数多い想い出の中に、

あれは本当だったのかな?

現実だったのかな?

夢だったのかな?

というのがある。


あれは高校に入学したばかりの初夏。

もちろん、本当にあったことだけれど、

時々想い出しては、

夢かうつつか分からなくなってしまう。。。


高校に入学した僕は、

いきなり何かに悩みだし、

不登校になってしまった。

6月のひと月を丸々休んでしまった。


この学校にはもう行かないだろう、と

教科書をこっそり取りに行ったり、

高校の夜間部の願書を取りにも行った。

それでも7月に入り、

僕は元通り高校に通うようになっていた。


ちょっとした風邪のようなものだったから、

特に理由もなく不登校になり、

特に理由もなく元に戻った。

若いころの風邪である。


元通り、と言っても、

まだまだ心に惑いは残っていた。

気恥ずかしくもあった。


そんな気持ちの中、

松本駅から真っ直ぐ大通りを歩いて、

あがたの森公園を抜けて高校に通っていた。

ゆっくり歩いて30分くらいであったろうか。


復帰してすぐであった。

その道のりを、

ある彼女と僕は一緒に歩いていた。

彼女は、小学校のクラスメイトで、

中学も同じ学校。家も同じ地区であった。

幼馴染みの女の子である。


彼女は優秀で、僕とは違い、

市内でもトップクラスの進学校に通っていた。

その高校は、

僕の高校と目と鼻の先であった。

高校は違えど道のりは一緒であった。


彼女は小学3年生の頃、

引っ越してきた転校生で、

明るく活発で勉強もできた。

スポーツも万能で、

特に水泳は男子の誰よりも速かった。

聡明で快活であった。


何より美人であった。

大きな瞳が特徴的で、

誰しもが引き込まれた。

すぐに女子のリーダーとなり、男子にもモテた。

中学に進んでからも、

その美貌も何もかも変わらなかった。


この頃の彼女は、

どこから見ても輝きを放っていた。

そして、僕はこの輝きに魅了されていた。

しかし、どうみても高嶺の花であった。


そんな憧れの彼女と、

2週間ほどだっただろうか。

ほぼ毎日、一緒に歩いた。

何を話したのか。

まるで覚えていない。

高校生になってだいぶ彼女が

大人びて見えたのは覚えている。


不思議な時間であった。

気がつけば、心の中にあったモヤモヤも、

すっかり僕の中から消えていた。


夏休みが近づいたころ、

この不思議な時間も、

何事もなかったように、自然と終わった。

若い頃の出来事である。

朝が来て、昼になり、

夕暮れになって、夜が来る。

そこに何の理由も無かった。


今思えば、彼女の方から

声をかけてきてくれた気がする。

ある意味、人生で一番最初の挫折を、

幼馴染みの彼女が

助けてくれたのかもしれない。


その後、僕は素晴らしい高校時代を送り、

東京の専門学校に進んだ。

彼女は、高校卒業後、

金沢の大学に進学したようだった。

それから地元の松本へは、戻っていないと思う。

僕の実家は無くなってしまったから、

余計に分からない。


大通りを一緒に歩いたあれから、

彼女とは一度も会っていない。

不思議なぐらいに。

これからも、もう会うことは無いと思う。


でも、それで良いと思う。

このまま美しい想い出のままで残ってほしい。

そんなにうまくはいっていないだろうが、

あの頃の輝いたままの彼女でいてほしい。

少なくとも僕の中では、

ピッカピカの彼女が今も生き続けている。


時々想い出す。

このことは本当のことだったのかどうか。

やっぱり夢だったんじゃないかと。

まあ夢でもいい。

ひと言彼女に、ありがとう。