容体であることが示唆される。