高校生の頃、電車で通学していた。

僕の街から市内の駅へ、20分ほど。

車内は、小・中と一緒だった友達ばかり。

本数が少ないから、

朝は特に幼なじみの知り合いばかりだった。

 

「ねえ、オフコースって知ってる?」

ある朝、小・中と同じクラスだった

のぶくんが声をかけてきた。

のぶくんは僕と違って優秀で、

ここらあたりでは

一番の進学校に通っていた。

「もちろん、知っているよ」

オフコースだから、もちろん、

と言ったわけでは無くて、

僕は5つ上の兄の影響で、

オフコースをよく聴いていた。

 

「実は、フォークソング同好会に

入ったんだけど、

オフコースをやるらしくて。

僕、オフコースをよく知らないんだ」

当時、バンドをやるなんて、

田舎町ではかなりハイカラなことだった。

物静かで秀才タイプののぶくんが

バンドをやるとは。

 

「そうなんだ。オフコースなら

CDを何枚か持っているから、

貸してあげるよ」

そう答えた僕であったが、

何枚かではなかった。

当時、出ていた全部を持っていた。

「そうなんだね。ありがとう」

 

その週にはベストのようなCDを

のぶくんに貸した。

その後も、何枚か貸した。

自分が聴いている好きな歌手の

カセットテープやCDを貸すことは、

とてもうれしいことだった。

僕だけではない。

みんなそうして、自分のお気に入りを

友達や気になる女の子に貸していた。

 

僕には、高校3年間、

ずっと好きだった女子がいた。

同じクラスだったけれど、

話す機会も少なくて、結局、

気持ちを伝えることすらできなかった。

彼女はモテる人だったから、

同じクラスの男子と付き合っている、

という話もあったし、

その噂の彼と二人乗りで

自転車に乗っている姿を見たこともあった。

 

つまり、

僕は彼女を見ようとしなかったのだ。

怖かったのかもしれない。

彼氏がいる事実を知ることや、

ふられるであろう自分の姿を

見ることが。

 

・・・・

のぶくんにCDを貸してからすぐ、

のぶくんとオフコースの話を

するようになった。

「秋の気配はいいね」

「言葉にできないは、名曲だね」

なんて。

そして、のぶくんは文化祭で

オフコースをやったよ、と

話してくれた。

のぶくんは確かベースだったと思う。

 

やがて時は流れて、

僕が東京から地元に戻った頃、

CALLという2人組のバンドが

メジャーデビューした。

その2人は僕と同い年で、

のぶくんと一緒の

フォークソング同好会だったという。

 

さっそくCALLのCDを買って聴いてみると、

オフコースっぽいところがある。

そういえば、

「オフコースが好きなのがいてね」

と、のぶ君が言っていた。

 

そのアルバムの1曲が、

今でも僕の心の中で、時折、流れる。

 

 

CALL「Parallel Line」。

 

平行線か。

高校3年間、好きだった彼女とは

まったくの平行線だった。

でも振り返ってみると、

高校時代だけじゃない。

いつも僕の恋は平行線だった。

僕は、ちゃんと

その人を見ることができなかった。

気持ちを伝えることができなかった。

 

同じ時間を、並んで歩いただけだった。

 

CALLは、20代のうちに解散して、

メンバー2人とも社会で活躍している。

のぶくんも、

東京の誰もが知る大企業で働いている。

いつだったか、話をしたとき、

「覚えているよ。オフコース、借りたの」

そう、のぶくんは言ってくれた。

好きだった彼女は、

今も変わらずあの時のまま、

可愛いままだ。

 

みんな、同じ時間をそれぞれ歩いてきた。