子ども会では、毎年この時期にハロウィンでおばけの仮装をして、近所の家を回るイベントがある。僕ももう六年で今年が最後だから、気合を入れてオオカミ男のお面を作った。お母さんからもらった茶色の毛糸でタテガミなんかもつくって、自分でもすごくカッコよくできたと思う。
日曜の夕方、いってきますと言って外に飛び出したときにはもう僕はオオカミ男。このイベントの間は、家の外ではずっと仮装してないといけない決まりで、おばけになりきるのが面白いんだ。
集合場所の公園に行くと、もうみんな集まってる。外見からは誰だかわからないやつもいるけど、みんなきちんと仮装していて、なかなかの力作ぞろいだった。
中でもひょろっと背が高いのはきっとノボルだろう。僕とおなじクラスで、体は大きいけどおとなしくて気が弱いやつだ。青くぬって目のところに穴をあけた紙袋(あちこちにマジックで傷みたいなもようがかいてある)をかぶり、もじゃもじゃのカツラのようなものを頭にのせている。頭の左右には、ほんもののボルトが飛び出していて、これはフランケンシュタインってやつだろう。
「遅いわよ、オオカミ男さん」
麦わら帽子を改造して作ったつばの広いとんがり帽子をかぶり、学校の理科倉庫からもらってきたふるい暗幕をマントがわり身に着けた女の子が話しかけてきた。クラスの委員長で、子ども会のリーダーもやっているクミだ。言いたいことをなんでもズケズケ言う性格で、僕はちょっとにがてだ。魔女の格好は、すごく似合ってると思ったけど、言ったら怒るかもしれないからやめておいた。
六年生はこの三人だけで、あとは下級生。毎年、最上級生が下級生を連れていろんな家をおどかしに行くことになっている。去年までは、僕もお兄さんたちについて行けば良かったけど、今年は責任重大だ。
「じゃあ、いくよー!」
「おー!」
元気なクミの声のあとに、僕らや下級生の子たちのかけ声がつづいた。
一時間たって、すっかり暗くなってきた。夏のときは、この時間ならまだ明るかったのに、日が短くなってきたんだ。僕らは町内をねり歩き、自分たち以外の家をおどかして(それぞれの家の人たちは、おおげさに驚いてみせたあとに、お菓子をくれるんだ)回った。終わりの時間になったので、また集合場所の公園に戻ってきて、解散になった。そこでもやっぱりクミがリーダーだけに最後のあいさつをして、僕とノボルに命令をした。
「アタシ、三丁目の子たち送っていくから、アンタたちも自分の近所の子をちゃんと家まで送っていきなさいね」
言われなくても分かってる。最上級生の責任だ。魔女、フランケン、オオカミ男のまわりに、それぞれの地区の下級生たちが集まってきて、僕たちは別れた。僕の家のある一丁目は、公園から近いから、次々に小さなおばけたちは自分の家の前で元気よく
「バイバーイ」
と手を振って別れていく。僕たちも手を振り返す。やがて、一緒にいる下級生は一人だけになった。おおきなカボチャをくり抜いてつくったお面(ジャック・オー・ランタンってやつだ)をかぶっている子。真っ赤なTシャツを着ている。このカボチャは、じつは僕の去年のお下がりだ。隣に住んでいるユウキくんが、子ども会の工作の日に熱を出して休んでしまって作れなかったから、僕が貸してあげたんだ。
「よし、じゃあユウキくん、帰ろうか」
カボチャ頭がコクンとゆれた。ユウキくんは二年生で、あまりしゃべらない、静かな子だけど、家が隣どうしなのでよく遊んであげていた。トイレに行くときに一人で行けず、一緒についてきて、とねだるような甘えん坊だったけど、僕も弟がいなかったら可愛かった。彼が手をのばしてきたので、手をつないでブラブラふりながら歩いて、家の近くまで帰ってきた。
ところが、家の前にきても彼は手をはなさないで、どんどん歩いていこうとするので、僕はあわてた。
「ねえ、ユウキくん?もう家過ぎちゃったよ!」
僕の手をにぎる力、引っぱる力がどんどん強くなり、なぜかさからえなかった。車がたくさん通っている大通りまで来てしまい、信号は赤なのに横断歩道を渡ろうとしはじめた。そのときくるりとカボチャ頭が振り返り、切り込みの入った奥から声が聞こえた。
「オニイチャン、イッショニイコウヨ」
目の前にトラックが迫っていた。
(おわり)
日曜の夕方、いってきますと言って外に飛び出したときにはもう僕はオオカミ男。このイベントの間は、家の外ではずっと仮装してないといけない決まりで、おばけになりきるのが面白いんだ。
集合場所の公園に行くと、もうみんな集まってる。外見からは誰だかわからないやつもいるけど、みんなきちんと仮装していて、なかなかの力作ぞろいだった。
中でもひょろっと背が高いのはきっとノボルだろう。僕とおなじクラスで、体は大きいけどおとなしくて気が弱いやつだ。青くぬって目のところに穴をあけた紙袋(あちこちにマジックで傷みたいなもようがかいてある)をかぶり、もじゃもじゃのカツラのようなものを頭にのせている。頭の左右には、ほんもののボルトが飛び出していて、これはフランケンシュタインってやつだろう。
「遅いわよ、オオカミ男さん」
麦わら帽子を改造して作ったつばの広いとんがり帽子をかぶり、学校の理科倉庫からもらってきたふるい暗幕をマントがわり身に着けた女の子が話しかけてきた。クラスの委員長で、子ども会のリーダーもやっているクミだ。言いたいことをなんでもズケズケ言う性格で、僕はちょっとにがてだ。魔女の格好は、すごく似合ってると思ったけど、言ったら怒るかもしれないからやめておいた。
六年生はこの三人だけで、あとは下級生。毎年、最上級生が下級生を連れていろんな家をおどかしに行くことになっている。去年までは、僕もお兄さんたちについて行けば良かったけど、今年は責任重大だ。
「じゃあ、いくよー!」
「おー!」
元気なクミの声のあとに、僕らや下級生の子たちのかけ声がつづいた。
一時間たって、すっかり暗くなってきた。夏のときは、この時間ならまだ明るかったのに、日が短くなってきたんだ。僕らは町内をねり歩き、自分たち以外の家をおどかして(それぞれの家の人たちは、おおげさに驚いてみせたあとに、お菓子をくれるんだ)回った。終わりの時間になったので、また集合場所の公園に戻ってきて、解散になった。そこでもやっぱりクミがリーダーだけに最後のあいさつをして、僕とノボルに命令をした。
「アタシ、三丁目の子たち送っていくから、アンタたちも自分の近所の子をちゃんと家まで送っていきなさいね」
言われなくても分かってる。最上級生の責任だ。魔女、フランケン、オオカミ男のまわりに、それぞれの地区の下級生たちが集まってきて、僕たちは別れた。僕の家のある一丁目は、公園から近いから、次々に小さなおばけたちは自分の家の前で元気よく
「バイバーイ」
と手を振って別れていく。僕たちも手を振り返す。やがて、一緒にいる下級生は一人だけになった。おおきなカボチャをくり抜いてつくったお面(ジャック・オー・ランタンってやつだ)をかぶっている子。真っ赤なTシャツを着ている。このカボチャは、じつは僕の去年のお下がりだ。隣に住んでいるユウキくんが、子ども会の工作の日に熱を出して休んでしまって作れなかったから、僕が貸してあげたんだ。
「よし、じゃあユウキくん、帰ろうか」
カボチャ頭がコクンとゆれた。ユウキくんは二年生で、あまりしゃべらない、静かな子だけど、家が隣どうしなのでよく遊んであげていた。トイレに行くときに一人で行けず、一緒についてきて、とねだるような甘えん坊だったけど、僕も弟がいなかったら可愛かった。彼が手をのばしてきたので、手をつないでブラブラふりながら歩いて、家の近くまで帰ってきた。
ところが、家の前にきても彼は手をはなさないで、どんどん歩いていこうとするので、僕はあわてた。
「ねえ、ユウキくん?もう家過ぎちゃったよ!」
僕の手をにぎる力、引っぱる力がどんどん強くなり、なぜかさからえなかった。車がたくさん通っている大通りまで来てしまい、信号は赤なのに横断歩道を渡ろうとしはじめた。そのときくるりとカボチャ頭が振り返り、切り込みの入った奥から声が聞こえた。
「オニイチャン、イッショニイコウヨ」
目の前にトラックが迫っていた。
(おわり)